断罪もどきで婚約破棄されたあげく異世界追放なんて、欲張りすぎだろ!
「ジャン=ヌワラエリヤ!! 貴方は神子という立場に胡坐をかき、従者にすべての身の回りの世話を強いていたようね! 元は平民である貴方に良いように使われた従者たちに代わって、王女であるこの私が貴方を断罪して差し上げますわ!」
突然始まったこの断罪劇は何だろう……。今日は神子として大きな神事を行った後の慰労会という、王宮での舞踏会だったと思うのだが……。
「何、ぼんやりしていますの? 私は貴方に言っているのです! 聞こえていらっしゃるなら返事ぐらいなさい!」
「――はい」
王女様の剣幕に思わず返事をしてしまったが、やっぱり王女様は自分に向けて言っていたらしい。
「今から貴方の罪を明らかにするのですから、よく聞いていらっしゃい」
「――はい」
鋭い目つきで睨みつけられたため再び返事をする。
王女様曰く、僕が神子という立場を利用して、従者を良いように使い虐げていたということらしい。その他も何か色々言っていたけれど、難癖をつけたいだけのようなことばかりだった。例えば食事を毎回残さず食べるのが意地汚いとか、古くなったハンカチをいつまでも捨てないで使っているとか、普通は褒められても良いような内容ばかりだ。
王女様が初めに挙げた『従者にすべての身の回りの世話を強いていた』に関しては全くの事実無根で、むしろ放置されていたから全部自分でやっていたというのに。そのあとに続いた『元は平民である貴方に良いように使われた』ってところが本音なのだろう。
いくら神子とはいえ、平民の世話なんてしたくないし、認めたくないっていうのはずっと長年コソコソどころか堂々と言われていたから分かりきっていることだ。神職者の下働きには平民もいるけれど、ほとんどは貴族だったから、神子という自分たちより上の立場にポッと出の平民が据えられるのに納得がいかないのだ。
神殿では神子に接することが許される立場の者はそれなりの地位の者に限られているし、身の回りの世話だって下働きにさせるわけにはいかない。故に必然的に貴族なのに平民の世話をしなければならなくなった者たちの不満が溜まる。神殿といっても貴族とやらは選民主義の思想の塊ばかりで、どうしようもない連中の集まりだ。もちろん平民にも優しい貴族もいるけれど、そんなのはごく一部だし、僕の身の回りにいる貴族たちはこぞってそういう奴らばかりだった。
――僕が神子に選ばれたのは今から10年前の8歳のことだった。突然右手の甲に怪しげな紋章が浮かび上がったと思ったら、一筋の強い光の柱が僕を突き抜けて天に向かって伸びたんだ。一瞬のことだったけど、村の神父さんが光の発生源を辿って家に来て『ジャンが神子様に選ばれた!!』と涙を流しながら言うもんだからびっくりしたのなんのって。そのタイミングで前世の記憶が蘇って、キャパオーバーだったのか熱を出してぶっ倒れて、次に目が覚めたら王都の神殿に移送されてたわけ。
目が覚めたら神殿で一番偉いという教皇様の部屋に連れていかれた。まず水を飲ませて欲しかったけど、有無を言わさぬ勢いで連行された。
行ったら行ったで、僕が子供で何も知らないのを良いことに丸め込もうとしているのが丸分かりで辟易した。まあ前世の30歳の記憶を持った僕にはポーカーフェイスなんてものはお茶の子さいさいである。神妙な顔をして頷いていれば相手は満足するし、少しでも難色を示したらきっと良くない結果に結びつくことなんて分かりきっている。
要約すると神に選ばれたが、調子に乗るなよって言いたいみたい。従者はつけるけど、貴族だから平民のお前の世話なんかさせない。監視させるから自分のことは自分でしろだって!!
喉も乾ききっていたし、早く話を終わらせて欲しかったからひたすら無言で従順に頷いた。結構ひどいことを言われているし、神子って神殿で言ったらトップの教皇様のさらに上みたいなんだけど、絶対認めたくないっていう強い意志が感じられた。教皇様がこんなに露骨な選民主義なんだから、その下なんて言わずもがなだよね!! ウケる(笑)
前世を思い出した自分的には神子なんて面倒だという気持ちでいっぱいだったけど、神殿に閉じ込められてしまったこの状況では従うしか生きる術はない。なんてったてこの時の僕はまだ8歳だったのだから。
いつか逃げ出してやるとか見返してやるとか心に秘めて10年従順に神子をやっていたけど、どうやらこれで終わりらしい。
神子なんて数世紀は現れていないとかで、王家に血をつなぎたいからって理由で王女様の婚約者にされたのが10歳の頃。高飛車で我儘な王女様は神子とは言え元平民が婚約者なのが気に入らない様子だったから、いつか婚約は解消されるかもなとは思ってた。でもまさか断罪されるとは思ってなかったけど!
一応神子として真面目に祈りを捧げたり神事を行ったりしていて民衆の支持率は高かった僕との婚約を解消するには、並々ならぬ理由が必要だったのかもしれないけれど!! 横暴ですよ! 冤罪も良いところ!!
ていうか、さっきから王女様の横に寄り添っているイケメンマッチョの聖騎士様とデキてるの、僕知ってますケド⁉ おマッチョ様は爽やかな笑みを浮かべている。この意味の分からない状況で! ある意味怖い! サイコパス味を感じる……。王女様はそのおマッチョ様と堂々とくっつきたいから、僕が邪魔なんですヨネ⁉
脳内でアレコレ考えてる間も王女様はずっと僕に対するよく分からない冤罪をくどくどと語っていたらしい。意識がそっちに戻った時にはすでに魔法陣に包まれていたため対処が遅れてしまった。慌てて自身に結界を張ったけれどもう遅い。魔法陣は発動してしまっていて、身を守る結界しか発動できなかった。
「おーっほっほっほ~! 罪人である貴方はこの世界には必要ありませんわ!! 婚約破棄の上異世界に追放して差し上げますから、どうかお達者で~!」
初めてリアルで『おーっほっほっほ~!』って笑う人を見た衝撃で、僕は何も言い返せないまま強い光に包まれて異世界に追放されてしまったのだった。
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