ロサンゼルスへ
アメリカ大陸を東から西へと横断し、三人はついにその都市へと辿り着いた。
ロサンゼルス。
霧がかった空、ひび割れたフリーウェイ、倒壊したハリウッド看板。
そこにはもはや“映画の都”の面影はなかった。
「……えぐいな、こりゃ」
雷蔵が車のフロントガラス越しに外を見ながら呟いた。
「これ、もう戦後の都市だよ」
由紀は酒瓶を抱えたまま、眉をひそめた。
「いや、“戦中”だね」
後部座席の千代が言った。
「この都市、複数の勢力が入り乱れてる。中央政府残党、州防衛軍、ギャング、そして……移民系のレジスタンス」
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市内へ入るため、三人はオンボロの装甲車を路地に停め、徒歩で進んだ。
建物の壁面には様々なスローガンが落書きされていた。
“No Borders, No Peace”
“K-Town Holds the Line”
“CHINATOWN RESISTS”
“GO HOME OR DIE”
「街ごとに支配勢力が違うっぽいな」
雷蔵が警戒しながら歩く。
「ウチの留学先、この都市のどっかだったんだけどね……」
由紀がぼそっと呟いた。
「今から履修申請しても、教授は死んでるよ」
千代のドライな一言。
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そのとき、遠くで銃声が響いた。
ドンッ!ドンッ!
「まずい、近い」
雷蔵がすぐさま路地裏に三人を引き込む。
すぐ目の前を、**アメリカ国防再興団(National Defense Renewal Corps)**の兵士たちが駆け抜けていった。
彼らは星条旗の腕章をつけていたが、その顔つきはやつれており、もはや正規軍とは呼べない風体だった。
「“再興団”……ロサンゼルスにも出てきてるのか」
「通称“ナドリコ”。現政権の直轄傭兵部隊ね。略してクズ」
千代が小声で説明する。
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三人が隠れていた路地裏に、いきなり声がかかった。
「動くな。手を上げろ」
銃を構えた若い女性兵士がいた。
アジア系。制服はばらばらだが、腕章にはK-TOWN RESISTANCEと書かれている。
「日本人か?」
「……まあ、そうですけど」
由紀がなんとなく挙手しながら言うと、彼女は少しだけ顔を緩めた。
「よかった。あんたら探してたの、日本人だって聞いてたから」
「は?」
「ユキ、ライゾウ、チヨ。あんたらでしょ?」
「名指しかよ!」
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彼女の案内でたどり着いたのは、コリアタウンの地下シェルターだった。
そこには、アジア系移民の若者たちが集まっていた。
日本人、中国系、韓国系、ベトナム系。
国境を越え、アイデンティティの狭間で、それでも手を取り合った者たち。
その中央で、指揮を執っていたのは――
「やあ、遅かったね」
白衣を羽織った日本人の若者。落ち着いた口調、冷えた眼差し。
「僕は佐伯レンジ。ここでアジア系レジスタンスを統括してる」
「レンジ?あんた……軍人?」
「元・国際救援医師。だけど今は、ただの戦う移民さ。……ところで君たち――」
彼は三人の顔をじっと見て、言った。
「君たちを“日本に返す”任務を、僕が預かっている」
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その夜、地下シェルターの小さな会議室で、三人は戦艦の設計図を見せられた。
「これが……アイオワ?」
かつてロサンゼルスのサンペドロ港に停泊していた戦艦「USSアイオワ」。
退役艦でありながら、いまや最も現実的な“脱出船”として復元が進められていた。
「君たちの力が要る。あの艦を奪取し、整備し、日本へ逃がす。……生きて帰りたいだろ?」
由紀が黙っていた。
「帰って、どうなるかわかんないけど……でも……」
「帰らなきゃ、ウチの酒蔵が潰れるからな」
雷蔵が肩を叩いた。
千代がポツリと言う。
「いいよ。あの国もろくなとこじゃないけど……でも、“選べる場所”があるってのは、幸運だと思う」
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翌朝。
作戦決行まで48時間。
三人は、最後の戦場へ向けて、歩き出した。




