18.告白
「町川、ちょっといい?」
五時間目と六時間目の間の十分休憩になってすぐ。自席でスマホを弄っていた俺に声をかけてきたのは、金城愛希だった。
同時に、クラス中から視線が集まる。春歌高校一年の二大美少女の一人である金城が男子に話しかけたのだから、まあ当然のことだろう。
「なんだ?」
俺がスマホから顔を上げて聞き返すと、金城はいつもの明るい笑顔を引っ込めて真剣な顔をした。
「町川って今日の放課後空いてる?」
「ああ」
「ふぅん……だったら、学校が終わったらすぐここに来て」
そう言うと金城は俺の机にメモを残し、自分の席へと帰っていった。すると直後、教室がざわつく。
「何だ今の金城さん……まるで──」
「それ以上は言うな! まだそうと決まったわけじゃないんだ決めつけないでくれ。夢を見ることくらい許してくれよ……」
「町川のやつ、いっつも影薄いくせに羨ましぃー……」
おもに男子生徒からの嫉妬や絶望の声が上がる中、俺は困惑していた。
はっ? これどういうことだ?
教室では大抵、太陽のように明るい笑顔を浮かべて声を弾ませている金城。だが今の金城に笑顔はなく、声には余裕がなかった。
ていうか、俺が金城さんと話したのって確か……ゲーセンであった時の一回だけだよな? そんな他人みたいなやつ相手にする、人前で話せない話ってなんだ?
俺はあの日、世界大会優勝という偉業に浮かれていた。だから金城に何を言ったかはよく覚えていないし、なんかすごく恥ずかしいセリフを言った気もする。それもあって、俺は金城が何の話をしたいのかまったく見当がつかなかった。
「放課後、屋上前の階段に来て」
金城が置いていった紙に書かれた文字を見て、俺はため息を吐いた。
まあ、放課後になればわかるか。
一旦金城のことは頭の隅に置いといて、俺は廊下にあるロッカーに次の時間の勉強道具を取りに行く。その時、教室の出入り口で山下とすれ違った。
俺と金城がやり取りをしていた間、山下は教室にいなかったのだ。
***
「おまたせ町川。ごめんねっ! 友達を撒くのに苦労してさー」
「いや……大丈夫だ」
鍵がかかった屋上扉の前。階段を登り切った踊り場で、俺と金城は向かい合った。
「…………」
「……それで、金城さんの用事ってなんだ?」
気まずくなりかけた雰囲気を切り裂いて、俺が問う。すると金城は、胸のあたりで指を絡めたり離したりを繰り返し、目を泳がせた。
「えっとね町川……ごめんちょっと待って!」
手のひらを突き出して、俺に待ってくれアピールをする金城。彼女は目を閉じ大きく深呼吸するともう一度目を開き、真っすぐに俺を見た。
「町川!」
「ああ……なんだ?」
急に大声で名前を呼ばれて言葉が詰まる。だが金城はそんなことは気にせず、俺に手を差し出した──肩甲骨辺りまで伸びた茶髪を、屋上の扉から差し込む夕日に煌めかせて。そして、垢ぬけた美少女の艶やかな唇が、言葉を紡ぐ。
「あたしと、付き合って」
字面は傲慢で、はっきりと発音された告白。それを放った金城の表情はいつもの明るい笑顔ではなく、宝石のような目を細めた、真剣そのものだった。
「はっ?」
どういうことだこれ……俺、金城さんに何かしたか? したとすればあのゲーセンだけど……あの日俺は金城さんに何言ったんだよ? ……何したら陰キャの俺が金城さんみたいな美少女に告白されるんだよ!
