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<R15>15歳未満の方は移動してください。

今日も諦め日和です⭐︎酒の肴はイケメンくんの笑顔、プライスレス!

残念お姉さんは、好きですか?

わたしは、好物です。

*R15は、仮です。お酒の場だから…

また、このパターンか…

私はそっとため息を吐く。


「俺、柏原さんがすきなんだ。柏原さん、誰か好きな人居たりするかな?南原、仲良いだろ?なんか聞いてたりしないか?」


笑顔の中に少し必死な色を滲ませながら、私の好きな人が聞いてくる。

胸がズキズキと痛むのを隠しながら、困った顔を作り、軽く首を傾げながら苦笑を浮かべる。


「柏原さんとは、そこまで仲がいい訳じゃないよ。たまにご飯を食べる程度だし、女子同士だとそれくらいの仲じゃ本音は聞けないかなぁ〜」


そう答えて、場を濁す。

目の前の彼は、私が密かに傷付いている事には気付いてもいないのだろう。


「えー…すごく仲良さそうなんだけどなー。そっか。でも、女子同士の仲は、難しいって言うもんな。」


「そうそう。女子は難しいんだよ。三木みたいに単純明快には出来ていないんだよ。」


ズキズキ…


「だから、まあ、自分で頑張って。」


ズキズキズキ…


痛む胸を抑えることも出来ずに、困った顔で、笑顔で…


「ひでぇーなー。南原だって、一応女子だろ?もっと優しくしてくれよ。」


ズキズキズキズキ…すき…


「応援してるんだから、優しいでしょ?それから、一応じゃなくて、正真正銘の可愛い女子だから。仮称付けないでよね。」


バレない様に、崩れない様に…


「はは、ごめんって。感謝してるよ!ありがとな。そだな、頑張ってみるかー。」


どこか吹っ切れた、でも覚悟を決めた目でないかを決めた彼は、眩しい笑顔で前を向く。

ああ…またか。

また、このパターンか…。


「なんか、南原に応援されると、自然と背中を押されてる気がするんだよな。頑張れそうだわ!」


よし!

