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メイドカフェでクラスの清楚系貧乏美少女が働いていた!?~バイト禁止の学校に通う俺は、同じクラスの美少女と【秘密を共有】する~  作者: 早野冬哉


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21.屋上

「今日の昼休みにある二者面談だが、化学準備室が使えなくなった。代わりに四階の一番西にある空き教室。あそこを使うから間違えるなよ」


 ん? てことは今日、昼休み空き教室が使えないのか。


 金城たちと遊んだ翌週の月曜日。俺はホームルームが終わるとすぐ、山下にロインを送った。


「今日どうする? どこか空いてそうな教室知らないか?」


 すると、前の席に座る山下はすぐに着信に気付く。スマホを取り出した山下は、何か文字を打ち込み始めた。その時。


「町川ー! ちょっと来てくれ」


 担任の森田先生が、教室入り口あたりで俺を呼んだ。俺は無言で立ち上がり、森田のところまで歩く。


「何ですか?」


「そう不機嫌そうな顔するなよ町川」


「俺、そんな顔してますか?」


「ああしてるぞ。おまえはおまえが思っている以上に顔に出やすいからな。……ほれ!」


 髪が薄く白くなっている初老の森田は、薄く歯を見せて笑うと鍵を放り投げた。


 また雑用か……。


 またいつもの雑用を頼まれるのかと思い、俺は半ば呆れ気味に鍵をキャッチする。


「俺、先生の雑用係じゃないんですけど」


「まあそう邪険にするな。それに今日は違うぞ。その鍵、よく見てみろ」


 俺が向けた白い目を笑ってかわし、おどけた口調で鍵を見るよう促す。俺は言いくるめられているようで癪だったが、言われた通り鍵を見た。するとタグには、「屋上」と書かれていた。


「これって……屋上の鍵ですか? なんで……」


「今日はおまえたちの愛の巣を使っちまうからなぁ……その代わりだ」


 愛の巣って……っていうか、やっぱり先生は俺と山下さんが昼休みに会ってることを知ってたんだな。


 森田には俺と山下の関係が知られていた。その理由がやっと腑に落ちた。


「ありがとうございます」


「おう」


 俺は気を取り直してお礼を言い、自分の席に戻った。そしてすぐにロインを開くと、山下からのメッセージが表示されていた。


「ごめんなさい。わたしも空いている教室に心当たりはないです」


 相変わらずロインは敬語なんだな。


 山下からの敬語メッセージを見て、俺は表情を緩める。それからスマホの画面に指を走らせた。


「今ちょうど森田先生が屋上の鍵をくれたんだ。今日はそこで食べないか?」


 メッセージを送信し山下を見ると、彼女はきゅっと背中を丸め、大事なものを抱きしめるようにスマホを強く握りしめた。その後山下からは、「はい」という二文字だけの短い返信が来た。


***


「今日、晴れててよかったな」


「そうだね……」


 昼休み。屋上の扉を開けた途端、俺と山下の目には澄んだ青空が飛び込んでくる。俺の後ろでは、山下がサラサラの黒髪を靡かせ、僅かに口元を緩めた。


「ここにするか」


「うん……」


 俺たちは夏の日差しに焼かれながら日陰を見つけ、弁当を開く。人が来ることを想定されていない春歌高校の屋上には金網やフェンスがない。けれどその分、見晴らしはよかった。


「山下さん。高いところは平気か?」


「うん。大丈夫」


「なら、こっち来ないか? 景色いいぞ」


 俺が視線で下を指すと、山下は屋上の端に沿うように座り直した。そして、山下が眼下に広がる景色を目にした瞬間、彼女の目は一段と見開かれた。


「すごい……きれい……」


 眼下に広がっていたのは、コンビニやスーパーが点在する住宅街。日差しによって屋根や壁面は明るく彩られ、同時に建物が作る影を強調する。更に、暑い日差しによって遠くの景色がぼやけ、窓は日差しを反射して煌めく。


 それらが相まって、町は天然のイルミネーションで飾られていた。


「ああ……きれいだな……」


 ふと俺は、隣で町の風景を覗き込んでいる山下を見る。風に靡く黒髪がチラつく山下の横顔は、シャボン玉のように繊細できれいで、尊く思えた。


 君のほうがきれいだよ、とか、俺には絶対言えないな……。


 山下は俺の一番近くで輝いていてくれる。けれど俺なんかが手を伸ばせば火傷してしまう存在。そう自分に言い聞かせ、内心自嘲する。俺は唐揚げを口に入れて、視線の先を景色に戻した。


「あ、ここから自然公園って見えるんだな」


「本当だ……」


 この前、山下と二人で出かけた時に一緒に本を読んだ自然公園を指さすと、山下も見つけ声を漏らす。それから山下は零すように呟いた。


「また、一緒に行きたいな……」


 ……っ!?


「山下さんそれって──」


「……っ!? ごめん。今のは忘れて……」


 手で口を塞ぎ頬を赤く染め、慌てて顔を逸らす山下。だが、長い黒髪から覗く耳の赤さまでは隠しきれていなかった。その様子に、俺はこみ上げてくる笑いを堪えることができなかった。


「ハハッ! そうだな。また行こう」


***


「そろそろ戻るか」


 屋上での昼休みはあっという間に過ぎた。スマホを見ると、時刻は一時十八分──昼休み終了の二分前と表示されていた。


 弁当と勉強道具を片付け、俺と山下は一緒に屋上を出る。そして俺が屋上の鍵をかけるために残り、山下が先に教室に戻る。そうすることで二人のところは誰にも見られない──そのはずだった。


「……っ!?」


 背後から、先に階段を降りようとした山下が息を呑む音が聞こえる。


「どうした? 山下さん」


 俺が振り返って最初に目が合ったのは山下──ではなく、たまたま階段の下を通りかかった金城だった。


「あっ……ごめ──」


「違うの金城さん……これは、違うの……」


 山下はボソボソとうわ言を呟く。目を見開き唇を震わせ、怯えた表情の山下は首を横に振り、逃げるように金城の横を走り抜けた。


「ちょっと山下さんっ! 大丈夫だって! あたしは──」


 慌てて呼び止める金城。だが山下は止まらず、教室の中に入っていった。


「山下さん、どうしたんだ……?」


「町川……」


 階段を降りた俺が疑問を口にすると、金城は苦い顔をした。


「たぶんだけど……山下さん、あたしが町川に告白したの聞いてたんじゃないかな」


 金城は心苦しそうに目を細めて、腰に巻いたカーディガンの裾を握り締めた。


「屋上の前ってここからでも声聞こえるから……もしかしたら山下さん、あたしが町川の彼女だって勘違いしてるんじゃないかな……」


 そう言う金城の顔には、一切の打算がない、山下に悪いことをしてしまったという申し訳なさが見て取れた。

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