第2話:ただいま太陽不在です!〜管制室・緊急コードC発令〜
アマテルの失踪で天界の現場は混乱する……
< 太陽不在の朝、天界の管制室 >
この日の朝、空に本物の太陽は昇らなかった。
いや、正確には"昇るべき存在"が現れなかったのだ。
そう、太陽神・アマテル──天界の光たる存在が「無断欠勤」していたのである。
──早朝5時/天候庁・管制室──
「た、大変です!アマテル様のログインが確認できません!」
最初に異常に気づいたのは、若き神官補佐。彼が見ていたモニターには、鮮やかな赤色のアラートが幾重にも重なっていた。
《緊急アラート:主神・出勤記録、確認デキズ》
《緊急アラート:主神・現所在地、ログ無し》
《緊急アラート:主神・神リンク、切断チュウ》
神専用リンク網"アメノネット"(AmenoNet)が、騒ぎ立てる。これは、天界全域をカバーする神々のGPSネットワークである。
「……はぁ?」
誰かが漏らした気の抜けた声が、場違いなほどリアルだ。
「これは、何かのエラーか……?」
次の瞬間、誰かの肘が机にぶつかり、積まれた書類が宙を舞う。ベテラン神官のコーヒーカップが落下し、床に砕け散った。
「現場の確認はどうなってる!?」
「本日、アマテル様の出勤確認が……できておりません!」
庁舎内の連絡網が、一斉に赤く染まり始める。職員たちは、かつてない焦燥に駆られ、我を失って走り回る。
「本日の照射開始時刻まで、あと10分を切りました!!」
その声が引き金だった。
天候庁は非常手順「緊急コードC(crisis)」へと移行。偽装装置「ミラー・オーブ」の起動準備に入る。これは、本物の太陽の代わりに"光の演出"を行う緊急用ホログラムである。だが、光は偽物。熱も、エネルギーも何も生まない。
現場マネージャーが叫ぶ。
「地上の日の出時刻、偽装可能な限界は?」
「1時間が限界です!」
「……よし、限界値で設定しろ!!」
そして、指令が下る。
「投射まで10秒前……3、2、1……擬似照射、開始せよ!!」
赤みを帯びた擬似光が空を走る。天界を照らすその光は、あくまで"演出"。神官や神々はホッと胸を撫で下ろすが、そこにあるのは、空虚な安堵にすぎない。
「現在時刻、5時25分。偽装時間、残り59分58秒!」
< 混乱の朝。太陽なき天界 >
数十分前……
管制室の隣、ブリーフィングルームでは沈黙が支配していた。
国務大臣に連絡がつき、これから臨時閣議に入ると──また、現場責任者の"出向要請"が来ていると職員が話す。
「了解した」神妙な声の主は、水を司る神──天候庁トップ・オカミ(=龗神)だった。
「悪いが、神政庁へ向かってくれるか、シナツヒコよ」
「わかりました。」派遣されるのは、シナツヒコ(=風神)──いずれも経験と実務に長けた神々だ。
「それにしても……大変な事になりましたね、オカミさん」
「そうだな……」
そして、これは現場にとって長い一日の始まりに過ぎなかった。
一方そのころ、地上でも異変は現れていた。
「……なんか、今日って朝から寒くね?」若者たちは気にも留めない。だが、空を仰いだその目は、どこか不安げだった。
天界の乱れは、地上にも波紋を広げる。
これは、新たな神話の序章か、
それとも、神によって編まれた創作か、物語は続いていく。
── つづく ──
最後までお読み頂き有難うございました。
ぜひ、続きのエピソード「第3話」をご覧ください。
また、ご覧いただいた方は是非とも評価やブックマークをお願いします。
モチベーションになるので、★5でも★1でもつけていただけると幸いです。