ここが異世界か!
※吐しゃ物に対する話題が少し続きます。グロくはないと思いますが、苦手な方はご注意ください。
「なあ、本当にこっちであってる?」
「あったりまえだろ! 俺様の耳と鼻をなめてもらっちゃあ困るぜ!」
「別に舐めてないけど……」
突然聞こえた話し声はどんどんこちらへ向かってきているようだ。ここがどんな世界なのかも分からない状況で、誰かに見付かるのはまだ早いだろう。神様は僕の肩に止まっているから一緒に姿を消す魔法を掛けて様子を見ることにした。
『神様、静かにしていてくださいよ~』
僕が小声でそう言うと、神様は得意気に何もしなければ僕以外の人間には自分の声は鳥の鳴き声にしか聞こえないから大丈夫だと言った。神託を下したり、特定の人物に話しかけるときはキチンと言語に聞こえるような設定が出来るとのこと。そんなことを話していたら、話し声の主たちが眼前に迫っていた。
「うわっ! 何だよコレ~!?」
「地面がこんなにへこんでるの初めて見た!」
僕が地面に着陸したときに作ってしまったクレーターを見て騒いでいる二人は、どっからどう見ても獣人という奴だろう。鼻と耳に自信があると話していたのは恐らく犬の獣人で、もう一人は猫の獣人のようだ。
犬と猫は仲が悪いイメージだけど、獣人同士では違うのかな? まあ、一緒に飼っている家では仲良くしているって話も聞くし、本当はそんなに仲が悪くないのかもしれないな。
「クンクン……こっちから何か変な匂いがする!」
犬獣人が向かった先には僕の吐しゃ物が!!
「これ……誰か吐いたんじゃない?」
冷静に分析しているのが猫獣人……。やめてくれ~! そんなもの見ないでくれ~! さっさと埋めるなり浄化するなりしておけば良かったと後悔が過る。
「まてっ! このゲロの匂い、こっちからもするぞ?」
そう言って犬獣人は僕のほうに近づいてくるではないか! やめてくれ~。口も浄化出来てなかったけど、ゲロ臭いとか言わないでよ~! 慌てて浄化の魔法を掛けて、少し離れた場所に転移した。
「ん? 急に匂いがなくなった。あれっ、ゲロもなくなってる!?」
転移すると同時に僕の落とし物も綺麗に浄化させていただきました。
「わっ、本当だ! さっきまでここにゲロあったよね? 何で消えたの!?」
獣人の二人はキョロキョロと消えてしまった僕の落とし物を探している。やめてくれ……。羞恥で顔が熱くなるのが分かる。肩の上の神様は声を出さずに笑っているようで、プルプルと振動が伝わってくる。
「あったゲロが跡形もなく消えるとか普通に考えてないと思うし、きっと気のせいだったんだね!」
「ああ、そうだな。二人で同じ夢でも見たんだろ」
しばらく探しても落とし物がないから諦めたのかと思ったら、ゲラゲラと笑いながら話す二人は、気のせいや白昼夢という結論に至ったようだ。いや、無理があるだろう⁉ 僕としてはしつこく落とし物の話題が続くより良いんだけど……。この二人は楽天的な性格なのかな。
「でもこの地面のへこみ、ちょっと前に来たときはなかったし、さっきのすごい音に関係あるよね~」
「ああ。この大きさから考えると、小型のドラゴンでも墜落したのかもしれないな」
猫獣人がへこみについて話題を振ると、犬獣人はドラゴンが墜落したのではと考察したようだった。どうやらこの世界には獣人もいるし、ドラゴンもいるということがこの短い会話から分かった。元の世界には魔獣はいたけれどドラゴンも獣人もいなかったから、随分と違うんだなと少しワクワクしてきた。
神子業は祈ったり怪我した人を治したりが主な仕事だったけど、元日本人の記憶持ちな僕は少し戦闘職に憧れがあったんだ。前世の勤勉な日本人の記憶のおかげで勉強は苦じゃなかったし、漫画・アニメ大国なだけあって魔法へのイメージは沸きやすかったから、実は神子に必要な魔法以外も習得している。元の世界で使うことはなかったけど、ここでは役に立つかもしれない。
前世30歳の日本人の記憶はあるけど、この世界での僕はまだピチピチの18歳! チートを夢見たっていいじゃないか! 憧れの冒険者だって目じゃないぜっ!
「原因は分からないけど、もしドラゴンだったら困るし、ギルドに報告に行こう~」
僕が密かに冒険者へ思いを馳せている間も二人は現場検証をしていたらしく、真剣な表情で話し合っていた。どうやらギルドというものもあるらしい。益々ワクワクしてきた! まだ少ししかこの世界を知らないけど、元の世界より絶対面白い!
神様はギャルメジロだから退屈はしなかったし、神子業も嫌いじゃなかったけど、元来大人しくしている様な性格じゃないんだよね。林から去っていく二人の背中をこっそり追いかけることにした。気配は消したままで追いかけると、林を抜けた途端猛スピードで走りだしたのにはびっくりした! 獣人、足がめっちゃ速い! 僕の足じゃとてもじゃないけど追いつけないから、元の世界では使ったことがなかった飛行魔法を試すことにした。
『ジャンっち、飛ぶの上手じゃ~ん♪』
神様が僕の肩の上でご機嫌そうにそう言った。空を飛ぶような魔法のイメージって、小さなころからアニメとか見て育っている現代人にはお茶の子さいさいだと思うんだよね。でも褒められて嬉しいから素直にお礼を言っておく。
『ありがとう、神様』
猛スピードで走りぬける二人を追いかけて、たどり着いたのはウェスタン風の街だった。
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