20.ゲーセン
放課後。俺は金城たちとゲーセンに来ていた。
これでいけるのか?
俺はしっくりこないなと思いながらもクレーンゲームのボタンを離す。すると、アームはウサギのぬいぐるみを捉えた。だが、ぬいぐるみはほんの少し持ち上がった後、すぐに元の場所に落ちた。
「町川っ、クレーンゲーム下手すぎー!」
俺の隣で一部始終を見ていた金城が、すぐさま茶化す。俺は金城から目を逸らし、呟いた。
「いやまあ、やったことなかったし……」
「アハハ! だったらあたしがお手本見せてあげるよっ!」
そう言うと金城は早速硬化を投入し、俺を押しのけてクレーンゲームの前に立つ。
「こうして……ここっ!」
タンッ、タンッとボタンを操作する金城。彼女によって迷いなく操られたアームは、一直線にウサギのぬいぐるみを掴んだ。そうして持ち上げられたぬいぐるみは落とし口へと運ばれていく。
「よしキタっ! これはいったでしょ」
「すごいな……」
勝利を確信した金城の姿に、俺は素直に感嘆する。だが、安定して見えたぬいぐるみは突如、ポトンと台上に落下した。
「うっそー……絶対取れたと思ったんだけどなー。やっぱ美知留みたいにはいかないかぁー」
「ん? 美知留って野原さんのことだよな。そんなに上手いのか?」
のほほんとしたイメージの野原がクレーンゲーム上手だと言われてもピンとこない。俺が首を傾げていると金城が、近くのクレーンゲームに挑む野原を指さした。
「ほら、見てみ! 美知留すごいから」
金城に促され、俺は野原がいるクレーンゲームに歩み寄る。すると、ちょうど野原が硬貨を投入したところだった。
「ん? 愛希どしたん?」
俺たちが近づくと、野原の隣に立っていた芦田ひまりが言外に、
「二人っきりはもういいの?」
と聞いてくる。
「あーいや。ちょっと美知留のクレーンゲームの腕を町川に自慢したくなっちゃってさー」
「ふーん……」
……ん? なんだ?
芦田から一瞬、白い目を向けられた気がしたが、彼女は何事もなかったかのように野原の方を見た。
「いくぞぉー……」
野原は気の抜けた掛け声で気合を入れる。彼女はポワポワした表情のまま、クレーンゲームのボタンを押し込んだ。
「見てて町川。美知留の必殺技が出るよっ!」
得意げな笑顔を浮かべた金城が、俺の半そでの裾を摘み引っ張る。
なんか少し照れ臭いな、これ……。
俺は意識的に金城を視界から外し、野原の操作するクレーンゲームを見た。それは、四角い長方形の箱が透明な床の上に並べられているタイプだ。
「いけぇー……!」
ふにゃふにゃした声とともにボタンから手を離す野原。彼女の手によって操られたアームは、正確無比に箱の角を突く。すると、アームの重みに押された箱がクルッと回転し、落とし口に大きくせり出した。
「すごっ……」
イリュージョンスピン……だったか? 確か、押す場所が少しズレるだけで失敗するかなり難しい技だったよな。……それを一発で決めるのか!?
