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メイドカフェでクラスの清楚系貧乏美少女が働いていた!?~バイト禁止の学校に通う俺は、同じクラスの美少女と【秘密を共有】する~  作者: 早野冬哉


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2.美少女からの呼び出し

 校舎四階の一番西にある空き教室。机が積み上げられ、ただでさえ普通の教室の半分ほどの大きさしかない空き教室は、縦幅が窓二枚分にまで狭くなっていた。


 ガララ……。


「悪い。待ったか?」


「いいえ。大丈夫」


 俺が空き教室の扉を開けると、一つだけ置かれた椅子に腰かけ、机に向かって勉強していた山下が立ち上がる。俺が教室の扉を閉めると、山下は意を決し口を開いた。


「町川くん。昨日のこと、学校には言わないでくれないかな……わたしの家貧乏だから、アルバイトができなくなると困るの」


 胸に手を当て、真っすぐに俺の目を見て話す山下。だが彼女の瞳は不安に揺れ、半そでの白いセーラー服を握る手や、薄灰色のスカートから覗く足も、怯えた小動物のように震えていた。


 落ち着け俺。俺がちょっとでも下心を見せようもんなら山下さんが怖がる。平常心、平常心だ。


 クラスの女子、しかも学年トップクラスの美少女と密室で二人きりだ。多感な年頃の俺は、自分の鼓動が高鳴るのを感じた。


「ああわかってる。俺は山下さんがバイトしてたことを誰にも言わない」


 よしセーフ。声は震えてない。


「ありがとう……」


 消え入りそうな声でお礼を言った山下は安堵に胸を撫でおろし、震える息を吐いた。その時彼女が浮かべたのは、日頃の気苦労が垣間見える疲れた笑みだった。


 話は終わり、だよな。


 俺はいち早くこの、健全な男子高校生には危険すぎる空間から逃げ出そうと扉に手をかける。だが──。


「待って町川くん。わたしは町川くんに何をすればいいの?」


「はっ!? どういうこと?」


 山下さんは何を言っているんだ……?


 山下の唐突な質問に、俺は思わず聞き返した。


「その……わたしこういう時どうすればいいかよくわからなくて……町川くんにお礼するにはどうしたらいいの?」


 そう言うことか。だったら……。


「礼とかいらない。別に俺が何かするわけじゃないからな」


「そういうわけにはいかないよ……! わたしにとってアルバイトができなくなるのは死活問題なの。だから、町川くんはわたしの命の恩人。……わたしにできることならなんでもするから……だからお礼をさせて」


「そう簡単に、なんでもする、なんて言わない方がいいぞ」


 真面目だなぁ……山下さんは俺が礼を受け入れるまで引き下がらなさそうだし、どうするか……。


 俺は誰かに命令されるのが嫌いだ。だから自分も、逆らえない状態の相手に何かを頼むのは嫌だ。だから俺は、山下のお礼を拒む──自分も弱点をさらけ出すことによって。


「山下さん。これを見てくれ!」


 俺はスマホを操作し、ツイックスの裏アカを見せた。全身から冷や汗が滝のように流れ出るが、今はどうでもいい。


「これって……」


「ああ。これは俺の黒歴史だ! イタすぎるツイートがたくさん書いてある裏アカだ! このアカウントをバラされたら俺は学校にいられなくなる。……これでフェアだろ?」


 顔から火が出そうなほど恥ずかしい。この言葉の意味を身をもって理解した俺は、羞恥心に耐えられず目を閉じだ。


 めちゃくちゃ恥ずかしい! 黒歴史をクラスメイトの美少女に見せるとか馬鹿すぎるだろ俺……。


 山下の反応がない。恐る恐る目を開けると、俺のスマホの画面をじっと見つめている山下が目に入った。


 ふいに、山下と目が合う。すると彼女は口元に手を寄せ、天使のような笑みを浮かべた。


「ふふっ……! 町川くんって、優しくて面白い人だったんだね……」


「うるさい……ほっといてくれ」


 前髪を引っ張り照れ隠しをする俺の前で、山下はクスクス笑う。おそらくクラスの誰も見たことがない、山下の陽だまりのような笑顔を見ているうちに、俺の羞恥心も薄らいでいった。


 まあ、恥かいた甲斐はあったな。


***


「ありがとう町川くん。バイトしているところを見られたのが町川くんでよかった……」


 一頻り笑った山下は、いつもの冷静沈着な表情に戻り、俺に向かってもう一度頭を下げた。


「もういいって山下さん。それより、そろそろ弁当食べないと昼休み終わるぞ」


 気付けば昼休みもあと五分。山下と二人きりの時間が終わることは惜しいが、俺みたいな陰キャがこれ以上夢を見る権利はないだろう。


「そうだね……長い間突き合わせちゃってごめんなさい」


 謝る山下に、俺は咄嗟に手を振って弁解した。


「いや、そういう意味で言ったわけじゃないから。 ……これじゃあ俺が悪者みたいだろ」


「そうなの?」


「ああ。それに山下さんだってまだ弁当食べてないんじゃないか?」


「うん」


「だろ? だったら──」


 早く食べたほうがいい。そう言おうとした俺の声を遮ったのは、感情が乗っていない山下の声だった。


「でもわたし、そもそもお弁当持ってきてないの」


「ん? それってつまり、購買で買うってことか?」


「ううん、違う。わたしの家貧乏だし、朝もあんまり時間がないからいつもお昼ご飯は食べないの」


「えっ……じゃあ山下さんは一日二食しか食べてないのか!?」


「うん」


 言われてみれば、制服から覗く山下の四肢は細かった──いや、細すぎた。山下の透き通るような肌を持つ手足にはほとんど筋肉や脂肪がなく、触れただけで折れてしまいそうだった。


 何とかしてあげたい。


 俺みたいな陰キャがおこがましいにもほどがあるのは分かってる。だが、そう思わずにはいられないほど、今の山下は儚く見えた。


 俺はなんとか自分の感情を抑え、自然を装うべく会話を続けた。


「じゃあ山下さんはいつもこの空き教室でご飯も食べずに勉強していたのか?」


「うん……でも気にしないで。もう、慣れたから」


 他人を寄せ付けない冷ややかな声でそう言った山下。伏せられた彼女の瞳には、どんな感情が灯っていたのだろうか。

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