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Stars and Stripes: 僕らの内戦留学  作者: 電脳太郎
16/18

決別と旅立ち

戦艦アイオワは、太平洋を南へと進んでいた。


古く巨大な船体は、エンジンを吹かすたびに軋みを上げるが、それでも確かに**「生きている」**という実感があった。

甲板に立つ者の多くが、その音に耳を澄ませていた。

その音だけが、「まだ死んでいない」と証明してくれていた。



ブリッジの下、通信室。


由紀は酒を断って三日目だった。

もっとも、ミアコが意識不明のまま昏睡しているとあって、飲む気になれなかった。


「……私、酔っぱらってたんだな。ずっと」

誰に言うでもなく呟いたその声を、背後から雷蔵が聞いていた。


「何の話だ」


「全部だよ。アメリカに来たことも、自分を“変えられる”って思ったことも。アル中のままで通せるって信じてたことも」


「じゃあ、今はシラフか?」


「そう見える?」


雷蔵は肩をすくめた。


「俺はむしろ、酔っぱらってた方がマシだったと思ってる。今のお前、真面目すぎて怖い」


「……ほんと、あんたそういうとこ変わんないよね」


「お前が変わっただけだ」



艦内医務室。

千代は、ミアコの容態を確認していた。


「血圧正常、反応少し……脳の腫れもおさまってる。たぶん、数日で意識戻る」


「本当か?」


佐伯レンジが立っていた。


「……でも目が覚めても、記憶が全部戻るかは分からない」

「あと、彼女の左腕はもう動かない」


レンジは黙った。


「それでも、彼女が『生きる理由』をまた見つけられるなら、それでいいと思ってる」


「君は、なぜそうも冷静なんだ?」


「冷静じゃないよ」

千代は答える。


「冷静に見せないと、世界が崩れるから」



数時間後、艦内で作戦会議が行われた。

目的地は――硫黄島。


そこに自衛隊の緊急連絡基地がある。

「最短のルートで日本の艦艇に引き渡すには、そこが最適だ」と千代は言った。


「だが、問題がある」


レンジが言った。


「俺たちは、もう“日本に帰れない”連中だ。ほとんどが無国籍。中には国際指名手配もいる。日本に行けば、逮捕どころか強制送還もありうる」


「分かってる」

雷蔵がうなずいた。


「だから、俺たち三人は“帰る”けど、君たちは“残る”しかない」


「選べる者と、選べない者がいる」


由紀は静かに言った。


「だからこそ、私たちは選べる側として、精一杯の責任を持つべきなんだと思う」



その夜、三人は甲板で星空を見上げていた。


「ねぇ、帰ったらどうする?」

由紀が聞いた。


「日本? ……うーん。まず飯を食う」

雷蔵が言う。


「カツ丼?」


「いや、味噌ラーメン」


「ダサい」


「じゃあ由紀は?」


「うちの実家、まだ残ってるかな。酒蔵だったけど、戦争中に潰れてなければ……」

彼女は空を見た。


「作り直したいな。今度は“密造”じゃないやつ」


「それ、絶対ニュースになるやつ」

千代が笑った。


「千代は?」


「……国家試験受ける。医師免許が正式にあれば、どこでも人を救える」


「お前、それで高校卒業できんのか?」


「卒業……?」

千代は首をかしげた。


「それ、必要か?」



翌朝。

目的地・硫黄島が視界に入った。


艦内放送が響く。


「到着まで約20分。乗員は必要な書類を準備し、下船準備を始めてください」


レンジが三人に歩み寄る。


「君たちは、もう俺たちの仲間じゃない。だけど――同志だった」


「ありがとな」


そう言って、彼は敬礼をした。三人も、静かに返した。



ミアコは目を覚まさなかった。

それでも千代は、何かを彼女の手にそっと握らせた。


それは、小さな紙で作った「千羽鶴」の欠片だった。


「また、どこかで」



戦艦アイオワは硫黄島沖に到着。


三人は小型艇に乗り込み、日本の護衛艦へと向かった。


それが「終わり」か「始まり」か。

まだ、誰にも分からない。


けれど、確かに――


彼らは、生きていた。

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