宣戦布告のカウントダウン
「Stars and Stripesの三バカ」。
アメリカ全土の地下ネットワークで、そう呼ばれる若者たちがいた。
神政州の最深部“箱舟要塞”に侵入し、人工神AMN-02を沈黙させた日本人高校生3人組。
そのニュースは、ラジオのノイズ混じりに、ネット回線の闇の中に、そして火の粉の降る空にも流れていた。
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「……マジで、三バカって呼ばれてんの?」
由紀が呆れた顔でラジオ端末を放り出した。
「一応“Stars and Stripes”が前に付いてるから、格は高いよ」千代が涼しく答える。
「問題は“バカ”の方だろ!」
「いや、むしろ誇れ。俺たち日本人として、三人揃ってアメリカ全土からバカ認定されたんだぞ。これぞ国際交流」
雷蔵が自慢げに鼻を鳴らす。
「誇るなよクソミリオタ!」
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場所は、廃墟化したアメリカ西部の避難都市“デトリック・タウン”。
神政州の外側にある唯一の非占領区で、各地のレジスタンスと残存政府軍、そして一般市民が身を寄せている。
3人はニューヨーク独立義勇軍からの招待で、ここに身を置いていた。
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「で、その“義勇軍”とやらはいつ来んの?話通すって言ってたけど」
由紀が辺りを見渡すと、工場跡の空間に重い足音が響く。
ガチャ――。
扉を開けて現れたのは、20代後半のスーツ姿の男だった。
「よう。よく来てくれた。“Stars and Stripesの三バカ”」
「おいテメー、名前で呼べ」雷蔵が即ツッコむ。
「悪い、でも一応それで伝説になってんだ。俺たちも君らに賭けてるんだよ」
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男は自己紹介した。名前はアラン・マクレー。
元・国家安全保障局の分析官にして、今は義勇軍の通信・戦略責任者だという。
「君たちの戦果は見事だった。AMN-02を止めたのは、戦術的にも象徴的にも意味がある」
「でも、あれはまだ“試作品”だったんでしょ?」ミナミが問い返す。
「その通り。教主は“完全なる神”を作ろうとしている。
彼の狙いは“全世界への宗教的制御”。そしてそれは……あと72時間以内に完成する」
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「72時間……!?」
「なぜそんな具体的な時間制限が?」
アランは壁のスクリーンに、全米の通信衛星の配置図を映し出す。
「3日後、星条旗記念日を祝うため、全衛星が“国家記念式典”用に再起動される。
その瞬間、教主の信号が“神の声”として世界中にブロードキャストされる予定だ」
「つまり……72時間以内に“教主本人”を止めなきゃ、全人類が信者になると?」
「Exactly」
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千代が静かに言う。
「ブロードキャストそのものは止められない。でも、信号の“中身”をすり替えることなら可能だよ」
「たとえば?」由紀が尋ねる。
「たとえば――AMN-02の代わりに、私たちの“本音”を全世界に流すとかね」
「三バカラジオだな」
「なんでそうなる」
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アランが苦笑しつつ、地図の一点を指さした。
「教主は今、“神の脊椎”と呼ばれる要塞にいる。
それが最後の拠点。南部カリフォルニアの山岳地帯に隠された黒い塔だ。
通信設備、軍事指令、神経演算システム……すべてが集約された中央管制」
「神を名乗るための玉座ってわけか」
「正確には、“世界をリセットするための起爆装置”だ。
彼はそこから“神になる”つもりなんだよ」
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3人は黙った。
雷蔵が銃のスライドを動かしながら言う。
「やるなら、俺が突入担当な。武器は足りてんのか?」
アランが小さく笑う。
「君のために、“地獄のガレージ”が用意されてるよ。伝説のNRA倉庫跡地がね」
「やったぜ!!!!」
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一方その頃、“神の脊椎”内部――
教主と呼ばれる男は、無数のケーブルに繋がれながら、深く椅子に座っていた。
「AMN-02、失敗。だが構わぬ。
すでに我が演算体はAMN-03を通じ、地球全土の感情の流れを掌握しつつある」
助手が問う。
「反抗的な信号が各地に散見されます。“Stars and Stripesの三バカ”というコードネームで……」
教主は目を開けた。
「“バカ”か……いい響きだ。神には“愚かさ”が必要だ」
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72時間後、世界の形は変わる。
それを止められるのは、今やバカと笑われる3人だけだった。




