表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

怪談

ふすま

作者: 波留 六

 親の帰りはいつも遅く、決まって零時を過ぎてからだ。

 鍵のかかった家、閉め切った部屋にいると、ひとりきりの静けさに息苦しさを覚えた。

 だから、いつも押し入れをわずかに開け、眠りにつく。


 ある夏の夜、豪雨が窓を叩いたあと、停電になり冷房も止まる。

 暑さで寝付けず、幾度も寝返りを打ち瞼が重くなるのを待っていると、ふと遠くから「おーい、おーい」と誰かを呼ぶ声が聞こえた気がした。


 気になって起き上がり、耳を澄ませると、その声は聞こえる。どうやら押し入れの中からのようだ。

 立ち上がり、押し入れの前に立つ。すると、僅かな隙間からこちらを覗く視線と重なった。暗闇の中、その白目だけはくっきりと見え、胸の奥が凍えた。


 親のいたずらだと思い、押し入れを開け放つ。そこにいつもの荷物はなく、潰れかけの蛍光灯のような淡く青白く照らされた空間があった。墓場のように鄙びた墓標が幾重にも続いている。人影はない。だが、その遥か彼方から、「おーい、おーい」と低い男の声が、響いてくる。


 顔見知りの声だ。それに誘われるかのように足を踏み出しかけたが、空間の凍えるような空気に触れ、我に返って踏みとどまった。

 声はまだ心を揺さぶろうとしている。しかし声の主を捜してそこに踏み込むことなど、もうできなかった。


 そっと襖を閉めようとした、その時、誰かに強く背中を押された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