混乱で頭が回らない。俺が目を丸くして黙っていると、金城は夕日に照らされていてもわかるくらい頬を赤くし、続きを話した。
「あたしはあの日町川が言ってくれた言葉に救われたのっ! 町川が、あたしがどんな趣味を持っていてもいいって言ってくれたからあたしは変われた。美知留たちに本当のあたしを見せられるようになったんだよっ!」
金城は熱のこもった声で俺に語りかける。それから今度は語気を弱めて、囁くように続けた。
「町川が本当のあたしを見つけて、それでいいだろって言ってくれた。あの時あたし、ホントにうれしかったんだよ」
そう言って微笑む金城の笑みは、山下の静かな微笑みとはまた違った、破天荒さをはらんだものだった。
……っ!?
真っすぐな好意を向けられ、俺の心臓が跳ねる。差し込む夕日の中で微笑む金城のかわいさに頬が熱くなって、俺は思わず目を伏せた。
ていうか俺、そんなこと言ったのか……まあ嘘じゃないし、それで金城さんが救われたのならよかったけど……。
俺は顔を背けたまま、目だけで金城を見やる。
やっぱり金城さんもかわいいよな……。
顔もスタイルもよくて性格は明るく優しい、学年トップの美少女。そんな金城に告白されて、昔の俺なら二つ返事で首を縦に振っただろう。
でも俺は、山下さんが俺を拒絶するまで山下さんを支えるって決めた。だから──。
俺は誠意をこめて真っすぐに金城の目を見て、告げた。
「金城さん。悪いけど、俺は金城さんとは付き合わない」
「……っ! ……そっか」
一瞬、辛そうに顔を歪めた金城はすぐに苦笑いを浮かべる。それから、吹っ切れたように清々しく透き通った声を上げた。
「ああー! やっぱダメかー!」
ん? なんで金城さんはダメ元だったみたいなテンションなんだ? 俺なんかを口説けないなんて思わないだろ普通。
両手を大きく横に広げて伸びをする金城。彼女はすぐにいつもの明るい雰囲気を取り戻し、いたずらっぽい仕草で俺を指さした。
「町川さー。やっぱ山下さんと付き合ってるでしょ。あたし、二人が昼休みに一緒に弁当食べてるとこ見たよ?」
「……っ!? 嘘だろ……」
「ホントだって! でもあたしが町川のこと好きだってこと、どうしても町川に伝えたくなって……ダメ元で告った」
なるほどな……それで金城さんはダメ元だったわけか。
俺は疑問が解消されてスッキリした。が、すぐに訂正しなければならないことを思い出し、口を開く。
「あー……金城さん。確かに俺は山下さんと弁当を食ってたけど、付き合ってないってのは本当なんだ」
「えー嘘だー! あれで付き合ってないわけないじゃん」
「本当なんだ。信じてくれ。俺は勘違いされても構わないが、山下さんは嫌だろうから……信じてくれ」
茶化す金城に、俺は真剣に訴える。すると金城も茶化すのをやめ、聞く耳を持ってくれた。
「えっ、マジなの? マジで町川と山下さんって付き合ってないのっ?」
「ああ」
「そ、そっか……。そうなんだ……」
よかった……理解してくれたみたいだな。
金城は新事実を呑み込み、胃の中に落とし込むように俺の話を受け入れた。俺がそのことに安堵していると、ふいに、金城の目がいたずらっぽく光った。
「だったらあたし、町川のこと諦めないからっ……」
「はっ……?」
「あたしは一度振られたぐらいじゃ諦めないって言ってんのっ! 覚悟しなよ町川。明日からあたし、町川の友達として教室でもあんたに話しかけるからっ。正々堂々ぶつかって、町川が山下さんとか他の女子と付き合う前にあたしに惚れさせてみせるからっ!」
太陽のように明るく無邪気な笑顔を湛え、いたずらっぽく目を細める金城は、心底楽しそうだった。そんな金城の笑顔のせいで俺は、彼女の意気込みを断りきれなかった。
ハハ……どうなるんだろこれ……。
この話を読んでいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思っていただけたら、
ブックマーク登録や感想、
↓の「☆☆☆☆☆」をタップして、応援していただけるとうれしいです!
星はいくつでも構いません。評価をいただけるだけで作者は幸せです。




