17.町川との出会い
投稿遅れてすみません……!
「どうぞ……ん? もしかして金城さん?」
「町川……ありがと……」
「いや、べつに……」
同じクラスとはいえ、一度も話したことのないあたしと町川の空気は当然気まずくなった。そして気まずくなると話題を探すために周囲に視線を巡らせるのはありがちな行動で──町川は、レジに置かれた銃のキーホルダーに目を向けた。
「金城さんもガンドラン好きなの?」
「……っ」
見られたっ……!? 美知留たちにも隠してたのに……。
オタクっぽいし女の子っぽくなくてバカにされそうだからと、友達にすら隠してきた趣味を見られた。あたしは劣等感と絶望感に押しつぶされて消えてしまいたくなった。
「ううん違う。あたしが好きなのは銃。……どう? 幻滅したでしょ」
あたしは震えた声で自嘲する。幸い、下を向いたあたしは自分の前髪で視界が遮られ、町川から向けられるであろう、軽蔑の眼差しを見ずに済んだ。
だが、町川の反応はあたしが思っていたのとは違った。
「なんでだ?」
「なんでって……銃が好きなんておかしいじゃん! あたし女子なんだよ? モデルガンを集めて……それにこんな限定キーホルダーまでこっそり買いに来て、バカみたいでしょ?」
何言ってんだろあたし……。
いろんな感情がごちゃ混ぜになって、あたしは自分でも何を言っているのかわからなくなった。あたしはやつれた顔で、全てを諦めたような投げやりな視線を町川に向ける。
「町川は、あたしみたいな銃オタクの女子なんて気持ち悪いと思わない? 何をやっても中途半端ですぐやめる、何の特技もないあたしとなんて、誰も関わろうだなんて思わないでしょ」
「そんなことはな──」
「町川はいいよねー。ガンドランで世界大会優勝だなんてすごいよ! それだけ打ち込めるものがあって特技があって……あたしなんかとは大違い──」
「金城さん」
あたしの名前を呼ぶ町川の声は決して大きくはなかったが、なぜだが迫力があった。思わず顔を上げて町川の顔を見ると、彼は大きくため息を吐いた。
「はぁ……なんで金城さんはそんなに悲観的なんだ? っていうか、金城さんもモデルガンとグッズを集めるって趣味に打ち込めてるじゃないか」
そう言うと町川は自分の財布を取り出し、待たせていたレジ店員に、あたしが買おうとしたグッズへの支払いをする。
「でもこんな趣味、ただお金使ってるだけじゃん。町川みたいに世界一を目指して努力したりなんてのもないし──」
「でもこれが金城さんの好きなことなんだろ? だったら堂々と買えばいい」
町川はそう言うと、支払いを終えて紙袋に入れられたグッズをあたしの前に突き出した。
「……っ、でも! あたしは友達に幻滅されたくないのっ! こんな趣味を受け入れてくれる人なんているわけないじゃん……」
あたしは言葉に詰まりながらも、紙袋は受け取らない。すると町川は真っ直ぐにあたしの目を覗き込んだ。
「趣味を聞いただけで離れていくやつは友達じゃないだろ……。友達なら、どんな趣味を持っていようが受け入れてくれるはずだ。……少なくとも俺は、金城さんが銃マニアだからって軽蔑したりしない」
「そりゃそうかもしれないけどっ……あたしは……あたしは……」
反論なんかない。町川の言うことは正しいよ。……だけど、もしそれであたしの周りに誰もいなくなったら?
今までの友達関係が全て嘘だったことになる。全てを失うことになる。それが怖かった。
「けどもし、金城さんの友達が金城さんの趣味を拒絶して、金城さんが一人になったら──」
「なったら?」
町川は、まさに今あたしが怯えていることを言いなぞった。そんな町川に、あたしはいつの間にか期待を寄せ、すがるように聞き返していた。
すると町川は、さも当然のように平坦な声で言った。
「もしそうなったら、俺が責任をもって金城さんにボッチの楽しい過ごし方を教える」
……えっ? 何て?
一瞬、聞き間違えかと思った。冗談かと思った。けれど町川の目は真剣で、さっきの言葉は本気で言っていたことを物語っていて──あたしは、堪えきれずに吹き出した。
「アハハ! 何それっ! こういう時は、俺が友達になってやるよ、とかじゃん普通」
「そうかもしれないが……俺がそれ言ったらなんか、下心があって声かけたみたいになるだろ」
「そんなことないって。町川考えすぎー!」
恥ずかしそうに目を逸らした町川は、手で顔を隠しながら前髪を弄る。その横顔を見ていると、恐怖も不安も劣等感もどうでもよくなってきて、あたしは心の底から笑った。
「ありがとね町川。おかげですっきりしたよー!」
しばらく笑い続けたあと、あたしは町川からグッズの入った紙袋を受け取った。
「ああ。なら俺はもう行く」
「うん。じゃあねー!」
ゲーセンの外で待っていたチームメイトの元へ向かう町川を見送り、あたしは大きく息を吐いた。
じゃ、やりますか!
そう意気込んで、あたしは美知留たちのところへ戻った。
「どしたん愛希? そんなうれしそうな顔して」
「ううんなんでもないっ! それよりちょっと聞いてほしいことがあるんだけど。あたし実はね──」
***
そうしてあたしは、美知留、雪音、ひまりに銃マニアということを打ち明けた。話が合う、なんてことはなかったけれど、三人はあたしの趣味を聞いても態度を変えることはなく、今も仲良くしてくれている。
だからあたしは、町川のことを好きになったんだよ……。
町川と山下が二人で弁当を食べている空き教室の前でうずくまりながら、あたしは必死に涙を堪える。
わかってる。こんな思いをするのも全部あたしのせい。……あの日好きになったんだから、次の日にでも告白すればよかったじゃん。
後悔後悔後悔。後悔で埋め尽くされた頭の中には、町川に告白しなかった過去の自分への怒りが滲む。
バカだなぁあたし。町川に、好きなものは堂々と好きと言えって言われたばっかだったのにさー、告白したら町川に避けられるかも、なんて考えてた。
胸が焼かれるように痛い。喉も異様に渇く。あたしはうずくまったまま、廊下の窓から快晴の青空を見上げて目を細めた。
「もういいでしょあたし。……いいかげん、動きなよ」
振られる覚悟決めて町川に告りなよ! 町川が教えてくれたじゃん。町川のことが好きなんだから、好きだってちゃんと町川に伝えよ?
町川に教えてもらったことを大事にしたい。もう自分の感情に蓋をしたくない。そう思ったあたしは、キッと唇を強く結んで立ち上がり、教室に戻った。
今日の放課後、町川に告白しようと心に決めて。




