その名は“東洋戦線”
地下に広がるレジスタンス拠点――コリアタウン・シェルター。
薄暗い通路に、電力の限界でちらつく非常灯。水の滴る音。小さな子供の泣き声。
だが、その地下都市には確かに希望の気配があった。
「アジア人だけで固まってるって、最初は違和感あったけど……なるほどね。ここはもう“国”じゃなくて、共同体”だ」
千代が地下図書室の資料を眺めながら言った。
由紀はその横で、どこか落ち着かない様子だった。
「……なんかさ、うちら浮いてね? どっから見ても外様っていうかさ」
「当然だ。向こうはずっとここで戦ってた」
雷蔵が言う。
「俺らは半分観光気分で始まって、今さら帰る段になってようやくマジになってる。そりゃ信用されねぇさ」
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彼らがいるのは、「東洋戦線(East Pacific Line)」と呼ばれるレジスタンスの本部だった。
構成員は約300人。日系、韓国系、中国系、東南アジア系――多国籍ながら、連帯は強かった。
「言葉が違っても、文化が違っても、一つだけ共通してたんだ」
佐伯レンジは説明した。
「『この国に家族を壊された』という怒り。それだけが、俺たちをつないでる」
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その夜、三人は食堂でそれぞれの“自分”と向き合うことになる。
◆
「密造酒、飲むか?」
そう声をかけたのは、日系三世の少女・ミアコだった。十七歳、物静かな顔に、目だけが異様に強かった。
由紀は缶を受け取り、静かに聞いた。
「なんで戦ってるの? 女の子が、銃持ってさ」
「家族、全員連れてかれた。日系ってだけで」
ミアコは言う。
「もう何も守るもんないから、せめて“理由”だけでも欲しかった。だから銃を取った」
由紀はしばらく黙っていたが、ぽつりと返した。
「うちはさ、酒蔵が全てだったの。親も祖父も、酔っぱらって死んだけど」
缶を傾けて、少し笑う。
「でもね、戦争ってのは……シラフじゃ見てらんないんだよ」
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◆
訓練場では、雷蔵が韓国系傭兵のジャン・ユンホと火器談義をしていた。
「マークスマンライフルならM110。だけど、俺はAK派」
「嘘だろ、あんなもん精度ゴミじゃん」
「でも壊れねぇ。俺たちは“勝つ”んじゃなくて“生き延びる”のが先だ」
雷蔵は黙った。
「お前は、何のために武器に詳しくなった?」
「……理由はない。ただ“好きだった”だけだ」
「でも今は、“好き”がそのまま“生きる術”になった」
「……悲しい話だな」
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◆
そして千代は、医療室で義肢をつける子どもに消毒を施していた。
「チヨは医者なのか?」
そう話しかけたのは、中国系の軍医・ファン博士。
「君の技術はすごい。だが、なぜ戦場に?」
千代は言う。
「場所がどこであれ、人が死ぬのがイヤだったから。戦争中は、知識だけじゃ足りないんだ」
「それでも、君は戦っている。立派だ」
千代はふと笑う。
「いや、立派じゃない。逃げずに残ってるだけ。それだけだよ」
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その夜、三人は同じ部屋に戻った。
「……ここの連中、根っこは全部“復讐”でつながってる」
由紀が言った。
「でも、それだけじゃアイオワの奪取作戦はうまくいかない」
雷蔵が続ける。
「情報も兵力も、足りてない。技術者も少ない。あの艦を動かすには、奇跡が要る」
「奇跡は、起こすもんだよ」
千代がいつもの無表情で言った。
「必要なのは、一点突破の作戦と、信頼できるバカ」
「つまり、俺らだな」
雷蔵が笑う。
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そして――作戦会議。
佐伯レンジが三人の前に艦の設計図を広げた。
「奪取作戦は72時間後。この戦いで、俺たち“東洋戦線”が生き残れるかどうかが決まる」
「決行部隊のリーダー、お願いできるか?」
そうレンジが問いかけたとき、三人は顔を見合わせた。
「やるしかねぇだろ」
雷蔵が言い、
「しらふじゃ無理だけどね」
由紀が続け、
「僕は保健委員ということでついていくだけ」
千代が静かに微笑んだ。
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ロサンゼルスの空に、また一発の銃声が響いた。
戦いの足音は、もうすぐそこに迫っていた。