と、手を握り、彼は鞄を手に取った。


「いい報告が出来るように、祈っててくれ!」


「えー。そだねー、暗い顔して戻って来たら面倒だから、そうするわ。」


「ひでぇーな!」


明るく笑いながら手を上げて、教室から出て行った彼が、その日戻ってくる事は無かった。

私は、別れにあげた手を下ろすこともできずに彼が出て行ったドアを見つめ、気が付けば一筋の涙が床に落ちたのだった。


彼は、私の今までで1番の…本気の恋だった。


……………


「って言うのが、私の甘酸っぱーい学生時代の恋の話よ!!」


「ふむ。」


ドンッと、飲んでいたビールの中ジョッキをテーブルに勢いよく下ろした私は、手前にあったつまみの焼きゲソを口に放り込む。

思えば、懐かしくも輝かしい、大好きだった人の記憶。

そして…私の恋の苦難の始まりを暗示する出来事だった。


「それからよ…私の苦難が始まったのは!」


そう。

あれは、彼が恋の成就を、喜び勇んで報告した事から始まった。

大好きで大好きだった彼が、輝かんばかりの笑顔で、顔近っ?!という距離で報告してくるのを、泣きそうになるのを必死に耐えながら聞いていた私に、彼は言った。


「南原が背中を押してくれたお陰だよ!ありがとな!本当に、恋のキューピット様だな!!」


彼に悪気はない。

恋はスピード勝負だ…私はスタートすら出来ずにいた。

だから、これは私が友人という立場に胡座をかいてスタートが遅れた結果だと、受け入れるために、あの日の夜たくさん泣いたのだ。

が、それはそれとして、胸は痛む。

それはもう、ズキズキと痛む。

近いとドキドキもするし、ズキズキとも痛むし、私の胸はそろそろ限界だ。


「これからも、仲良くしてくれな!」


輝かんばかりの好きな人の笑顔を前に、私は…私は…


「別れても慰めないから、せいぜい頑張って幸せになってね?」


そう、笑顔で返しながら、


「近い、鬱陶しい、離れてよ暑苦しい。」


と、彼を片手で押し返したのだった。

実に可愛くない反応だったと思う。


「ひでぇー。」


少し拗ねたような笑い声に、また一つ胸が痛んだ。


「それからも、ことある事に彼の恋の悩みを聞くハメになったわ。」


ガジガジとゲソを噛みながら話す私に、向かいの彼は、特に表情を変える事なく、手元のグラスを傾けた。


「ふぅーん」


特に同情するでも呆れるでもなく、ただそう言うものだと言う感じで返事を返してくる。


「好きな人に…大好きな人に…卒業するまでずっと恋愛相談をされ続けるハメになったわ。」


ため息一つ。

それも、盛大な。


「それはそれは、んー…よくがんばりましたって言えばいい?」


「んむ。褒められて良いと思うわ。嫌いにもなれないくらい好きだった人だから、本当に頑張ったと自分でも思うわ。」


ビールを片手に、ぐいっと勢いよく飲みながら、ゲソをガジガジと齧る。

若かったあの頃。

そんな思いと共に過ごした日々すら、尊く感じるほどに懐かしい。


「でもね、そこからが始まりだったのよ…」


私はそこからの日々を思い返す。

高校を卒業し、大学から大学院を経て、新社員へと進んだ私は、その恋だけを大事にし続けたわけではない。

その後も恋はした。ちゃんと新しい恋もして来たのだ!!

もともと、彼を思うまでだって、恋はして来た。

おままごとの様な恋だったとしても、女の子らしく恋をして来たのだ。

どれも、告白にすら辿り着かない恋だったけれども…

彼の事が決定打になるかのように、その先も、告白にすら辿り着く前に…私の恋は消えていった。

…どころか、私はことごとく、恋のキューピットにされたのだ。

そう!キューピットにだ!

誰が悪いのではない。

彼らに、彼女らに悪気もない。

それは分かっているのだが…


「私だって、女子アピールしてきたのに、なんで?なんで恋愛対象にすらなれないの?告白する前から終わるのなんでなの?まずは告白させてよ!どうして背中を押された事になってるのよ?押した覚えないわよ!!」


嘆きながら、ぐいっとビールを煽る。


「ははは」


感情がのらない笑い(?)声を返事に、目の前の男もグラスを傾ける。


「はぁー…私だって恋人が欲しいわよ。」


良い友達。

恋のキューピット。

お前がいたから、俺たち付き合えたんだ宣言を、これまでに幾度となく受け続けた私は、この度悟った。


「私、モテないのね…」


恋愛対象にすら辿り着けない、残念女子なんだと。

これまで、私はそれなりに良い女なんだと自負して来た。

こう言ってはなんだが、スペックは高い方だと思う。

それなりに稼いでいるし、顔だって悪くない。

家事だって一通りこなせて、ついでに柔道も黒帯だ。

そりゃ、イケメンモテ男の称号をほしいままにし、活用する兄や、自他共に美人でモテモテな姉よりは劣るし、賢く将来有望な妹やスポーツ特待生な弟にはスペックとしても劣るかもしれないが、それでも普通に私は有望株の美人枠だと思っていた。

