神の終わる場所
カリフォルニアの山岳地帯にそびえる、黒くそびえ立つ塔――神の脊椎。
人工神経網が山中に張り巡らされ、衛星と接続された複合施設は、新世界の心臓として脈打っていた。
突入部隊はたった3人。
アル中、ミリオタ、性別不明の天才。
コードネーム「Stars and Stripesの三バカ」。
⸻
「よし、作戦を確認するぞ」
雷蔵が装備を整えながら言った。
「俺が正面から突入して敵を引きつける。
千代は裏からネットワークを掌握、ミナミは中央制御室で“神の声”の上書きを担当。
突入後30分でブロードキャスト開始だ。タイムリミットは……」
「19分34秒。そんなに余裕ないよ」
千代がドローン端末をいじりながら、無感情に答える。
「……待って、わたしはまだ“神の声”の台本書けてないんだけど!」
「アドリブでいけ、神だろ?」
「神をナメるな!!」
⸻
神政軍の機銃陣が火を噴いた。
ズダダダダダッ!!
「うおっ!マジで正面突破って馬鹿だろこれ!!」
由紀がボロい装甲車の上から絶叫する。
「でも酒は手放さない」
「死んでも手放さない」
「さすがだなあんた」雷蔵が感心したように笑う。
⸻
爆音の中、千代は通信施設の地下階に滑り込む。
ラップトップを接続し、人工神AMN-02から奪った神経コードを挿入。
パスコード:MyGodIsAFraud
接続完了。
メイン・ブロードキャストチャネル取得中……
残り時間:12分47秒。
⸻
「ミナミ、制御室までもう少し。急いで」
「わかってる、でも……」
ミナミの脳裏には、教主――自分の父親の姿が浮かんでいた。
あの日、診察室の奥で、父は言った。
「人間の感情は病気だ。私は、君を使ってそれを治療する」
「お前は、私の神になる装置だ」
⸻
扉の先、中央玉座室に父はいた。
教主――元・神経生理学者にして、精神医療の権威。
人類を「感情のない世界」に導くため、自らを神へと進化させようとした男。
「来たか、ミナミ。やはり君だった。君以外に、神を名乗る資格はない」
ミナミは震える手でスロットを持つ。
「お父さん……私は神にならない。
私は、不完全な人間のままでいたい」
⸻
「それが罪だ」
教主の瞳に、演算光が宿る。
背後の神経装置が唸り、塔全体が震え始めた。
『ブロードキャスト開始まで残り9分』
『全衛星同期モード、移行中』
「千代!」
「こっちはOK!でも神経核を直接制御しないと“声”は止められない。ミナミ、やるなら今しかない!」
⸻
教主がケーブルを身体に突き刺す。
「見よ、これが新世界の光だ!!」
光が爆発した。
だが次の瞬間、ミナミの声が響いた。
「わたしは、神じゃない。
わたしは、人間として、人間の言葉を、世界に伝えます」
ミナミはAMN-02の記憶コードを教主に逆流させる。
教主の視界に、ミナミの記憶があふれだす――
雷蔵との無茶な訓練、由紀の吐瀉物にまみれた夜、千代の冷たくて優しい知識。
三人で笑った、くだらない日々。
⸻
「なんだ……これは……こんな、くだらない記憶で、世界を……!!」
「そうだよ。くだらないから、生きていけるんだよ!」
AMN-02の残留人格が教主の意識を侵食していく。
「私の中に……彼女が……」
『神経系崩壊。演算不能。』
『ブロードキャスト、内容上書き。』
⸻
そして、世界に向けて流れた“神の声”はこうだった。
「こんにちは、Stars and Stripesの三バカです。
今日はね、教主の電波ジャックして、世界に言いたいことあるんだ」
「神なんていらねえ!」
「人間で十分だ!」
「不完全だから、歩けるんだよ!」
⸻
神の脊椎は崩壊した。
教主は沈黙し、施設は自壊。
三人はギリギリで脱出し、山の影に身を投げ出す。
⸻
「やった……のか?」
「やったわ。少なくとも、神政州にはもう“神”はいない」
「酒うめえええええ!!!!」
「それ、ただのアル中」
⸻
夜が明ける。
一行はトラックの荷台に揺られながら、次なる戦場へ向かっていた。
千代が言う。
「……次はどこ行く?」
ミナミが空を見上げた。
「アメリカ全部を、元に戻しに行こう。不完全なままの、あの国に」




