22.すれ違い
山下と屋上で弁当を食べた、翌日の火曜日。
やっぱり、こないよな……。
昼休み。俺は一人、空き教室で掛け時計を見上げていた。時刻は一時十分──昼休み終了十分前。それでも、山下はまだ来ていなかった。
スマホを見ると、
「山下さん、空き教室に来てくれないか? 昨日のことで話がしたい」
という、俺が二十分くらい前に送ったロインメッセージにも既読は付いていなかった。
どうすればいいんだ……山下さんと話そうにもその機会がないし……。
教室で話しかけるのは山下からしたらいい迷惑だろう。かといって、山下がバイトしているメイフィーに押し掛けるのも迷惑。それにそもそも、山下のシフトが入っているのは木金土日月曜日──早くとも明後日だ。
朝も走ってみたけど、新聞配達中の山下とは会えなったし……何か山下さんと話す手はないのか?
しばらく悩んでも結論は出ず、仕方なく俺は弁当を開く。そうして、久々に一人で昼食を摂った。
***
同日。五時間目の数学で、山下は鬼教師本堂に当てられて黒板に板書する。その後ろ姿を見て、あたしは目を細めた。
山下さん絶対、あたしと町川が付き合ってるって誤解してるよね……。
昨日の昼休み。偶然、町川と山下が屋上から出てくるところに鉢合わせた時から、あたしは何度も山下と話をしようとした。けれど毎回、話しかける前に逃げられたり、
「わたし、用事があるので……」
とか、
「次の授業の準備をしないと……」
と言って会話を拒絶されたりして避けられ続けている。
……でも、絶対に誤解は解く。あたしは町川に告白を断られた時から、山下さんと正々堂々戦うって決めてるんだからっ!
「相変わらずさすがだ山下。今回も完璧な回答だよ」
本堂に軽く頭を下げ、自分の席へと戻っていく山下の横顔には、まるで生気を感じられなかった。
やっぱ無理やりにでも山下さんと話そっ……今日の放課後にでも──。
「じゃあ次の問題は、金城。おまえが解け」
「えっ!?」
「『えっ』じゃない。早く前に出てこい」
なんで今日に限ってっ……!
本堂に当てられたら最後、その日の放課後には地獄の補修が待っている。これでは、放課後に山下と話すことができない。問題に正解すれば補修は免れるが、あたしにはまったく解けなかった。
「金城は解けないか……だったら補修だな! 今日の放課後、すぐに数学教室に来いよ」
ニタニタとした笑みを浮かべる本堂にそう言われて、あたしは歯ぎしりした。
……今日は無理でも、明日絶対山下さんの誤解を解く!
そう心に決めて、あたしは席に戻った。
***
「それじゃあ山下ちゃん。今日からよろしくね」
同日。放課後。わたしは家から近いコンビニでアルバイトを始めた。メイフィーのアルバイトがない火曜日と水曜日にも働いて、少しでも早く、お母さんの手術費を稼ぐためだ。
「よろしくお願いします。堀江さん」
「ええよろしくね。それじゃあ早速、レジの操作から教えるわね」
「はい」
「まずは──」
話好きなおばさんといった雰囲気の堀江は、レジの操作を一つ一つ丁寧に教えてくれる。けれど、説明を聞いている時にふと、脳裏に町川の顔がチラついた。
もう、町川くんとは昼休みに会えないんだよね……。……一緒にお弁当を食べて勉強して、それだけで楽しかったのに……。
「……? どうしたの山下ちゃん、何かわからないところでもあった?」
「えっ……!? あ、いえ……大丈夫です」
町川のことばかり考えていて話を聞いていなかった。幸い、わたしはメイフィーでの経験からレジの操作はわかる。だが話を聞いていなかったことに変わりはない。
わたしはすごく申し訳ない気持ちになって、目を伏せた。
「そお……? わからないところがあったら遠慮なく聞いてね」
「はい……」
「じゃあとりあえず次は、棚出しの仕方について教えるわね」
「はい」
堀江は少し心配そうに首を傾げてから、棚出しの説明を始めた。わたしは、町川のことを頭の中から振り払って堀江の説明に聞き入った。
……今は、アルバイトに集中しなきゃ。
胸にポッカリ穴が開いたような空虚感を押しのけ、わたしはコンビニの仕事に打ち込む。こうして、わたしの週七アルバイト生活は始まった。




