奪還:戦艦アイオワ
ロサンゼルス港――サンペドロ湾。
その静かな水面に、ひときわ巨大な影が浮かんでいた。
USSアイオワ――第二次世界大戦を生き延び、幾度の近代化改修を経て、ついには博物館として老朽化した戦艦。
しかし今、それは再び“艦”として生まれ変わる可能性を与えられていた。
「見ろよ……あんなデカブツ、動かせるのかよ」
遠望鏡をのぞいた雷蔵が、震える声で言った。
「動かすんじゃない。奪うんだよ」
由紀が言った。
「不可能かどうかは、やってから判断する主義だ」
千代はいつも通りの冷静な表情だった。
⸻
作戦名は「ラスト・クルーズ」。
● 時間:夜明け前(敵の警戒が緩む時間帯)
● 目的:戦艦アイオワを敵勢力から奪い、即応可能な状態に復旧
● 敵:民兵化した州防衛軍+ナドリコ(国防再興団)混成部隊
「制圧するんじゃない。最短ルートで艦橋を抑える。旗艦コードさえ入手できれば、残りは制御で奪える」
指揮を執る佐伯レンジの言葉に、隊員たちはうなずいた。
「そしてその突入班リーダーが――君たちだ」
⸻
03:28、作戦開始。
コリアタウンから出発した5台の武装トラックが、港へ向けて出撃。
三人は先行偵察チームに合流し、潜入ルートを確保した。
「どうする? 正面突破もあるぞ」
雷蔵が言う。
「いや、下水道ルートがある。汚いけど、確実」
千代が端末を操作しながら答える。
「どっちも臭いけど、命よりマシね」
由紀がブーツをはき直す。
⸻
03:57、下水口より潜入。
艦に併設されたドックの裏からアイオワの艦底部へと侵入。
「懐かしいにおいだねぇ、雷蔵」
由紀が鼻を押さえながら言う。
「なんで俺がここ知ってる前提なんだよ。俺は戦艦のマニアであって、下水のマニアじゃねぇ!」
「うるさい。集中して」
千代が遮る。
彼らの頭上、夜明けが迫っていた。
⸻
艦内に突入した瞬間――
「敵反応、前方3、後方1、天井2!」
千代の声と同時に、雷蔵が手榴弾を投げ込み、由紀がスモークを展開。
「突撃ッ!」
訓練された体で雷蔵が敵を次々と倒していく。
その手には**自作のM4カスタム“アイアンモングレル”**が握られていた。
「これが戦艦の艦内戦ってやつか……」
由紀は銃を手に走りながら、口元に酒を含んだ。
「飲むな! 撃て!」
雷蔵が怒鳴る。
「飲むことで正確になる人種もいるのよ。そういうの、アル中って言うの」
千代がさりげなく言いながら、医療ドローンで敵を麻痺させていく。
⸻
04:28、艦橋に到達。
「誰もいねえ……と思ったら」
待ち構えていたのは、ナドリコの小隊長――デボラ・マクニール大尉。
「ようこそ、日本人。ここはお前たちの“帰る場所”じゃない」
彼女の手には、小型核爆弾の起爆装置。
「こっちはもう終わってんだよ。お前たちだけ逃がすわけないだろ?」
「……あんたも家族を失ったのか?」
由紀が訊いた。
「失ってねえよ。家族に殺されたんだよ。正義の名でな」
静寂。
千代が歩み出る。
「なら、ここで終わらせよう。一緒に沈むってのは、趣味じゃない」
「口だけか?」
「違う」
千代は即座に催涙ガスを散布。
混乱の中、由紀が横から飛び蹴り、雷蔵が装置を撃ち抜く。
「制圧!」
⸻
04:42、艦橋確保。
戦艦アイオワ、再起動開始。
「エンジン始動……約1時間。航行は可能だ」
佐伯レンジから通信が入る。
「君たちのおかげだ。あとは――誰が“残るか”だけだ」
⸻
由紀は、手にした日本のパスポートを見つめた。
「……ホントに、帰るんだな」
「でも、どこに帰るんだ?」
雷蔵が言う。
「祖国って、今でも“故郷”って呼べる?」
千代は一言だけ返す。
「選べる余地があるうちは、選ぶべき」
そのとき、背後で銃声が響いた。
ドンッ。
「!?」
ミアコが倒れた。
港の残存兵が、最後の抵抗として投げた銃弾。
「やめろ!!」
雷蔵が走り、由紀が叫び、千代が即座に止血処置を始めた。
「意識はある。大丈夫……でも、時間がない」
⸻
そして――朝日が昇った。
戦艦アイオワ、港を出航。
太平洋へ向けて、ゆっくりとその巨体を動かす。
船尾では、アジア系レジスタンスの仲間たちが手を振っていた。
別れか、未来か。
それは、まだ誰にも分からなかった。




