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メイドカフェでクラスの清楚系貧乏美少女が働いていた!?~バイト禁止の学校に通う俺は、同じクラスの美少女と【秘密を共有】する~  作者: 早野冬哉


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12.格安デート②

「オッケー! これでモデルはお終い。お疲れ様っ!」


「ありがとうございました……」


 山下が白のカーディガンを揺らしてお辞儀する。山下が頭を上げるのを待って、俺たちがアトリエを出ようとすると、美優が声を上げた。


「あ! ちょっと待っててくれる?」


 美優はいたずらっぽくウィンクすると、バタバタと階段を駆け下りる。


 なんだ?


 取り残された俺と山下は、顔を合わせて疑問符を浮かべた。


「……っと、お待たせっ!」


 ゼェゼェと息を切らした美優は、階段を駆け上がってくるなり紙袋を突き出す。中を覗くと、さっき山下が試着した服が入っていた。


「これあげるっ!」


「えっ……でも──」


「いいからいいから! こんなに描きたくなった子は初めてなんだよ。これはかわいい彼女ちゃんがモデルになってくれたお礼だよっ! 受け取って!」


 親指を立てて捲し立てる美優に気圧されながらも、山下は遠慮を見せる。


 ここで受け取らないのも山下さんらしいな……。けど──。


「山下さん。こういう時は遠慮せずに受け取っていいんだぞ」


「そう……なの?」


「ああ──」


「そうだよ彼女ちゃん! 彼氏くんの言う通りジャンジャン受け取っちゃいなよっ!」


 それはそれでダメな気がするが……。


「じゃあ……」


 山下は俺と美優を交互に見ながら、おずおずと紙袋を受け取った。


「ありがとうございます」


「うんっ! 大事にしてねー!」


「じゃあ俺たちはこれで」


「また来てねー!」


 こうして俺たちは老舗服屋──「のんける服屋」を後にした。


***


「町川くん。次はどうするの?」


 時刻は午後二時半過ぎ。俺たちは炎天下の街中を歩いていた。隣に並ぶ山下は水色のワンピースに白のカーディガンを羽織っており、随所から覗く白い肌が強調されていた。


「あの子かわいい……」


「清楚系美少女! 付き合いてー」


「って彼氏いんのかよ……ハハッ! パッとしねぇ彼氏だな!」


 山下は周囲の人たちの視線を集め、すれ違った人からは二度見されることもあった。


 ホント、俺がこんな美少女と休日に町を歩くなんて想像もできなかったな。


「……町川くん?」


「ああ悪い。次の目的地だよな? それならこの先だ」


 そう言って俺が立ち止まったのは、自然公園の入り口。自然公園に生い茂る木々の隙間から、奥に図書館が見える。赤い歩道で整備された道は、自然公園を余さず見て回れるように枝わかれして敷かれていた。


「……涼しい」


 自然公園の木陰に足を踏み入れた途端、体感温度がグンと下がる。カサカサと木の葉が擦れ合う音もまた、この場所を涼しく感じさせた。


「だろ? だけどこの自然公園をもっと上手く堪能するいい方法があるんだ」


「それって……?」


 俺は得意げに黙ると、足を一歩動かした。


「案内する。ついてきてくれ」


***


「図書館?」


「ああ。山下さんも図書館には来たことあるよな?」


「うん……何回か来たことあるよ」


「なら、このコーナーに来たことはあるか?」


 そう言って俺が立ち止まったのは、ライトノベルコーナーだった。


「このコーナーだけじゃない。ミステリーや恋愛小説、図書館には無料で楽しめるエンタメ本がたくさんあるんだ。……息抜きに本の世界に没入するのもいいと思ったんだけど、山下さんは本を読むのは嫌いだったか?」


「ううん……嫌いじゃない。……だけど、今まで本を読む時間なんてなかったから、どれを読んだらいいのかわからなくて」


「そういうことなら俺が良さそうなのを選ぶけど、それでいいか?」


「うん……」


 申し訳なさそうに声を小さくする山下。俺はその横で、本棚に視線を走らせる。


「そうだな……」


 こういう時は、実写映画化とされてる万人受けする物を選ぶのが妥当だよな。……山下さんはあまり時間がないみたいだし、スラスラ読める短編とかだと最高なんだけど……。


「おっ。これとかどうだ? 何年か前に実写映画化されて話題になったやつなんだけど、ページ数も少なくて読みやすいと思うぞ」


 俺が選んだ本は「放課後の流れ星」という題名のハートフル純愛ラブコメディー。ページ数も多くなく、本文がいい意味で軽い文体で書かれていてスラスラ読める作品だ。物語の舞台は夏だし、季節感もあっている。


「じゃあ、読んでみようかな……」


 本を受け取った山下の声は、心なしか明るく感じられた。それから俺は自分用に適当なラノベを選び、貸出カウンターに持っていく。


「あの、町川くん……その本、ここで読まないの?」


「ん? 山下さん、俺たちが何のために図書館に来たのか忘れたのか?」


 俺は得意げに微笑み、貸出手続きを終えた本を掲げて見せた。


「自然公園を堪能する方法を教えるって言っただろ?」


***


「こっちだ」


 そう言って俺は、赤い歩道を降りて、自然公園の木々の隙間を進む。その先にある、別の赤い歩道に向かって。


「いいの町川くん? 道から降りちゃって……」


「ああ。大丈夫だ。ここだけわざと草が低く刈り揃えられているし、この先の歩道はここからじゃないと行けないからな。公園側もここを通ることを想定してるんじゃないか?」


 ていうか、たしか市の公式ホームページにもそんなことが書いてあった気がする。


「着いたぞ。山下さん」


 そこには、全体が木の影に覆われほの暗くなった、楕円形の赤い歩道があった。そしてその上には、間隔を空けて六個のベンチが設置されている。


「どうた? いいところだろ? ここでのんびり読書するのが最高なんだよ」


 その時、サアァァ……っと優しい涼風が吹き抜けた。木の葉が舞い落ち、揺れる幾筋もの淡い木漏れ日が山下を照らし出す。その優しい光の中で、水色のワンピースと白のカーディガンが風に踊る。


 山下は幻想的な光に照らされる中、靡く黒髪を押さえ、はにかんだ。


「うん。なんだかここ、すごく落ち着く……。町川くん、よくこんなところ知ってたね」


「まあ、な……」


 山下に見惚れていた俺は、指で前髪をとかし、顔を隠しながらベンチを指さす。


「あのベンチで借りてきた本、読まないか?」


「うん。読む」


 いつも通りの抑揚の乏しい山下の声。だが今の彼女の声は、爽やかな空気をはらんでいた。

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