自負していたし、努力もして来たのだ。


「恋愛諦めて…婚活するしかないのかな…」


さめざめと語る私に、また乾いた笑い声が聞こえる。


「はぁー…恋がしたい。」


「じゃあ、僕とする?」


酒の席での、何気ない愚痴に対する軽い返事を、本気にするほど若くはない。


「んー。君はなー…好みじゃないというか、心が揺さぶられないというか…それより今更なんだけど…」


「うん?」


私の言葉に若干不満げな顔をした目の前の男を眺めながら、疑問を口にする。


「君、名前は?」


そう。

私は、一人寂しくテーブル席で飲んでいた私の前に、当然のように座って来た彼の名前も知らない。

なぜテーブル席に一人なのかと、側から見ると思われていたとは思う。

答えは簡単だ。

入店した時に居た同席者が、笑顔で、


「俺頑張ってみるわ!」


と、意気揚々と先に席を立ち、告白という使命を全うしに旅だったからだ。

二度と戻って来ないで欲しいと思う、切実に。

泣いてしまうから。

皆まで言うな。

そう、旅だった彼は、今の私の恋する相手だった。

ははは。

私も乾いた笑いが口から漏れそうだ。

ツライ。

胸はズキズキと痛むし、席を立つ気力も湧かず、一人寂しくビールを頼んだ。

それなりの値段のする飲み屋の間仕切りのされた「オープンながらも個室的な」テーブル席で、「女一人」で、ビールとゲソを頼んだ。

枝豆とだし巻き卵、それにオススメおつまみセットも頼んでやった。

ビールの後は、お気に入りのカクテルでも頼むか。

全部彼の奢りだと言っていたので、後で領収書を貰って請求してやろうと思う。

こんな所に呼び出して、期待さえて、一人にした、友人のまま終わった彼に、せめてもの嫌がらせだ。

それくらいは、許されるだろう。

そうして、ヤケクソ気味に、おそらく目には涙を浮かべて飲んでいた私の前に、彼は現れたのだ。

まるで待ち合わせをしていたかの様に、当然の様に席に座って来た。


「やあ、こんばんは。」


席に座って、それはもう自然に店員にオーダーを出す。

あまりに自然な態度に、私も一瞬、他にも約束していた人がいたか本気で考えたくらいだ。

それから、実に自然にハンカチを渡してきた。


「話、聞くよ?」


そう言われて、悟った。

ああ、私は泣いていたんだ。

涙を浮かべるなんて可愛いものじゃないくらいに、ぼろぼろと泣いていたのだ。

だから、店員が少し動揺していたのだろう。

そして、見かねた彼が、同情してくれたのだろう。

自然に見えるように、座ってくれたのだと気が付いた。


「あー…ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかなー。」


言い訳すると、すでにビールは3杯目。

少し、酔っていたのだ。

そして、遠慮なく延々と泣き言を聞かせて、今に至る。

彼は随分と、辛抱強いお人好しだった。

そこから更にビールを2杯追加していたから。


「やっと、そこ?」


呆れたように言う彼を、マジマジと見つめてみる。

そこに居たのは、多分10人中9人は「イケメン!!」と言うであろう、お洒落な美丈夫だった。

私の周りには、10人中10人が認める兄と姉がいるので、眼福とは思うがそれだけなのだが。

友人たちには身内の欲目だとよく言われてきたが、写真や本人に会うと皆推し黙るので、そう言う事だと思う。

いや、それは今はいい。

酔いからか、思考が少し散らかってしまう。


「いやー、若いのに気が利くいい子だなーって感心していたの。辛抱強い良い子だなーって思って、名前聞いてみようかなーって。」


困った様に首を傾げながら、不満を隠さない彼に少し笑ってしまった。


「初めは女慣れもしてる感じだし、こういう感じにも慣れていそうなスマートな軟派野郎ぽいし、遠慮は要らなそうだなーって思ったら、なんだか口が軽くなっちゃって。」


つい本音が口から溢れてしまう。


「なるほど。酔っ払いの馬鹿女じゃなかった。」


失礼な返事が返ってきて、ふふっと笑いが溢れてしまった。

驚いた様に目をぱちくりしいた彼は、印象が少し幼くなる。

ああ、どうやら予想外の反応をしてしまったらしい。


「怒らないの?」


不思議そうに訪ねてきた顔が、悪さをした後の罰が悪そうな弟の顔と重なる。

もしかすると彼は、初めの印象より若いのかもしれない。


「何に?」


「いや、何にって。」


「君は本当の事を言っただけじゃない?怒るとこないよ?」


不思議に思い、首を傾げる。

彼の意見は正しい。

普通に考えて、いきなり座ってきた、見ず知らずの男に延々と泣き言を溢した私は、紛れもなく馬鹿女だ。


「ふふふ。」


おかしくなって、また笑いが溢れる。


「大丈夫?頭」


ひどい。


「ひどいなー。笑っただけじゃない。」


ムッとして唇を尖らす私に、呆れた顔を隠さない。

