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賢王には寵妃を、愚王には賢妃を

作者: からす
掲載日:2025/08/02

よろしくお願いいたします

『賢王には寵妃を、愚王には賢妃を』

 この国の不文律である。


 この国の王族の出生数は、貴族平民に比べ、格段に少ない。

 それでも一夫一妻を掲げ、継子の少ないながらも直系を繋いできた、それがこの国の王族なのである。

 一代に子が一人、そんな事も少なくない。

 その為、軋轢が起こる事も少ないが、王位を継ぐ唯一の子が、有能であるとは限らない。

 その解決法が、王に即位してからの、婚姻である。

 そして生まれた不文律。




 当代王太子アルノルドは、王からの口伝でその不文律を知る。

「アルノルド。『賢王には寵妃を、愚王には賢妃を』

 意味は解るか?」

「はい…。すぐれたおうには、かわいいおひめさま。ちょっとだめなおうには、あたまのいいおひさま。ということでしょうか?」

「ああ、まあ今はそれ位の認識で良かろう。

 それでだな…どうした、アルノルド!」

 王太子アルノルド…王族は、幼い頃から感情を表に出さぬよう教育され、アルノルドも滅多に感情を昂らせた事はなかったのだが。

 大粒の涙を溢し、しゃくりあげて泣き出した。

「うっ、う、うわーん!」

 更に上がる声。

 突然泣き出したアルノルドに、王は焦り出す。

「ア、アルノルド、どうしたんだ?」

 侍従等は、何時もなら部屋に控えているはずだが、口伝を伝えるとあって、この場には王と王太子、二人しかいない。

 そして執務に忙しい王は、我が子を宥める術を持っていない。

 王ができたのは、手巾を渡し、泣き止むまで、アルノルドの頭を撫でてやる事位だった。

 


 ようやくアルノルドが、まだ鼻を啜っているとは言え、泣き止んだ。

「アルノルド、大丈夫か?」

「だいじょうぶではありません!

 わたしのじんせいのいちだいじです!」

 それを聞き、目を丸くする王。

「…それは、どうして?」

「わたしは、きょういくかかりに、あたまがいいといわれました。

 だから、『けんおう』になるのです。

 そうすると、あたまのいいおひめさまとけっこんできません…。」

「?」

「キプリングこうしゃくけごれいじょうのローズマリーじょうからいただいたおてがみは、じもうつくしく、ないようもとてもすてきでした。

 きっと、あたまがいいのです。

『けんおう』は、あたまのいいおひめさまとけっこんできません!」

「ぶふっ!」

 王は、あまりにも可愛い思考に、声を上げて笑いそうになった。

 寸前で堪えたが、失礼な声が漏れた。

「わらいごとではありません!

 ぼ、ぼくのいちだいじなのに…うわーん!」

 また泣き出す始末。

 王は今度は、「すまん、すまん」と普段家臣には見せない困り顔で、息子の頭を撫で続けた。



 再びアルノルドが泣き止んだ。

 そして王は、静かに話し出す。

「アルノルド、お前の大事な気持ちを笑ってすまなかった。」

「ちちうえ、おうぞくは、かんたんにあやまってはいけないとまなびました。」

「ああ、そうだな。だが、お前は王太子であるが、私の大切な息子だ。

 大切な家族には、間違いはきちんと謝るのが道理だ。」

「どうり?」

「うーん、人として、大切に守るべき事、ってところかな…。」

「まもるべきこと…。」

「そしてアルノルド、ローズマリー嬢が婚約者だったら良いなぁ、と思っているのかい?」

 アルノルドの顔が、ボフン!と赤くなる。

「ちちうえ、なんでそれを!」

「何でって、アルノルドが話してくれたろう?」

 アルノルドの頬が膨らみ出す。

 その様子を、微笑みでもって見つめる王。

「あのな、アルノルド。寵妃…というのは、大切な人、という意味だよ。」

「たいせつなひと。」

「私からすれば、王妃、お前の母上だ。」

「ちちうえは、ぼくも、ははうえもたいせつなひとなのですか?」

「ああ、大切だ。そして『賢王』はね、大切な人をお姫様に出来るという事なんだ。

 私も、王妃…レイチェルと結婚する為に、賢くあろうと努力した。

 そうすれば、周りの人達も、文句は言えない。

 王の大切な人なんだから。」

 王は、居ずまいをただす。

「そして、ここからがもっと大事な事だ。

大切な人だからと、勝手をしてはいけない。

人には、感情があるんだから。

 その感情は、伝え伝えられなくては、お互い解りあえない。

 だから、自分の気持ちを伝えるだけでなく、相手の気持ちを聞く事も大切なんだ。」

 アルノルドは、深く頷く。


 そして、先程よりは爽やかな表情で退室して行った。



 侍従が戻ったが、王は茶菓を供されると、人払いをした。


(まだ伝えるべき事は十分伝えられていないが…。

今は、この程度の理解で良いか。)

 


 王は、息子の姿に初心を思い出す。

 ここ最近は、忙しさに決裁で時間を取られ、家臣に提案された、新しい施策にも着手出来ていない。

 そして当然、家族の交流も無かった。


 忙しいと言っていたが、漫然と過ごしていた結果なのかも知れない。

 次代を継ぐ大切な家族の為に。

 守るべき民の為に。

「少し、頑張ってみましょうか。」

 王は、窓の外を見遣った。







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