やまと発進す
◆ その日、日本は戦争を選んだ
西暦2030年。
日本政府は、正式に旧アメリカ合衆国南部地域への「自衛的軍事介入」を発表した。
「アメリカの空白地帯を、日本の安定した行政のもとに置くことで、国際秩序の回復に寄与する」
そう説明されたこの作戦は、表向きには人道的支援を装いながら、実質的には領土獲得を目的とする侵攻だった。
その旗艦に選ばれたのは――かつて太平洋を駆けた旧アメリカ戦艦「アイオワ」。
日本によって接収・改修されたこの艦は、今では新たな名を与えられていた。
「やまと」。
かつての象徴が、再び海を渡る。
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◆ やまと艦上
艦橋には、三人の人影があった。
「全砲門、整備完了。推進炉、安定中。状況、良好」
整然とした口調で報告するのは――佐藤千代、29歳。
階級は海上自衛隊・三等海佐。医学博士でもある彼(彼女?)は今、軍艦の中枢を担っていた。
「了解。あとは天気とタイミングだけだな」
隣で片膝をついて双眼鏡を覗くのは――梶原雷蔵、29歳。
階級は陸上自衛隊・特別技術士官。無人機部隊と戦術兵器の運用責任者。
「で、作戦前にこの艦の主砲の薬莢で乾杯ってのは、やっぱダメか?」
第三砲塔の影から顔を出したのは――二宮由紀、29歳。
階級は……不明。籍はあるが、書類上は「特例行動要員」。
軍規の範囲で唯一「飲酒許可」が出ている謎の存在。
「おい由紀、戦艦で酔うな。今回は海の上で本気の戦争だぞ」
雷蔵が苦笑しながら言う。
「わかってるって。でも、あたしたちにとっては、“帰ってきた”だけじゃん?」
「……そうだな」
千代も静かに頷いた。
「また、あの場所へ」
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◆ 作戦名:ヤマト・クロッシング
ミッションはシンプルだった。
テキサス州に残る複数の無政府地帯に強襲上陸し、拠点を確保。その後、日本式の行政モデルを導入し、実効支配を進める。
反発はある。国際社会の非難もあった。だが、かつてこの地で生き延びた彼らにとって、それは単なる“続き”に過ぎなかった。
「アメリカは、もう“国家”じゃない」
雷蔵は言った。
「あるのは瓦礫と火薬と、置き去りにされた子供たちだけだ」
千代が言った。
「だから、私たちがもう一度“秩序”を持ち込む。酔っぱらいの足でもね」
由紀が言った。
その言葉に、やまとのクルーたちは誰も反論しなかった。
彼ら三人は、かつて“この国に見捨てられた存在”だった。
だが今は違う。国家が彼らを選んだのだ。
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◆ 出撃
艦内スピーカーが鳴る。
《全乗員へ。これより“ヤマト・クロッシング”作戦を開始する》
《目標、旧アメリカ合衆国・テキサス州南部。現地時間0700に上陸開始》
《君たちは、かつての敗者ではない。君たちは、未来を奪い返す者だ》
汽笛が鳴る。重い、深く響く音。
「やまと」はゆっくりと東京湾を後にする。
艦首には日の丸。
その下で、三人は黙って空を見上げた。
「そういや雷蔵、あの時言ってたよな」
由紀が言う。
「ん?」
「“俺たち、何をして帰ってきたんだろう”って」
「ああ。あの夜の公園か」
「答え、見つかった?」
「いや……でも今なら言えるかもな」
「なにを?」
「“ここから始める”ってさ」
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◆ 上陸:再び戦場へ
テキサス州・旧ヒューストン外縁。
すでに無政府ゲリラの抵抗が始まっていた。ドローン、手製ロケット、機関銃。
だが、迎え撃つのは旧戦艦の主砲と、精密誘導兵器と、経験を積んだ「生き残り」たちだった。
由紀は上陸用装甲艇の中で酒瓶を掲げた。
「乾杯しようぜ、お前ら。これは、あたしたちのリベンジマッチだ!」
雷蔵が笑い、千代が頭を抱える。
「戦地で乾杯するやつ初めて見た」
「合法的にやってるからタチが悪いんだ」
銃声が響く中、三人は走る。撃つ。指揮を飛ばす。
爆発音の向こう、誰かが叫んでいた。
「ジャパニーズが来たぞ!」
「ヤマトのやつらだ!」
だが三人は止まらない。
彼らの“戦争”は、まだ終わっていないのだ。
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◆ 最後に
日が落ちた廃墟の街で、三人は焚き火を囲む。
「なあ、俺たちってさ、結局どこまで行くんだろうな」
雷蔵がぼそりと呟く。
「国家の意志に従う限り、終わりはない」
千代が答える。
「でもさ、それでもあたしは……やっぱり、戦って良かったと思ってる」
由紀が火を見つめながら言った。
「何のために?」
「わかんない。でも、たぶん、“誰かのため”ってやつ」
「かっこつけんなよ、アル中」
「うるさい、元ミリオタ。千代、言ってやって」
「僕はどっちの味方でもないよ。僕は……今も、僕の戦いをしてるだけ」
火が、静かに揺れていた。
夜は深い。だが、朝はやってくる。
三人の戦いは、ここで終わらない。
彼らは、“帰国者”ではなく、“開拓者”になったのだから。
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新しいAI小説を電脳太郎として出します
次回作は「南洋学園、働かざるもの青春するべからず 」です
投稿時刻本日11時50分に本作最終回と同時に投稿します
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