とても気が楽だった。

彼は聞き上手で我慢強い、いい子だ。


「ただのナンパなら、追加のビール半分くらいで、席を立ったと思うのよね。でも、ここまで付き合ってくれるなんて、君はいい子だから、名前聞いてお礼言いたくなったの。」


くすくすと笑う私に、彼はまた、ぱちくりと瞬きを繰り返す。

そんな表情がまた、幼い頃の弟に重なる。


可愛い。


そう思って、つい手が伸びた。

彼の頭をヨシヨシと撫でながら、その柔らかい短い黒髪を堪能する。


一瞬ビクッとしたが、彼は特に嫌がる様子もなく、そのまま撫でられてくれる。


まるで、人懐こいワンコみたいだ。


そんな印象に、ついつい心がほっこりした。

言い訳すると、だいぶ酔っているのだ。

色んな事を聞いてくれた彼に、少し絆されてもいる。


「そんなんじゃ、お持ち帰りされるよ?」


撫でられながら、上目遣いにそんな事を言ってくるから、また笑ってしまう。


「あはは、それは良いね。お持ち帰りか〜…そんなロマンスの始まり方もありなのかな〜?」


楽しくなってきた。

目の前の彼を撫でながら、これまでの恋愛遍歴を思い出し、そして苦い想いが笑みに乗る。


「なんでかね、私、お持ち帰りもされた事ないのよね。別に今までもこういう風に飲んで、こう、女らしく酔ってみたりもしたんだけど…なんかね。対象外なのよ…ははは…」


ふぅっと、ため息を溢す。

今日何度目の溜息だろう。

「幸せが集団逃走しちゃってるよ?」と、姉が心配そうに見つめてくる姿が頭に浮かぶ。

私じゃなければ惚れていた。

やはり思考が散らかっている。


「まあ、なんだかあなた…毒気が抜かれるからね。そうなのかもしれない…僕も、こんなに意味もなく話だけど延々と聞くことになるなんて…初めてだよ。」


やはり不満げに言いながらも、どこか楽しげに頭を撫でられている彼は、手に持ったグラスを口にする。

飲むなら邪魔だろうと撫でるのをやめると、目だけで不満を訴えてきたので、また撫でてやる。


ワンコかな?


なんだか楽しくなってきた。

とても癒されるた気分だ。

これは、まさに…アニマルセラピーそのものだ。


「ありがとうね。なんかとっても癒された。」


くすくすと笑う私を、困った様に笑いながら見つめてくる。


「こんな筈じゃ無かったんだけど…良いけどね。なんか、僕もよくわかんないけど満足しちゃってるから。」


よく分からないが、彼も満足らしい。

良かった、どうやらWin-Winのようだ。


「そかそか。じゃあ、そろそろ解散にしよか。明日は休みだけど、流石に飲みすぎたし、今なら気持ちよく眠れそうだから。」


涙はとうに引っ込んだ。

それどころか、すっかり癒されてるご満悦な私は、荷物を持って席を立つ。


「え?」


慌てた様に、私の手を取りながら、


「待って待って、名前も答えてないんだけど。」


少し焦った様な彼に、私は笑顔で答えた。


「いいよいいよ、名前、教える気なかったでしょ?酒の席のマナーくらい、私も知ってるよ。ありがとね、イケメンくん」


ぽんぽんとその手を軽く叩きながら、あやす様にすると、握る手が強くなった。

ちょっと痛い。


「礼人ぼくの名前は礼を尽くす人と書いて礼人(あやと)だよ。」


なかなか育ちの良い名前の紹介をしてきた。

ふむふむ。


「わたしはねー、みやこ。広い海の様に愛情深くあるようにって事で、海弥子(みやこ)だよー。良い名前でしょ?」


ふふんと、胸を張りながら名乗る。


私は少し古くさいと言われがちな自分の名前を、とても気に入ってる。

名前は、生まれた子が貰える初めての贈り物だっていうけど、私のこの名前は、今は亡き大好きな父方の祖父が付けてくれた、大事な贈り物だ。

酔うと私に頬擦りしながら、願いを込めて贈ったんだと、嬉しそうに話してくれた。


「お前たちは、みーんな私の可愛い宝物だけど、3番目のみーの時にやっと、私が名前を付ける権利を勝ち取ったんだ!あれは接戦だったなー!!」


正月の親戚が集まる中、兄が生まれた時から繰り広げられているという、大人たちの名前付けの権利を争う戦いなるものを聞いてきたが、毎回父母、双方の祖父母たちで何かしらの勝負をしていたのだそうだ。

そして、その伝統は今も引き継がれている。


兄の初めての子…私の可愛い初姪の名前を付ける権利を勝ち取るために苦心したが負けたのは、今も悔しい。

あの時は、ポーカーだったな。

あの時は、なりふり構わず勝ちに来た兄が勝利したのだ。

兄曰く…バレなければ勝ちなのだと…

どういう事かは、深く聞かなかったが。

次は参考にしよう、何をとは言わないが。


他へと思考と飛ばしながら、自慢げに答えた私を苦笑気味に見やりながら、イケメンくんもとい、礼人くんがポケットからスマホを取り出し、


「連絡先教えてよ。」


と、言ってきた。

連絡先?


