新たな依頼
ひっく、と幼いエイスがしゃくりあげるたび、
魔法の風が周囲を破壊してゆく。
港に着いたばかりの船の上。
自分で乗り込んだのに、初めての場所に
恐ろしくなって泣けてきてしまったのだ。
父様、母様、兄様達、ごめんなさい。
ごめんなさい! 僕が悪かったから、
誰か、迎えに来て……!
その時だった。
幼いエイスの放つ、風の魔法をものともせずに
近づいてきた男がいた。
長い金の髪を頭の後ろでくくり、動きやすそうな
シャツとパンツにブーツ、煤色のマントを
羽織っていて、笑顔だった。
男は、幼いエイスに手を差し出すと
「風を止めて、こっちに来ないか?」
と、誘ってくる。
幼いエイスは、必死で首を横に振る。
自分でも、止め方がわからないのだ。
さっきから皆が困った顔をしているのは
わかってる。でも……。
気持ちはあるのに、魔法は止まってくれない。
「もしかして、止め方がわからないのか?」
男は、少し考えて、聞いてきた。
ぶんぶんと首を縦に振った幼いエイスに、男は
わかった、と頷き、まず、息を吐けと言ってきた。
息を、吐く……。
幼いエイスは、男の言葉に従って、
大きく息を吐いた。
ほんの少し、魔法の風が弱まった気がする。
次は、吸って、と男の指示が来る。
幼いエイスは、また、男の言葉に従う。
また、魔法の風が弱まったかもしれない。
「そうだ、いい調子だぞ」
そのまま、更に男の言葉に従い、吸って、吐いて、
を繰り返す幼いエイス。
どんどん静かになってゆく魔法の風。
「よし、今だ。風の精霊を解放―…バイバイしよう
な?」
幼いエイスが小さな声で、バイバイ、と言った
瞬間、風の魔法が霧散した。
意識を失って倒れこむ、幼いエイスを男は
抱き止める。
それが、エイスと、後に魔法の師となる
スパーク・ホワイトの初めての出会いだった。
ふっ、と、エイスは朝の光に目を覚ます。
懐かしい、夢を見た。
瞬きを繰り返すと目の端に溜まっていた、
夢の名残りの雫が一筋、頬を伝ってシーツに
落ちる。
あのあと、街の復興を手伝うのがとても
大変だった、と、よく師がぼやいていた、と
思い出す。
エイスの記憶では、実に楽しそうに船や
家の材料を運び、弟子が出来たと
色んな人に触れ回っていたようだったのだが。
「師匠」
せめて、生死の有無くらいはっきりして
くれたなら。
再び、目の端に上がってきた雫を振り切るように、
エイスは身を起こした。
それから、食事を済ませる。
前に、クロスポートの港町に行ってから七日余り。
そろそろ、食料が尽きてきた。
今回、特にファイン爺さんの魔法道具店"パープル
クラウド"からの依頼の品はない。
しかし、新たな依頼が来ているかも知れないので、
顔を出しに行こう、と考える。
それと、幼なじみで鍛冶屋の娘、エレクシアの
ところも訪ねないと、あとで拗ねられて面倒だ。
鍛冶屋の親父さんは苦手だが、まあ、顔を合わせ
なければ、何とか。
エイスは、いつものように煤色のローブに、
黒いマントを羽織り。フードで黒い目と髪を
隠し、最後に、師からもらった身長より長い杖を
持って、家を出た。
「は……?」
最初にファイン爺さんの魔法道具店"パープル
クラウド"を訪ねたエイスは、驚きで動きを
止めた。
何故なら、先日、面倒事を持ってやってきた
らしい、二人組が店にいたからだ。
二人は、頭からすっぽり被っていた布を取り去り、
姿を見せると、
「正式に、依頼に来ました」
「と、いうわけだ。よろしくな」
と、2人揃って笑ってみせた。
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