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メイドカフェでクラスの清楚系貧乏美少女が働いていた!?~バイト禁止の学校に通う俺は、同じクラスの美少女と【秘密を共有】する~  作者: 早野冬哉


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28/32

28.起床、説得

「ん……」


 俺は山下家のちゃぶ台にうずめていた顔を上げる。寝ぼけた意識のままスマホの時計を確認すると、土曜日、朝の八時十六分と表示されていた。


「町川くん起きたの?」


 声のした方を向くとそこでは、山下母が朝食の準備をしている。後ろを振り向くと、山下はまだ心地よさげな寝息を立てて寝ていた。


「……すみません。俺も手伝います」


「ありがとうね。じゃあ食器を並べてもらえる?」


「はい」


 俺は眉間を手のひらで押して、眠気を覚ましながら立ち上がる。それから俺は、コップと箸、米が盛りつけられた茶碗をちゃぶ台に並べていく。その時、ふいに山下の目が開いた。


「あ……おはよう、山下さん」


 昨日、山下は学校から帰るとセーラー服と靴下を脱いだだけで着替えず、すぐ眠りについた。だから今、目を擦りながら上体を起こした彼女は春歌高校の指定Tシャツに、制服の薄灰色のスカートを身に着けている。


「おはよう……町川くん。……もしかして、うちに泊まったの?」


「ああ……」


 ……っ。


 シワの付いた白いTシャツから覗く山下の肩や、タオルケットから覗く素足。学年トップの美少女が見せる無防備な姿に、俺は思わず目を逸らした。


「おはよう鈴。朝ごはんできてるわよ」


「うん……」


 まだ薄っすらと寝ぼけている山下はちゃぶ台の横に座る。そうしてまた山下と目が合いそうになると、俺は慌てて食器を並べ、キッチンへ引き返した。


「ふふっ……どう? 町川くん。寝ぼけてる鈴はかわいい?」


「……っ。……はい」


 みそ汁を汁椀に注いでいた山下母はからかい混じりに優しく微笑み、俺に汁椀を手渡す。


「鈴が寝ぼけるなんて珍しいのよ? 随分とぐっすり眠れたみたいね。これも町川くんのおかげよ」


「はあ……まあとにかく、山下さんがぐっすり眠れたみたいでよかったです」


「ふふっ……そうね」


 二人で三人分の汁椀を運び、ちゃぶ台の周りに腰を下ろす。するとその時、山下が俺の顔を見て、寝ぼけて半開きになっていた目をはっきりと開いた。


「ま、町川くん……! ……泊ったの?」


「ああ。まあ……さっきも言ったけど」


「そう、なんだ……」


 山下は視線を下げて押し黙る。俺もどこか気まずくて首をかく。そんな俺たちの様子を見ていた山下母は、クスクスと肩を揺らした。


「二人とも、まずは朝ごはん食べましょう?」


「……うん」


「……はい。いただきます」


 こうして、俺たちは山下母を中心に会話を続けながら朝食を食べた。


***


「ご馳走様でした。みそ汁、おいしかったです」


「町川くんの野菜炒めもおいしかったわ。ありがとう」


「いえ……」


 朝食を摂り終え、時刻は九時を回っていた。山下母の話によると、山下が今日のバイトに行くため家を出るのは午前十時過ぎらしい。


 それまでに、バイトを減らすよう山下さんを説得しないとな……。


 俺は山下母とアイコンタクトを交わすと、さっそく本題を切り出した。


「山下さん。少しバイトを減らしてくれないか?」


「えっ……!?」


 俺の言葉を聞いた途端、山下は母親に視線を送る。すると山下母は頷き、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。


「昨日、町川くんにはうちの事情を話したわ」


「どうして……」


「鈴。お母さんは鈴の重荷にはなりたくないの。アタシの病気は今のままでも悪化しないんだから、手術費は鈴が社会人になってからでもいいのよ」


 幼子を諭すような柔らかい声で、山下母は山下をやんわりと説得する。しかし山下は、決意の固まった真っすぐな目を母親に向けた。


「でも、わたしは早くお母さんに元気になってもらいたいの。お母さんだってわたしが中学校を卒業するまではずっと働き詰めだったよね? ……だからわたしもお母さんと同じくらい働いて、お母さんに恩返しがしたいの」


「鈴……」


 話が平行線になり、二人が口を閉ざす。その沈黙に、俺はつけ込んだ。


「山下さん!」


「町川、くん……!?」


 突然の大声に驚く山下。彼女は俺を見て目を丸くした。


 俺は昔っから自己中なんだ。今更遠慮する必要なんてないだろ!


