死の灰とバーボンの香り
夜明け前、三人は地図に載っていない地点にいた。
それは、かつてアメリカ最大級の原子力発電所として稼働していた――が、今は軍閥によって占拠されている。
「ここ、放射線量が高すぎる」
千代がハザードメーターを見つめて言った。
「それでも行くしかないだろ」
雷蔵がマガジンを装填する。
「この中に、義勇軍の仲間が捕まってるんだ。下手すりゃ再臨界もありうる。時間がない」
「でもさ〜……なんかこう、核のそばで酔うのってダブルでヤバくね?」
由紀がガスマスク越しに呟いた。
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発電所内部――
照明は死んだまま、コンクリ壁にひびが走っている。
薄暗い中を、三人は黙々と進む。静寂の中、雷蔵が口を開いた。
「放射能ってさ、核分裂して熱出して、それを水で冷やして……」
「知ってるよ。うちの密造も蒸留タンク使うし」
由紀が言う。
「密造酒と原子炉を一緒にするな」
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反応炉のフロアにたどり着いた瞬間、重機関銃の銃声が轟いた。
「伏せろ!!」
雷蔵が咄嗟に由紀を押し倒す。
銃撃の主は**“ラディエーターズ”**と呼ばれる傭兵集団。
放射線耐性スーツを着用し、旧式米軍兵器で武装していた。
「やば……やば……あのバリスティックミサイル、点火されかけてる!」
千代が反応炉側のコントロール盤を解析する。
「再臨界起きたら……この一帯が吹っ飛ぶ!」
「もう黙ってらんねぇ」
雷蔵が叫び、腰のM60機関銃をぶっ放す。
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「いけぇ!ライズォーーッ!!」
由紀がノリでブースターを蹴る。
「よし、次はこっちだ!由紀、スモーク!」
「おうよ!」
由紀は密造したバーボン煙幕弾を投げた。
スモークの中に、甘ったるい香りの蒸留酒が充満する。
「なにこれ!?目が!鼻がぁッ!!」
「アル中の嗅覚にはなぁ、効かねえんだよォ!!」
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千代は制御室に滑り込み、ラディエーターズの技術兵を一瞬で制圧。
モニターを見つめるその眼に、わずかに焦りの色が浮かんだ。
「だめ、ここの中性子制御棒、手動でしか止められない」
「手動って……どこで?」
「リアクター内」
「行くしかねえじゃん。誰が行く?」
由紀と雷蔵が顔を見合わせる。
「……酒飲んでると熱に強くなるって話、ある?」
「ねぇよ」
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最終手段――
千代が密造した**耐放射線スーツ(酒瓶を縫い込んだやつ)**を由紀に着せる。
「大丈夫。理論上、バーボンで冷却効果が得られるはず」
「完全に嘘やんけ!」
だが、由紀は飛び込んだ。
反応炉内は灼熱。歪む鉄骨の中で、彼女はハンドルを握った。
「いっけええええ!!」
ゴキン。
――制御棒、挿入完了。
臨界、停止。
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外では、雷蔵がラディエーターズの最後のボスと接近戦中だった。
「貴様らは、核の神に逆らって何になる……」
「こっちはなぁ――泥酔の神に守られてんだよ!!」
雷蔵の一撃が、敵のヘルメットを叩き割る。
そこへ由紀がよろよろと現れた。
「ひゃはは……熱っつ……!でも見て……ほら、酒が蒸留されてるぅ……」
服からはバーボンの香りが漂っていた。
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発電所は制圧された。
義勇軍の捕虜も無事救出。
「君たち……マジでなんなんだ……」
助けられたレジスタンスが呟く。
「俺たちはただの高校生だよ」
千代が無表情で言う。
「酒と火薬と天才でできた、ちょっとばかり手のかかる高校生だ」
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次の目的地は、旧ロサンゼルス州――そこには、もっと大きな戦いが待っている。
だが今は、とにかく――
「酒くせえから、誰かこの服洗って」