やがて箱はバランスを失い、落とし口に落ちた。
「ねっ! 美知留すごいでしょ」
「ああ。めちゃくちゃ上手いな」
「でしょでしょ! あっ、でも、美知留に目移りしちゃダメだからねっ!」
俺の懐に踏み込み、金城は挑戦的な笑みで下から俺を覗き込む。
「わかってる……それにそもそも、俺と金城さんは友達なんだから、目移りも何もないだろ」
「アハハ! 町川、説得力なさすぎっ!」
金城から顔を逸らした俺を指さして金城が笑う。顔を逸らすと説得力がなくなるのはわかっていたが、学年トップの美少女が繰り出した上目遣いを直視できるほど、俺は強くなかった。
「ねー愛希、町川。次あれやろー」
金城のもう一人の友達──無気力そうな半目が特徴的な高宮雪音が目で指したのは、レーシングゲームだった。
「オッケー雪音。やろやろっ! ほら、町川も行くよ!」
「ああ。わかっ──」
俺の返事も待たずに金城は俺の手首を掴んだ。そしていたずらっぽい笑顔を浮かべ、俺をレーシングゲームのところまで引っ張っていく。
なんかこれ、友達っぽくていいかもな……。
そう思うと、俺の顔は自然と綻んだ。
「じゃ、順番決めしよっ! ここのは三台しかないからね」
弾んだ声でそう言って腕まくりし、じゃんけんの構えを取る金城。彼女が見せる、裏表のない満面の笑顔に、俺は女子たちの間に混ざるという緊張さえも忘れていた。
***
「じゃ、町川。お先にー!」
じゃんけんの結果、最初にレーシングゲームをするのは金城、野原、高宮の三人になった。その間、俺と芦田ひまりはガラガラに空いている音ゲーの椅子に座って順番を待つことにした。
「町川って、なんで愛希の告白断ったん?」
椅子に座った途端、芦田が口を開いた。芦田の言葉は刺々しく聞こえたが、実際に彼女の表情を見ると、どうやら俺を責めているわけではないらしい。芦田はただ単純に疑問を口にしただけだった。
「町川って彼女いるわけでもないしょ? 他に好きな子でもいるってこと?」
「まあ……そうだな」
確かに俺は、山下さんのことが好きなのかもしれない……けど、俺なんかじゃ釣り合わないってこともちゃんとわかってる。
だから俺は、山下に告白するつもりもないし付き合えるとも思っていない。今の関係が一番だと、そう思っている。
「ふーん。そ……」
芦田は俺から視線を外してスマホを取り出し、前髪を弄りだす。俺も会話が終わったと思い、レーシングゲームの様子に目を向けた。けれど、芦田はスマホを弄ったまま口を開いた。
「町川が誰を好きだろうと別にいいけど、愛希ともちゃんと向き合ってあげてよ」
不愛想で刺々しい芦田の声。だがその中には、親友の恋路を気遣う優しさが紛れていた。そんな芦田に、俺も真剣に返事をする。
「ああ。わかってる」
***
何戦目かのレーシングゲームが終わり、俺と金城の二人が休憩になった。
「いやー。町川ってこういうレースゲームも上手いんだねー!」
「まあ、何回かやったことあるからな」
俺がぶっきらぼうに返すと、そこで会話が途切れる。電子的な音楽が鳴り響くゲーセンの中、俺たちの間には沈黙が訪れた。
芦田さんにはああ言ったけど、金城さんに向き合うにはどうすればいいんだ……?
俺は、隣で音ゲー台の丸椅子に座り、足をプラプラさせている金城を見て話題を考える。けれど、陰キャの俺ではまったく話題が思いつかなかった。
「……町川」
俺の代わりに沈黙を破ってくれたのは金城。彼女は俺の名前を呼び、ポケットからスマホを取り出した。
「あたしとロイン交換しない? 友達、なんだし……」
「ああ……そう言えばしてなかったな」
金城にしては珍しい、歯切れの悪い喋り方に戸惑いつつも、俺は自分のスマホの画面に友達登録用のQRコードを表示させる。
それを金城が読み取ると、彼女はスマホの画面を見て喜びを噛み締めるように微笑む。それから金城はいつもの元気を取り戻し、明るい声で笑った。
「ありがとっ!」
同時に、俺のスマホからピロリンッと通知音が鳴る。見ると、金城からは「よろしくね!」と書かれたウサギキャラのスタンプが送られてきていた。
俺は、気分良さげな視線を送ってくる金城を一瞥し、「よろしく」とメッセージを送信する。すると、金城はトーク画面を見て笑った。
「アハハ! ここでスタンプ使わないの、めっちゃ町川っぽいね!」




