賢王には寵妃を、愚王には賢妃を
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『賢王には寵妃を、愚王には賢妃を』
この国の不文律である。
この国の王族の出生数は、貴族平民に比べ、格段に少ない。
それでも一夫一妻を掲げ、継子の少ないながらも直系を繋いできた、それがこの国の王族なのである。
一代に子が一人、そんな事も少なくない。
その為、軋轢が起こる事も少ないが、王位を継ぐ唯一の子が、有能であるとは限らない。
その解決法が、王に即位してからの、婚姻である。
そして生まれた不文律。
当代王太子アルノルドは、王からの口伝でその不文律を知る。
「アルノルド。『賢王には寵妃を、愚王には賢妃を』
意味は解るか?」
「はい…。すぐれたおうには、かわいいおひめさま。ちょっとだめなおうには、あたまのいいおひさま。ということでしょうか?」
「ああ、まあ今はそれ位の認識で良かろう。
それでだな…どうした、アルノルド!」
王太子アルノルド…王族は、幼い頃から感情を表に出さぬよう教育され、アルノルドも滅多に感情を昂らせた事はなかったのだが。
大粒の涙を溢し、しゃくりあげて泣き出した。
「うっ、う、うわーん!」
更に上がる声。
突然泣き出したアルノルドに、王は焦り出す。
「ア、アルノルド、どうしたんだ?」
侍従等は、何時もなら部屋に控えているはずだが、口伝を伝えるとあって、この場には王と王太子、二人しかいない。
そして執務に忙しい王は、我が子を宥める術を持っていない。
王ができたのは、手巾を渡し、泣き止むまで、アルノルドの頭を撫でてやる事位だった。
ようやくアルノルドが、まだ鼻を啜っているとは言え、泣き止んだ。
「アルノルド、大丈夫か?」
「だいじょうぶではありません!
わたしのじんせいのいちだいじです!」
それを聞き、目を丸くする王。
「…それは、どうして?」
「わたしは、きょういくかかりに、あたまがいいといわれました。
だから、『けんおう』になるのです。
そうすると、あたまのいいおひめさまとけっこんできません…。」
「?」
「キプリングこうしゃくけごれいじょうのローズマリーじょうからいただいたおてがみは、じもうつくしく、ないようもとてもすてきでした。
きっと、あたまがいいのです。
『けんおう』は、あたまのいいおひめさまとけっこんできません!」
「ぶふっ!」
王は、あまりにも可愛い思考に、声を上げて笑いそうになった。
寸前で堪えたが、失礼な声が漏れた。
「わらいごとではありません!
ぼ、ぼくのいちだいじなのに…うわーん!」
また泣き出す始末。
王は今度は、「すまん、すまん」と普段家臣には見せない困り顔で、息子の頭を撫で続けた。
再びアルノルドが泣き止んだ。
そして王は、静かに話し出す。
「アルノルド、お前の大事な気持ちを笑ってすまなかった。」
「ちちうえ、おうぞくは、かんたんにあやまってはいけないとまなびました。」
「ああ、そうだな。だが、お前は王太子であるが、私の大切な息子だ。
大切な家族には、間違いはきちんと謝るのが道理だ。」
「どうり?」
「うーん、人として、大切に守るべき事、ってところかな…。」
「まもるべきこと…。」
「そしてアルノルド、ローズマリー嬢が婚約者だったら良いなぁ、と思っているのかい?」
アルノルドの顔が、ボフン!と赤くなる。
「ちちうえ、なんでそれを!」
「何でって、アルノルドが話してくれたろう?」
アルノルドの頬が膨らみ出す。
その様子を、微笑みでもって見つめる王。
「あのな、アルノルド。寵妃…というのは、大切な人、という意味だよ。」
「たいせつなひと。」
「私からすれば、王妃、お前の母上だ。」
「ちちうえは、ぼくも、ははうえもたいせつなひとなのですか?」
「ああ、大切だ。そして『賢王』はね、大切な人をお姫様に出来るという事なんだ。
私も、王妃…レイチェルと結婚する為に、賢くあろうと努力した。
そうすれば、周りの人達も、文句は言えない。
王の大切な人なんだから。」
王は、居ずまいをただす。
「そして、ここからがもっと大事な事だ。
大切な人だからと、勝手をしてはいけない。
人には、感情があるんだから。
その感情は、伝え伝えられなくては、お互い解りあえない。
だから、自分の気持ちを伝えるだけでなく、相手の気持ちを聞く事も大切なんだ。」
アルノルドは、深く頷く。
そして、先程よりは爽やかな表情で退室して行った。
侍従が戻ったが、王は茶菓を供されると、人払いをした。
(まだ伝えるべき事は十分伝えられていないが…。
今は、この程度の理解で良いか。)
王は、息子の姿に初心を思い出す。
ここ最近は、忙しさに決裁で時間を取られ、家臣に提案された、新しい施策にも着手出来ていない。
そして当然、家族の交流も無かった。
忙しいと言っていたが、漫然と過ごしていた結果なのかも知れない。
次代を継ぐ大切な家族の為に。
守るべき民の為に。
「少し、頑張ってみましょうか。」
王は、窓の外を見遣った。




