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Stars and Stripes: 僕らの内戦留学  作者: 電脳太郎
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寿司バリケード作戦、発動

先日SNS blueskyにてアカウントを作成しました

名前は電脳太郎で@dennoutarou.bsky.socialです

次回作など一覧で見ることができますので是非フォローして下さい

モーテルの室内は、埃と焦げたプラスチックの匂いに満ちていた。

ソファのスプリングは壊れ、冷蔵庫は倒れて、床には誰かの血痕が乾いている。


だが三人に選択肢はなかった。ここが、唯一“壁と天井のある空間”だったからだ。


「まず、我々の課題は三つ」千代が言った。部屋の壁に地図を貼り、指を差す。


「一つ、飲み水と食料の確保。二つ、安全な移動手段。三つ、通信網の再構築。これがないと、情勢も人の動きもわからない」


「そこに“酒”も入れてくれ」由紀がウイスキーの空き瓶を壁に投げた。空中で一回転してベッドに落ちた。


「君の場合、それは命に関わるからあえて除外してたんだけどね……」千代は苦笑する。


雷蔵は窓の外を睨みながら、持参した工具で分解したエアソフトガンを黙々と改造していた。


「今の銃声は北のほう。あれはM4A1のフルオート音じゃない。多分民兵。南のガソリンスタンドまで行けば、何か拾えるかも」


「じゃあ決まりね」由紀が立ち上がった。


「作戦名は“寿司バリケード”。さっさと発動しましょう」


「だからその名前やめろって言ってんだろ!」



徒歩で20分、道路は壊れたSUVと放置されたバスでごちゃついていた。

二宮由紀はポケットにフラスコを忍ばせ、千鳥足で先頭を歩く。

雷蔵は背負ったバッグに分解式の弓と、数本の矢。千代は救急キットと翻訳端末を首から下げていた。


「銃声、近い。距離300メートル。建物の中」雷蔵が耳を澄ませた。


「無視して急ごう。時間が経つほど危険が増す。敵は増援呼ぶけど、酒は逃げないから」由紀はスッとボトルを抜いた。


「なにその名言」


「人生ってそういうもんよ」



目的地のガソリンスタンドは、外装が爆風でめくれ、壁に「GOV’T = LIZARD」のスプレーがある。


「トカゲ扱いか、政府。まぁわからなくもないけど」雷蔵がうなる。


「電源喪失してるけど、在庫は残ってる」千代が冷凍庫を開ける。「……アイスは溶けてる。パン類と缶詰が生きてるわ」


「よし、全部持ってけ」


由紀はカウンター裏に回り、ガラス戸を開けた。


「ハァ……こいつは……!」彼女の目が輝いた。


棚に整然と並んだビールとワイン。手作りと思しき地元蒸留酒もある。


「ここは……楽園だ……」


「おい、少しにしとけよ、走れなくなるぞ」雷蔵が注意する。


「問題ない。アル中は酔ってるほうが動きがいいの」



補給を済ませ、荷物を抱えて戻ろうとしたときだった。

外で「ガッシャァン!」という音が響いた。


「物音、後方。距離10メートル。侵入者」千代が即座に報告する。


雷蔵が身を低くして外を見る。

黒いフードを被った数人が、散弾銃と斧を持って店の裏に回ってくるのが見えた。


「やばい、武装強盗か?」雷蔵がささやく。


「なら交渉の余地あり。言語は任せて」千代がフードを被って外に出る。


「ちょ、おい千代!? 待てって!」



5分後。


千代は何事もなかったように戻ってきた。背後には、銃を下ろしたフード集団が。


「どういうこと?」雷蔵が訊くと、千代は涼しい顔で言った。


「彼らは“サンディエゴ地ビール独立派”。市販の酒より、クラフトビールの自由を守るために戦ってるらしい」


「なんだそのマイクロ国家」


「このガソリンスタンドを拠点にしてるって。交換条件で食料と通信装置を提供してくれるってさ。代わりに何が欲しいか訊いたら――」


千代は指を立てた。


「“高濃度の酒”だって」


由紀がゆっくりと振り返った。「……私の出番ね」



夜。モーテルの一室で、蒸留器が組み立てられた。


「ビールの二次蒸留と添加剤。これでアルコール度数70度超えの“クラフトスピリッツ”が作れるわ」


由紀は笑った。犯罪の香りが、彼女を美しくする。


「すげえな由紀……」雷蔵が呆れる。


「ちなみに日本でこれやったときは、逮捕されました☆」


「おい!!」



取引は成功した。地ビール独立派から、携帯型ラジオと地域マップ、そして古いCB無線機が提供された。


「これで通信はある程度いける」千代が分析する。「西部は“ベジタリアン軍”と“元軍人の傭兵州”が対峙中。中部は政府軍が制圧。北東は…『カルト神政州』って……」


「やっぱ地獄じゃん、この国」由紀がまた飲んだ。


「でも、生き残れる手はある」雷蔵が拳を握る。「俺たち3人なら、行ける。銃も医療も密造酒もある」


「あと、語学も」千代が加える。


そして3人は静かにうなずいた。


“寿司バリケード作戦”は、こうして次の段階へ進んだ。


それはまだ、ほんの“導火線”に過ぎなかった。

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