「どうして?お礼は今日の飲み代で許してくれないかな?」


首を傾げて言ってみた。

確かにたくさん付き合わせたから、改めてお礼を言うのは大事かもしれないが、またこんなに付き合わせるのは忍びない。

彼は話しやすいから、ついまた色々聞かせてしまうかもしれない。

そんな予感がするので、そう返事をした。


「どうしてって…えっと。」


彼は予想外と言わんばかりに、慌てた様に口ごもり、


「あー…次は僕の話も聞いてよ?自分ばかりはズルいと思わない?」


なるほど。

確かにそうだと納得した。

延々と愚痴を聞いてもらいながら一方的だなんて、確かに彼からしたら理不尽だろう。

その時、私はそう納得したのだ。

酔っ払いながら泣きつつ愚痴を聞いてもらいながら、そしてアニマルなセラピーまでして貰いながら、「はい、お終い」なんて、確かにあんまりだ。

だいぶ酔っていた私の思考は、かなり緩くなっていた。

そう、本当にゆるくなっていた。


「たしかに。えっと、スマホ〜でんーと、ライム・ラムでいい?これの方が気楽だし。」

ライム・ラムは、今流行りの交流サイトだ。

気楽にSMSや画像のやり取りも出来るので、私も家族とのやりとりに重宝している。

家族でグループを作り、可愛い姪っ子や、実家のワン太郎とワン次郎、姉の飼ってる猫美さんとオウムの鳥美さんの写真や動画を堪能出来るのだ。

ついでに自慢するなら、これの元を作ったのはかーわいい!妹で、運営しているのは母だ。

この運営権も、大人たちの間で争われたのは記憶に新しい。

私は経営の才能は無いから、悔しい涙を流しながら辞退した。


「家族でいつでも連絡取れる様に作っただけなのに…」


困った顔した妹の頭を撫でながら、


「大丈夫、家族用のサーバーは完全に別にして、セキュリティーも僕が作るから。」


と、ニコニコしながら父が話した時、世界でもトップクラスの安全な家族間サイトが出来上がる事を確信した。


スマホを出し、フレンドリー登録をしようとして、ついつい新規で届いていた姪っ子の写真を堪能してしまっていたら、痺れを切らした様に、礼人くんが自分のIDを差し出してきた。


「ごめんごめん、かわいい姿に目を奪われちゃって!」


言い訳しながら笑い、ID登録をしてから、SMSを送る。

雑事だが、家族用のアカウントは自動で別のサーバーに繋がる様になっているらしく、構築したのは父なので仕組みは全く分からない。(えっへん!)

基本我が家の安全(?)管理は父がしているので、父の許可した情報以外は、友人間であっても外部へ流出する事はない。

友達に写真を送ろうとしても、なぜか「私」だけ消える。

違和感なく消える。

仕組みは謎。

学生時代に友人同士で送り合った写真から私が消えていた時…

実は私存在しないんでは?

私が存在してるだけって思ってるだけで、本当は私は…

などと厨二的な思考に囚われ、怖くなって家族に泣きついた時の、青ざめた父の慌てた姿と、母の父へ向けた殺気は本物だった気がする。

アワアワしながら仕組みを説明していた父の話の内容はサッパリだったが、それ以降友人同士で撮った写真から私が消える事は無くなったので、ヨシ。


「じゃあ、これからよろしく、海弥子さん。」


「はーい、よろしくね、礼人くん。」


多分年下だと確信している私は、気楽に君呼びをしながら、握手を求めた。

なんだかやっぱり困った様に笑いながら、礼人くんはその手を握り返してくれる。


「ほんと、こんな筈じゃ無かったんだけど…」


ぼそっ呟いたその声を、私は聞き取ることが出来なかった。


「なぁに?もう一度お願いー。」


「こちらこそ、よろしくって言ったんだよ。」


顔を上げて輝く様に笑った彼は、何かを吹っ切った様な、どこかで見たことある様な笑顔をしている気がした。




あれから一年。

私は今、彼と暮らしている。








続き物にしたいなーと思いつつも、短編にしてみた作品です。

わりと、このお姉さんはお気に入り。

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― 新着の感想 ―
報われない恋に苦悩する南原さんの姿に私も共感しかありませんでした。好きな彼の恋愛相談に乗ってしまう切なさや恋のキューピットになってしまう呪いのような展開はよーくわかりますね笑 ささやかな応援ですがブク…
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