 親子の会話に土足で踏み込み、俺は羞恥心も忘れてただ純粋に願いを告げた。


「俺は山下さんに倒れるまで働いてほしくない。山下さんが辛い思いをするのを見たくない。だからせめて、コンビニと新聞配達のバイトは辞めてくれ!」


 俺は言葉を飾らず、押しつけがましい願望を羅列する。だが山下は、なおも首を横に振った。


「町川くんが心配してくれるのはうれしい……でもわたしは──」


「俺はもう嫌なんだよ! 山下さんが疲れた顔でバイトしてる姿はもう見たくないんだ」


「……でも、わたしだって辛そうなお母さんを見たくないの……! わたしさえ頑張ればお母さんが楽になれる。そうでしょ?」


 山下の声はいつにもまして感情的に震え、今にも張り裂けそうなほど切迫していた。つられて俺も頭が沸騰し、山下に反論しようと口を開く。


「それは違──」


「それは違うわ、鈴」


 俺の声に被さった山下母の声に、俺は口を閉ざす。山下母が見せたのは娘を叱る母親の、冷たくも思いやりにあふれた強く優しい目。山下母のその目を見て、俺は額を押さえ自分を戒めた。


 バカすぎる……! これは俺が言っちゃダメだろ……。これは山下のお母さん自身が言わないと意味がない。


「お母さん……?」


「アタシはね、病気よりも、鈴が無理して辛そうにしているところを見ることの方がよっぽど辛いの」


「でも……」


 山下の瞳が大きく揺らぐ。母親の言葉に、彼女は何も言い返せず目を伏せた。けれど、山下がバイトを減らす決断を下すにはまだ一歩足りない──そんな雰囲気に、俺は一つの賭けに出る。


 これで山下の説得に失敗すれば、せっかくここまで山下を揺らがせた流れも途切れる。だが成功すれば、山下が持つ母親の手術費が稼げなくなるという罪悪感を拭うことができるかもしれない。そんな賭け。


 頼む山下さん。この話に乗ってくれ……!


「山下さん。山下さんがバイトを減らしてくれるなら、俺に一つ、お母さんの手術費を稼ぐ考えがある」


「それって?」


 すぐさま山下が反応した。対して山下母は、危ない手段じゃいのかと不安そうな目を向けてくる。


「もちろん博打や危ない仕事じゃないですよ」


 俺は山下母の不安を解消してから、山下に向き直った。


「山下さん。実は俺、この前ガンドランっていうFPSの三人制世界大会で優勝したんだ。それでその時の賞金は……三千万」


「えっ……世界大会優勝……? 賞金三……えっ?」


 あまりの額に理解が追い付かないといった様子の山下に、俺は本題を告げる。


「それで今度、ガンドランの四人制の世界大会があるんだ。それに山下さんも一緒に出ないか? 優勝賞金は五千万。賞金は四人で山分けにするが、それでもお母さんの手術費──一千万には足りるだろ?」


「足りる……けど、わたし、ゲームなんてやったことないの……町川くんの足を引っ張るだけでお金をもらうなんて、できない……」


 一瞬食いついたように見えた山下だったが、すぐにまた俯き、自分を責め始める。そんな山下に、俺は説得を続けた。


「そこは俺に考えがある。大会まではまだ三週間近くあるからな。それだけあれば操作にはなれるし、何かを一点特化で練習すれば最低限戦える」


「でも、最低限なんだよね? それだけじゃ──」


 なおも参加に否定的な山下の前で俺は、あえて傲岸不遜に、絶対的な自信に満ちた笑みを浮かべて見せた。


「それに俺たちは、前の世界大会では奇策を使って優勝したんだ。奇策っていうのは案外、メンバーにレベル差があるチームの方が練りやすいんだよ。相手が誰をどう狙ってくるか読みやすくなるからな」


「そう、なの……?」


 半信半疑で顔を上げる山下の目には、確かに期待の色が浮かんでいた。俺はその期待に応え、山下に手を伸ばす。そして、三人制の世界王者としてのプライドと、山下の友達としての強い願いを込めて、俺は声を張った。


「ああ。だから山下さん。バイトを減らして一緒にガンドランの大会に出てくれ! 俺が必ず、山下さんを()()()()()()()()優勝させるから!」


 初心者を連れて、しかも初心者を活躍させて世界大会で優勝する。そんなあまりにも傲慢な宣言を、俺は一切の躊躇なく言い切った。すると、まだ迷いがある山下に山下母は微笑んだ。


「鈴。アタシのことは気にしないで、好きな方を選んでいいのよ」


「お母さん……」


 母の言葉を聞いた山下は、俺の顔と差し出した俺の手を交互に見る。それから、鈴を転がすような美しい囁き声を出した。


「本当に、いいの……?」


「ああ」


「本当に?」


「ああ」


 何度も確認してくる山下に、俺は神妙に頷く。それから、山下は自分の手を俺の手に重ねた。


「町川くん。……わたし、頑張るね」


「ああ。改めてよろしくな。山下さん」


 重なった山下の手はマシュマロのように柔らかく、温かかった。

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