1.メイドカフェにて、クラスの美少女に出会う
「お待たせしましたご主人様っ……! こちら、すずりん特製萌え萌えキュン死させちゃうぞオムライスです……」
聞いてる俺まで恥ずかしくなってくるような料理名を、鈴を転がすような心地よい声が読む。
艶のある綺麗な黒髪を腰まで伸ばしたメイド姿の美少女は、恥ずかしそうにしながらも胸の前でハートを作った。
「──えっ!?」
その時、彼女の伏せ気味だった宝石のような瞳は突如、俺──町川春馬を凝視した。
俺を見つめるメイドの綺麗に整った顔立ち。よく見るとそれは、俺と同じクラスにいる、物静かな美少女を彷彿とさせて──。
「ん? もしかして、山下さん?」
これは俺が、バイト禁止の春歌高校に入学して一年目の出来事だった。
***
俺が山下と出会う、十分ほど前。
「お帰りなさいませご主人さま! どうぞこちらに~」
メイドカフェ──メイフィーの扉を開けると、メイド服を纏った女の子たちがキラキラした笑顔で出迎えてくれた。
「ほえぇ……これがメイドさんかぁ」
「なっ! すごいだろ慎吾。春馬、おまえはどうだ? メイドさん、かわいいだろ?」
骨抜きにされたような声を上げる若田慎吾と、我が物顔でメイドたちを自慢する西川裕太。彼らは俺の中学からの親友で、ゲーム仲間だ。今日は久々に遊びに行こうと誘われ、俺は裕太の提案で人生初のメイドカフェ来店を果たした。
「いや、俺はやっぱりメイドにはストーリーが欲しいな。姿振る舞いがメイドでも、なんかこう……薄っぺらく感じる」
「春馬、相変わらずおまえはオブラートに包むということを知らねぇのな!」
「フッ……! だからボクたち以外友達ができないんだよ」
四人掛けのテーブル席で隣に座った裕太が俺の肩に腕を回し茶化す。正面に座った慎吾が笑うと、俺もつられて笑い、ツッコんだ。
「余計なお世話だ。おまえらだって友達いないだろ」
「まあその話は置いといて……慎吾、おまえはどのメイドさんが一番好みだ?」
料理を運ぶメイドたちに視線を送り、裕太が尋ねる。すると慎吾は、サラサラとした黒髪を靡かせるメイドに視線を向けた。
「ボクはあの子かなぁ……あ、すずりんって言うんだ」
「慎吾、その顔キモいぞ」
俺は、黒髪のメイドが胸元につけている名札をみてニヤける慎吾に白い目を向ける。それから慎吾の視線を追ってメイドの姿を見た。
ん? なんかあのメイドさん、どっかで見た気が……。
そんな疑問を浮かべていると、例の黒髪メイドがオムライスを三つ、俺たちのテーブルに運んできた。
「お待たせしましたご主人様っ……!」
***
「ん? もしかして、山下さ──」
「メイドさんメイドさん! ボクのオムライスにおいしくなる魔法かけてくださぁーい!」
俺の声を遮り、うねうねと身体をくねらせ甘い声を上げる慎吾。その声は、顔を赤くして固まっていた山下にとって助け舟となった。
「は、はいっ! ただいまっ!」
山下は慌てた手つきでメイド服のポケットからケチャップを取り出す──何度か落としそうになりながら。
「お……おいしくなぁれ、おいしくなぁれ。萌え萌えきゅんっ……」
初々しさのにじみ出る小さな声で呪文を唱え、山下は小ぶりな動きでオムライスにケチャップをかけていく。
これがあの山下さんなのか?
ケチャップをかけている間も、山下は俺に向かってチラチラと不安げな視線を向けてくる。きっと、禁止されているバイトをしていたことを学校にバラされないか心配なのだろう。
かわいいな……。
山下のいじらしい目の動きに、思わずそう思ってしまった。
……っ!? 何を考えてるんだ俺は! 相手はあの山下鈴──春歌高校一年の二大美少女の一人なんだぞ!
俺は咄嗟に山下から視線を逸らす。
「おっ? 春馬おまえ、もしかしてメイドさんのかわいさに照れてんのか?」
「うるさい……」
裕太のからかいに、俺はまともな反論をすることができなかった。
***
翌朝の月曜日。俺は普段通り始業のチャイム五分前に着席した。俺の席は窓際の最後尾。そして、一つ前の席は山下の席だ。
「やっぱかわいいよな、山下さん……」
「それな! いつもクールでこの間の中間テストは学年一位。しかも運動神経もいい完璧美少女! おまけに、清楚な雰囲気を崩さない絶妙な大きさの胸! ああ、鈴ちゃんが俺の彼女になってくれればなぁ……」
「鈴ちゃんっておまえ、山下さんと話したこともないくせに彼氏面すんなよ」
近くの席の男子たちが、窓際の席に座る山下を芸術品を見るかのような目で眺めていた。
「でもやっぱおれは金城さんの方が彼女にしてぇわ。山下さんはこう、彼氏に厳しそうじゃん?」
「それな! けどそれがいいんじゃね? 鈴ちゃんみたいな可憐な清楚系美少女に厳しくされるなんてもう、ご褒美だろ!」
俺は男子たちの会話を聞き流し、山下の後ろ姿に昨日のメイドの姿を重ねてみる。
やっぱりあれ、山下さんだよな……。
腰くらいまで流れる黒髪は見間違えようのないほど綺麗で、時折見える横顔は、昨日赤面していたあのかわいい顔と同じだ。
まあ、俺には関係ないか。たとえ山下さんが禁止されているバイトをしていても、俺にどうこう言う資格はないしな。
「町川くん」
ふいに、窓の方を向いた山下が俺の名前を呼んだ。彼女は俺にしか聞こえない声の大きさで続けた。
「昼休み、四階の空き教室に来てくれる?」
「……ああ。わかった」
山下の透き通った声に、俺は神妙に頷いた。




