出会いはもういらない2
「見つけた!」
その言葉と共に入ってきたのは、活発そうな雰囲気が
印象的な娘だった。
茶色の長い髪を頭の高いところでくくり、緑の目を
持ち、麻で出来た作業着の袖を、肘まで捲っている。
エイスには見慣れた相手だ。
「また、仕事の途中で来たのか? エレク」
エイスが呆れたように問えば、
「当たり前でしょ? エイスったら、用事が
済んだらすぐに帰っちゃうんだから」
と、エイスの幼なじみ、エレクシア・トールは
大仰にため息をついてみせた。
「親父さんにまた、怒られないか?」
「父さんは関係ないでしょ。私は、会いたい時に
会いたい人に会うの」
そうか、とエイスは反論の言葉が思いつかなくてそ
のまま黙った。
その間にこんにちは、ファインお爺ちゃん、と
エレクシアは店主にあいさつをしている。
「仕事はいいのかい?」
「大丈夫。ちゃんと許可はとったし」
「それならいいがね」
しかし、エイスが聞いたときと返事の仕方が
違い過ぎないだろうか。
などとエイスが考えていると、
「それで、食料はもう買った?」
急に話を振られた。
「いや、これからだ」
「じゃあ、わたしが付き合ってあげる」
にっこり笑うエレクシアに、買い物に行く前から
疲れたような気になるエイスである。
「エイス! これもおいしそう!」
新鮮な海産物の店の前でエレクシアが、
手招きする。
「だめだ。それは日持ちしない」
遅れて着いたエイスが首を横に振る。
店主の視線が少々痛い。
「もうっ! さっきからそればっかり!」
頭から湯気が出そうな勢いでエレクシアは怒り、
「おじさん、これちょうだい」
自分で指差した魚の串焼きを買っている。
エイスとエレクシアは市場に来ていた。
先ほどエイスが駆け抜けた、港町クロスポートの
ほぼ中央に位置する巨大な市場だ。
いつも賑わっているこの場所は、今日も店主と
客の値段交渉する声が飛び交っていたりする。
何せここは港町。他国から入ってくる交易品や、
この地方では手に入らない珍しい品々。
漁業も盛んで、新鮮な魚介も数多く売られている。
が、しかし。エイスは先ほどから日持ちする、
乾燥させた食べ物しか買っていなかった。
本音を言えば、極力家から出たくないからである。
今日だって、仕事の依頼品を届ける用がなければ、
師匠との思い出が残る家で、ゆっくりとできていた
はずだったのだ。
「エイス、聞いてる?」
不意に耳に入ってきたエレクシアの声に、いや、
と正直に答えたのがまずかった。
「もうっ! ちゃんと聞いててよー!」
エレクシアはすっかりへそを曲げてしまったようだ。
いいから、見てよ、と小さな声で言われ、そちらに
目をやったエイスは息を呑む。
透き通った小さな水晶が、たくさん並んでいる店
だった。
「ねえ、これ。エイスの杖に付いてる水晶と
似てるでしょ?」
「おっ、お客さん詳しいのかい? これは昔あった、
クリス・タロスって国の水晶鉱で採れたシロモノ
で……」
「ああ。知っている」
エイスは話を遮ると、すたすた歩き出した。
「エ、エイス? 怒ったの?」
エレクシアはエイスの様子に戸惑いながら、
ついてくる。
「怒ってはいない。ただ、懐かしい名を聞いて、
少し、な……」
エイス自身も、簡単には言葉に出来ない何かが
込み上げて来たのは確かだ。
十年程前、エイスがこの町にやってきたのと
ほぼ同時期。
大国サマリオムに滅ぼされた故郷、クリス・タロス。
原因はその水晶鉱を明け渡さなかったからだという。
ただ、亡命してきた水晶鉱の細工師たちがいまでも
生きていて、交易品の水晶を加工しているという話も
聞いている。
「あっ、大変! もう、こんな時間!」
突然、叫んだエレクシアは、食べかけだった魚の
串焼きを急いで、囓って飲み下し。
「エイス、ありがとう! 楽しかった! またね!」
と、仕事場である、鍛冶場へ戻っていった。
「私も帰るか」
エイスは買ったものをもう一度、確認し、
その全てを詰め込んだ布袋を肩に担いだ。
魔法使いとはいえ、力はある方だと思うのだ。
家に居るために、薪割りをはじめ、大抵の家事は
覚えたのだから。
エイスは、周囲を警戒しつつ、帰路につく。
そして、程々に街を離れた場所で、
「出てこい」
後ろを振り返った。
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