新たな依頼2
女の方は、茶色の髪に茶色の目、ウェーブの
かかった髪を肩で切り揃えている。
かなり大柄で中肉中背のエイスを見下ろす程。
簡易な鎧を身に着けて、腰に佩はいた剣も
幅の広い剣だった。
男のほうは、薄い金色の短髪で、青い宝石の
ような目をしていた。
こちらはエイスより華奢な印象。
服装も動きやすさを意識しているのか、
鎧を着ているようには見えない。
そして、腰に佩いているのは細身の剣だ。
二人は、まだ固まっているエイスに名乗ってくる。
女の方はリィル、男の方はロル。
恐らく偽名だが、言い慣れている様子だ。
「まずは謝罪を。エイス・ワイティース殿。
追いかけ回すような真似をして、すみません
でした」
リィルが大柄な体を縮めるようにして、頭を
下げると、つられるようにして、ロルも頭を
下げた。
「別に構わない。傷を負った訳でもないからな」
エイスの言葉に、ロルのほうが、ぱあっと顔を
輝かせた。
「さすが、話のわかるやつだと思ってたよ、俺は」
「ロル、調子に乗っては……!」
リィルの諌める声も聞かず、ロルの態度が急に
慣れ慣れしくなった。
なんだ、こいつは。と、エイスは思わないでも
なかったが、一応は客だ、と、気を取り直す。
「依頼内容は?」
「直して欲しいものがある」
直して欲しいもの?
身につけるものだろうか。
エイスが考えていると、リィルが聞いてきた。
「カーテンをご存じですか?」
「知っている」
部屋の中を仕切るのに使ったり、ベッドの周り
につけたりするものだ。
窓につけたりもするが、この港町では、窓を外側
から閉じる鎧戸が普通だから、かなり珍しい。
「ご存じなら、よかったです」
と、リィルが、笑う。続いて、ロル。
「カーテンに、魔法かけ直してほしいんだが、
出来るか?」
「その魔法というのは、魔力を認識させない
魔法です」
リィルが補足し、エイスはつぶやいた。
「魔力を認識させない魔法……」
正直、自分の専門ではない種類の魔法だった。
エイスは、どちらかといえば、派手な攻撃魔法が
得意だ。
補助の魔法や回復魔法は、出来なくはない、と
いうレベル。
思わず、ファイン爺さんを振り返るエイス。
実はエイスが店に来た時からずっといたのだが、
今まで、話の邪魔にならないようにしてくれていた
のだ。
ファイン爺さんは、ふう、と息を吐くと2人に
尋ねた。
「お前さん達、他にあては?」
同時に首を横に振るロルとリィル。
「だ、そうだが、どうする? エイス」
ファイン爺さんと、ロルとリィルの視線がエイスに
集まる。
エイスは、う、と言ったまま、下を向いた。
しかし、そのうち、3人の視線に耐えられなく
なり、小さな声でわかった、と、告げた。
「引き受けた以上は、ちゃんとやるつもりだが、
万が一、上手く行かなかったら金は要らない」
エイスの言葉にそれで構わない、と、ロルが
答え、リィルも頷いている。
「それで、そのカーテンはどこだ?」
エイスが問うと、今度は、ロルとリィルが下を
向いた。
「ロル、そのつもりで来たのでしょう?」
リィルの言葉に、ロルが顔を上げ、エイスを
向き直る。
「カーテンは、今も使ってるんだ。すぐにとは
言わない。エイス、一緒に来てもらえるか?」
じっと見られてエイスは困惑した。
ロルの宝石のような青い目には、有無を言わせない
迫力が、なぜかある。
「どのくらいかかる?」
「少なくとも3日はいる。馬車で1日かかる場所
なんだ」
ロルに言われて、エイスはファイン爺さんを
また、見る。
「ファイン、いいか?」
「もちろん。今、急ぎの依頼はないからな」
そして、エイスは観念した。
なるべく、家から出たくはないのだが、
今回は依頼だ。
しかも、自分で引き受けた。
……引き受けてしまったのだから。
翌日。
エイスはいつものローブとフード付きマント、
師からもらった背よりも長い杖という格好で、
旅支度を渋々整えて。
馬車用に、クッションを部屋の奥底から
引っ張りだして、クロスポートの港町のはずれ、
待ち合わせの場所にいた。
正直、既に帰りたい。
エイスが半眼になっていると、
「待ったか?」
やはり、昨日と同じ、軽い鎧姿のリィルと、
それより軽装のロルが現れた。
「いや、いま来たところだ」
エイスの言葉にロルが花のように微笑む。
「ところで、目的地なんだが……」
ロルが言い淀むと、リィルがあとを続けた。
「王都ロレストゥールです」
な、とエイスが言葉を失った。




