33.三人の密会
「お待たせっ!」
放課後。俺と山下が校舎裏で待っていると、一分と経たずに金城が姿を現した。
「それで、二人は仲直りできたんだよねっ?」
金城もその答えは知っている。だがそれでも、俺たちの口から直接聞きたいと、不安そうな目を向けてくる。
俺は山下と顔を見合せ、一歩前に出た。
「ああ。金城さんありがとな。山下さんの誤解を解いてくれて」
「当然だよ。元はと言えばあたしのせいだし……」
「ううん。愛希は悪くない……わたしの早とちりのせい……」
山下と金城が自責の念に駆られて空気が重暗くなる。だが、その空気はすぐに金城が吹き飛ばした。
「って鈴、この話はもう水に流す流れになったじゃん! もう暗い話はやめよっ?」
そう言って顔を上げた金城は、ニッといたずらっぽい笑みを湛え、おどけた声を上げる。
「それよりさ。あたしは今日二人が一緒に走って登校してきた理由が気になるんだけどなー?」
「「えっ……!?」」
俺と山下は、金城の言葉に対し同時に驚きの声を上げた。
今日は確かに一緒に来たけど、山下とは時間差で教室に入ったよな? なんで……。
「それは、その……」
山下は耳に髪をかけながら視線を逸らし、言葉に詰まった。
「……マジで? ホントに二人って今日一緒に学校来たのっ!?」
どうやら金城の言葉は単なる鎌かけだったらしい。彼女は信じられないものでも見たかのように目を見開き、俺を見た。
「まさか町川。もう鈴と──」
「違うって! 俺はそんなことしてない」
「じゃあなんで二人は一緒に、しかも時間ギリギリで学校来たの?」
「それは……」
訝しげに目を細める金城に、俺は口をつぐんだ。
山下さんがガンドランの大会に出ることは言えないよな……。
このことを言えば、山下の家の事情を話すことになる。それは、俺の口から言ってはいけないことだ。
俺は金城にジト目を向けられながら、どう誤魔化そうかと必死に頭を働かせていると、ふいに山下が口を開いた。
「愛希。あのね……実はわたし、ガンドランっていうゲームの大会に出ることにしたの」
「えっ、そうなの!? 鈴がFPSって意外だね……だけど、それがどうかし──ああそう言う……」
金城は俺と山下を見比べて、納得の表情を見せた。以前金城には、俺がガンドランの大会で優勝しているところを見られているから、ある程度察しがついたのだろう。
「んっ? 待って。……じゃあつまり、鈴は朝から町川の家に行って練習してたってこと?」
「うん。でもこれには理由があるの……」
山下は薄灰色のスカートの裾をギュッと握り締め、目には不安の色を浮かべる。そんな山下の様子に、金城はおふざけ半分のジト目をやめ、山下に向き合った。
「あのね愛希。わたしのお母さん、病気なの。それで──」
そうして山下は、金城に事情を話し始めた。家が貧乏なことや母親が病気なこと。父親もいなくて、母親の手術費用が足りないこと。それから、ガンドランの大会優勝賞金があれば手術費を賄えると知って、初心者ながらチームの優勝に貢献しようとしていること。
バイトをしていることは話さなかったが、金城に隠したというより、今は話さなくてもいいと思っただけだろう。
「そうだったんだ。……部外者のあたしなんかが言うのもあれだけど……大変だね」
「ううん気にしないで。お母さんの病気は今のままでも悪化することはないし、それに……町川くんと一緒にゲームができて楽しいの」
そう言う山下は、ほんのりと頬を赤く染め、口元に微笑みを湛える。心底うれしそうな山下に、金城は誰にも気付かれないほど短い間だけ、辛そうに唇を噛みしめた。それからすぐに、金城は友人をいたわる柔和な笑みを取り戻す。
「そっか……とにかく鈴が楽しいならよかったよ!」
「うん。……ごめんね。こんな話……」
山下が暗い話をして申し訳ないと謝る。すると、金城はそんなことを気にする素振りも見せずに、いつもの明るい声を響かせた。
「そんなこと気にしてないよ? でも鈴ばっかりずるいよー! あたしも町川の家行ってみたいっ! ……ダメっ?」
一気に俺との距離を詰め、懐から俺の顔を見上げてくる金城。彼女からは洗剤のいい匂いが漂ってきて──。
……っ!
俺が体中に熱を持つ感覚に一歩下がると、金城は冗談とも本気ともつかない不敵な笑みを浮かべた。
「にひひ! 町川顔赤くなっててカワイイー!」
「……っ。うるさい……」
すると金城は名残惜しそうに目を細め、それから弾むような後ろ歩きで数歩下がった。
「じゃああたしそろそろ行くねっ! 鈴、町川! 何かあたしにできることがあったらいつでも言って。手伝うから」
それだけ言い残して、金城は校舎の陰に消えていく──と思ったが、金城は急に立ち止まり、俺たちを振り返る。
「それと町川。あたしが町川の家に行ってみたいのはガチだから!」
そうして、太陽のように明るい挑戦的な笑みを見せた金城は校舎裏から去っていく。校舎裏に残された俺と山下は互いに目を見合わせると、山下が先に口を開いた。
「愛希ってすごいよね。愛希がいると、暗い話もすぐに明るい話題になっちゃう」
「そうだな。どうやったらあんなコミュ力身に付くんだ?」
それから一瞬間を置いて、俺は名残惜しくも口を開く。
「それじゃあ、俺も帰る。……山下さん、バイト頑張ってな」
「うん。……また、明日」
この話を読んでいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思っていただけたら、
ブックマーク登録や感想、
↓の「☆☆☆☆☆」をタップして、応援していただけるとうれしいです!
星はいくつでも構いません。評価をいただけるだけで作者は幸せです。




