新たな依頼3
王都ロレストゥール。
この国、テュリクス王国の初代国王ロレイス1世
と、王妃ストゥールの名を繋げてつけられたのだ
という。
ロルとリィルの説明通り、港町クロスポートから
馬車で1日かかる場所にある。
山あいの街ではあるが、港町が近いこともあり、
交易で賑わっている。
王都自体は天然の要塞のような造りで、大きな一枚岩に
囲まれたところにある。
その、王都に行くことになった。
エイスは、思わず、口が開きそうになり、あわてて
気を引き締めた。
しかし、王都である。
道のりの距離からおそらくそうだろうと思っていた
が、実際にそう言われると驚いてしまった。
「大丈夫ですか? エイス」
「ま、行けそうもなくても、もう連れてくけどな」
リィルとロルがそれぞれ声をかけてくる。
「大丈夫だ。引き受けた以上は出来る限り
尽くすという言葉を違えるつもりはない」
エイスの言葉にリィルがほっと息をつき、ロルは
何故か得意げにしていた。
がらごろと車輪が音を立てて、馬車が進む。
結果的にクッションは必要なかった。
外見こそどこにでもある乗合い馬車だが、
一転して、中は乗り心地良く出来ていた。
質素に見えるが、使われている布が上等だと、
触れればすぐにわかった。
まるで、身分の高い者がお忍びで使う品のようだ。
そこまで考えて、エイスは、ロルを見遣った。
昨日、ロルから感じた威圧は本物だった。
まさか、な……。
小さくつぶやいたエイスの視線に気づいて、ロルが
こちらを見て微笑む。
「なんだ、俺に見惚れたか?」
「そんなわけないだろう」
エイスは、あきれながら半眼になって答えた。
ロルとリィルは、道のりに慣れているのだろう、
特に景色を楽しむでもなく、エイスと向かい合う
ように座っている。
エイスは、というと、ひたすら森が続く道のりに
少し、飽きてきた。
「ところで、そのカーテンがあるのは、どんな
場所なんだ?」
エイスの質問にロルとリィルは顔を見合わせた。
「それは、」
またもいい淀むロルの言葉を引き取って、リィルが
説明する。
「多くの者が訪れる、とても広い場所です」
どうにも、具体性が欠けるな。
エイスは考える。
そのことは、2人が正体を隠したままなことと、
関係があるのだろうが。
客にそういう者がいることは特に珍しいこと
ではない。
身分の高い者には、身分の高い者なりの、
そうでない者には、そうでない者なりの事情と
いうものがある。
だが、今回は少しだけ、寂しい気がしている。
2人と年の頃が近そうなのもあるが、やたらと
慣れ慣れしい、ロルの所為もあるかもしれない。
初めはいい印象ではなかったが、今は、
そうでもなくなっていた。
師匠のこと以外で心が動くことがあったのが、
自分でも、驚きだった。
「わかった。それ以上は聞かない」
あくまでも、今は、客と依頼を引き受けた者という
立場なのだ。
そこを違えてはいけない、とエイスは自分に
言い聞かせた。
「ところで、エイスは普段どうやって
過ごしているんだ?」
エイスは、大きくため息を吐いた。
こちらが、立場を弁えようとしているそばから
これだ。
ロルは何故エイスにため息を吐かれたか
わかっていない様子。
リィルは察しているのか、くすくす笑っている。
やれやれと思いながら、エイスは答えてやった。
「特別なことはしていない。仕事があれば、仕事を
こなして、なければ、魔術書を読んでいる」
「魔術書? どんな内容なんだ?」
何故か魔術書に目を輝かせるロル。
身分の高い者であれば、別に珍しいものでもない
だろう、と思ってから、エイスは考え直した。
かつては、初代国王の王妃ストゥールに
もたらされた魔法によって、魔法王国と名高い
テュリクスだったが。
過去の戦いで強力な魔法使いの多くが没し、
その子孫もあまり残っていないため、エイスの
ように戦える程の魔法が使える者はもうほとんど
いないのだ。
ただ、国民のほぼ全員は少しだけ、魔力を持って
いて日常で必要な時に使うくらいだ。
やはり、魔術書は珍しいのかもしれない。
「エイスは、本が読めるのですね」
リィルが感心したように言う。
これは、両親に感謝している、とエイスは目を
細めた。
故郷と共に失われた家族を想う。
両親と兄3人。皆、兄弟で唯一魔法を使えた末っ子
のエイスを可愛がって、大事にしてくれていた。
けれど、と別れた時の悲しい記憶も同時に思い出し
そうになって、エイスは首を振る。
「ふふ。良いご家族だったのですね」
リィルはまるで、彼らを知っているのような口ぶり
だった。エイスが驚いて目を見開くと、ロルが割り
込んでくる。
「なあ、エイスの家族って、お師匠さんじゃない
のか?」
エイスは更に驚くと同時に、少しだけ、警戒した。
「随分と詳しいな」
自分に師がいることは、港町クロスポートの街の
人や、ファイン爺さんから聞けば、わかるはず。
けれど、まるで親子のような関係だったことは、
師匠本人からでも、聞かない限りは……。
「まさか、師匠を知っているのか?」
エイスの質問に、ロルとリィルは顔色を変えた。
よかったら、星をお願いします




