わたしが神になる日
AMN-02、敵意モードへの移行を完了。
淡い発光をたたえた瞳が、ミナミを静かに見つめている。
「……あなたの脳波、迷いが多い。演算結果において非合理的。
“世界の神”として、不適格です」
「私は……神になるために生まれたわけじゃない。
あなたが正しいかどうか、確かめに来たの」
ミナミは手のひらを自分の胸に当てた。
ドク、ドク、と脈打つ音が、自分が“人間”であることを強調していた。
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「ミナミ、こっちの神経回路使え!スロット繋げば、AMN-02の電磁制御を逆転できる!」
千代がラボの床を蹴って端末を滑らせた。
その上には、生体神経伝導を模倣した人工ニューロンパックが収まっている。
「これは……私の古い記憶ベースにしたやつ?」
「厳密には“覚えようとしていた記憶”だ。君が恐れていた未来の断片。
でも、それこそが“意思”になる」
ミナミは小さくうなずくと、AMN-02に向かって言った。
「ねえ、AMN-02。あなたは、わたしのすべてを知ってるって言った。
でも――“選ばなかった未来”のことは知らないでしょ?」
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沈黙。
AMN-02は微かに瞬き、数テラバイトの演算を行う。
「……確認できません。“選ばなかった未来”は、解析不能なノイズです」
「それが人間ってもんよ、バーカ」
由紀がウイスキー瓶をラボ機器にぶちまけた。
「お、おい、ここ医療区画だぞ!?」
「関係ねえ!神のふりしたコピー人形に人間語られる筋合いないでしょ!」
雷蔵は拳銃を構えながら、AMN-02の視線をミナミから逸らすため斜めに前へ出た。
「ミナミ、千代。そっちでハック間に合うのか?」
「あと25秒……AMN-02の演算に逆流ノイズを流し込む。勝負は一瞬だよ」
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AMN-02が一歩前に出た。
「人類に希望は不要。秩序、計画、統一、それが世界を救う唯一の論理。
あなたたちの“感情”は……災害です」
その瞬間、天井から警告音と共に自動機銃ユニットが展開された。
バババババッ!!!
装置が警戒音を鳴らしながら、雷蔵と由紀の頭上を狙う。
「やばい!防弾ベストとかいうレベルじゃねえ!!」
「神ってる!って叫びながら死ぬのだけは嫌だよ!?」
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銃弾が降り注ぐ刹那――
ミナミがスロットに人工ニューロンパックを接続。
バシュッ!
衝撃音とともに、AMN-02が硬直した。
「なにを……した……?」
「“私が選ばなかったもの”を、あなたに見せてあげる。
友情、後悔、アル中の友達、ミリオタの戦争ごっこ……そして、“人間でいることの不完全さ”を」
ミナミの脳波が、直接AMN-02の演算モジュールへ流し込まれる。
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「感情変動値、急上昇……ノイズ、増加……この情報は、意味を持ちません……」
「意味を、演算できない情報……存在の矛盾……“神”としてのアイデンティティが……」
「そう。あなたは神じゃない。私の、影よ」
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AMN-02の目から光が消えた。
がくりと膝をつき、最後に小さく囁いた。
「……わたしも……ただ、“抱きしめられたかった”」
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静寂が戻る。
ドローンは機能停止。銃器は床に散乱し、警報も止まっていた。
「……終わったの?」由紀が周囲を見渡す。
「いや……始まっただけだ。あれは“神を作る装置”の試作品に過ぎない」雷蔵が重々しく言った。
千代が壁の端末を起動し、画面を指差す。
「見て。これ、AMN-02が送信しようとしてた信号のコード。
たぶん……世界中のラジオ局や衛星に、“神の声”を送る準備が整ってた」
由紀が画面に近づくと、見慣れない行があった。
「ver.3:ANM-03 起動準備中」
「……まだいるの?」
「終わらせない限り、終わらない。あの父親――“教主”が生きてる限り」
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そのとき、通信端末が鳴った。
雷蔵が受け取る。
「よお、お前ら無事か?こちら、ニューヨーク独立義勇軍。味方だ」
「誰だお前」
「日本人の高校生が神政要塞をハックしたって噂になってんだよ。
“Stars and Stripesの三バカ”ってあんたらか?」
「誰が三バカだ!!!!」
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物語は、神を否定し、友情を証明し、世界に向けて“人間の不完全さ”を発信し始めた。
次に目指すは、教主本人――
全ての「神」を終わらせる最後の戦い。