出会いはもういらない3
海沿いの開けた道だが、潮風に負けずに生えて
いる低木はいくつかある。
その後ろから出て来たのは、袖のない服を
着た二人組の男たち。
片方は中肉中背のエイスよりも長身で短髪。
もう片方は長身の方の、半分もない背丈で、
髪を頭の中心あたりで立ていた。
二人とも武器を持ち、長身の方は刀身が
反った剣、背の低い方は鎖鎌だった。
「おい兄ちゃん、その杖置いてけ」
「大人しく渡してくれたら、痛いことは
しないからよぉ」
ニヤニヤ笑いながら近づいて来る二人組に、
エイスは、大きく息を吐く。
「お前たち、誰を相手にしているのか、わかって
いないようだな」
エイスは担いでいた布袋を下ろし、
杖を水平に構えた。
小さな声で呪文を唱え始める。
「形なきもの、自由なるもの、我、血の契約を
結びし者の末なり。祖に従い、我に従え」
その間にも二人組は近づいて来ている。
自分から差し出すなんて、わかってる
じゃねえか、などと勘違いも甚だしい。
エイスは、二人組を睨みつけ、呪文を
完成させる。
「来たれ、風の精霊! 我が敵を吹きとばせ!」
エイスの言葉に従って集まってきた、
低位の風の精霊たちが小さな竜巻を起こす。
二人組はぐわー!! と叫んで海に
放り込まれていった。
エイスは何事もなかったかのように、
布袋を担ぎ直し、杖を持ち直した。
「この杖は、師から賜ったもの。
簡単に渡すと思うな」
海に向かってつぶやいたエイスは、再び、
杖を構えて振り返った。
そこにいたのは、剣を鞘に収める二人組の姿。
朝と同じく頭からすっぽりと布を被っている。
「何故剣を収めた」
「私たちにあなたと争う意思はありません」
エイスの問いに一歩進み出た、女の方が答えた。
近くで見るとかなり大柄である。
エイスは尚も杖を構えたままで、
「そんなことはわかっている」
と、彼らを睨みつけた。
「では、何故、」
女が問いかけた瞬間、エイスは、
懐から魔法を込めた宝石の欠片を取り出し、
それを使った。
途端に視界を覆う大量の煙が、周囲に
立ち込める。
単に煙を発生させるだけの魔法だが、煙幕には
十分だ。
「面倒事には巻き込まれたくない。依頼なら、
魔法道具店“パープルクラウド”のファインを
通してくれ」
言い残してエイスはその場を去った。
海の見える丘の上、港町クロスポートから少し
離れた場所に、エイスの家はあった。
魔法の守りが施してある一軒家。
背後を確認してから、家に入ったエイスは
台所を抜けて、マントを脱ぐのもそこそこに、
ベッドに倒れ込んだ。
「疲れた……」
魔法の守りがあるこの家ならまだしも、外で
魔法を使うと、どっと疲れが出るのだ。
師匠スパーク・ホワイトが帰らなくなってから、
三年間、もう、ずっとである。
今日は、少し危かった。
エイスは、ローブの袖を捲り、腕の様子を確認
する。そこにうっすら浮かぶ竜の鱗のようなもの。
魔法を日に三回も使えばはっきり出て、それ以上
使えば肩まで広がる。
このことを知っていたのは師匠のみ。
その師は今はいない。
ある日、突然、帰ってこなくなったのだ。
探しに行きたかったが、魔法の制限があるため、
未だにどうにも出来ずにいる。
情けない、と思ってしまう。
師は、そんなこと気にするな、と快活に笑うかもしれないが。
想像したら、余計に会いたくなってしまった。
そのまま、エイスは眠りに落ちていく。
辛い現実から目を背けるようにして。
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