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Stars and Stripes: 僕らの内戦留学  作者: 電脳太郎
3/18

ベジタリアン軍との接触

翌朝。

モーテルの外は濃い霧に包まれていた。火薬と腐敗と、かすかなラズベリーグミの匂いが混ざる。

周囲の静けさが逆に不安を誘った。


「……今のとこ、敵の動きはなし。夜間のドローンも飛んでこなかったな」

梶原雷蔵はスコープで周囲を見渡しながら呟いた。


「ふむ。南西方向の農村地帯が静かすぎる。昨日まで小競り合いがあったはずなんだけど」

佐藤千代がノートPCで盗聴していた周波数を閉じる。


「嵐の前の静けさってやつよ」

由紀は昨夜仕上げた高濃度ウォッカを舐めながら、頬を火照らせていた。

「飲む? 今日のやつは特にキくわよ。“エタノール神の祝福”って名付けたの」


「名前やばくない?」雷蔵が引きつった。



午前9時。

ラジオを通じて、奇妙な通信が入った。


『こちら、南カリフォルニア・動植物連合軍。農地帯立入禁止。ベジタリアン軍が通過中。非敵対者は畑を踏まないでください』

『繰り返す――畑を、踏むな』


「……畑を踏むな、って何?」由紀が眉をひそめる。


「たぶん……文字通りだろうな」雷蔵がラジオのつまみをいじる。「こっち来るぞ」



彼らは慌てて荷をまとめ、北西へと退避した。

が、途中でトウモロコシ畑に囲まれた一本道に差しかかったところで――それは現れた。


「……来た」


霧の向こうから、旗を掲げた集団が歩いてくる。

旗には、大きく描かれた**「アボカド」と「キヌア」**のマーク。

そしてその下に、こう書かれていた。


“PLANT-BASED OR DEATH”


「出たな、ベジタリアン軍……!」雷蔵が身構える。


先頭に立つのは、長髪の筋肉質な男。タンクトップには“GO VEGAN OR GO HOME”と書かれていた。

背中に背負ったロケットランチャーは、弾頭が人参の形をしている。


「話が……通じる相手かしら」千代が呟いた。


「任せて」由紀がふらつきながら前に出る。「こっちは“完全発酵系”よ。あんたらの有機農法には興味あるわ」


「いや酒造ってる時点で敵視されるだろ」雷蔵が止めに入るも遅かった。



「そこの者たち! 肉を食ったか!? 牛を殺したか!? 卵を茹でたか!!!」

ベジタリアン軍のリーダーが声を張り上げた。


「落ち着いて。私たちは旅の学生です」千代が前へ。「宗教的には……中立、ですね」


「……この者、肉汁の匂いはない。体内PH値も植物性だ」

リーダーが手をかざし、由紀を睨んだ。


「お前は……若干、麦の発酵臭がするな」


「それは麦ジュース。植物よ」由紀がさらりと返す。


「ふむ……悪くない答えだ。だが一つ、試練を与える」


「試練?」


リーダーが取り出したのは――巨大なブロッコリーだった。

「これを、火を通さず、そのまま食せ。口に入れ、笑顔で“おいしい”と言えたら、通してやる」


「何この拷問」雷蔵がぼそり。


「やるわよ。任せなさい」由紀は涼しい顔でブロッコリーをかじる。


「……くっそ青臭っ……ッ」


顔をひきつらせながらも、彼女は満面の笑みを浮かべた。


「おいひい……!!」


「通れ!」



晴れて通過許可が出た3人は、ベジタリアン軍の拠点へ招かれる。

そこはかつてのオーガニックスーパーを改造した臨時司令部だった。


中には、発電機、貯蔵庫、風呂、ソーラーWi-Fi、そして……大量のケール。


「ここ、普通に住めるな……」雷蔵が呟いた。


「むしろ今までで一番安全な場所かもしれない」千代がノートを取りながら歩く。


「酒、バレたら殺されそうだけど」由紀がフラスコを隠す。



夕方、司令官の部屋でリーダーが言った。


「君たちは、ただの学生ではなかろう。銃に詳しい者、医療の知識を持つ者、そして……密造の匂いがする女。これは偶然ではない」


3人は黙っていた。


「我々には情報が必要だ。政府軍の動き、カルト神政州の計画、そして……メキシコとの密輸ルート」


「密輸……?」由紀が反応した。


「君たち、日本人だな。外から来た者ならば、我々と違って“国境の向こう側”に希望をつなげることができる」


「……その希望って、何?」


「“国外脱出の道”さ。選ばれた者しか通れない。南の密林地帯に、カナダ軍が極秘に作った“抜け道”がある。だが、それを知るには、カルト神政州の地下礼拝所に潜入する必要がある」


「潜入任務ってことかよ……」雷蔵が顔をしかめる。


「君たちにしかできん。報酬は、“脱出の座標”だ」


3人は顔を見合わせた。


逃げるか、戦うか――

どちらにせよ、動かなければ終わる。


「……やるか」

雷蔵が言った。


「引き受けましょう。私たち、命かかってますから」

千代が続けた。


「ちょっと待って。酒造設備、持ち運べないんだけど」

由紀が言った。



こうして3人は、次なる目的地――カルト神政州へと向かうことになった。

それは、理性が消え、信仰が武器となる地獄だった。


だがこの時はまだ、誰も知らなかった。


彼らの名前が、数週間後に**“アジアの三悪神”**として全米指名手配されることになるとは。

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