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畏怖(if)  作者: CHACHAN
第一部:「勝手に降臨」編
2/12

第1話:アマテラス、勝手に降臨で大迷惑!

地上生活の神、アヤカとウカノミが、アマテルの降臨に巻き込まれる……


< 始まりは突如の休暇宣言 >


 ()()()は夢の中で、幼い頃の太陽神・天照を抱き上げていた。──天界で過ごした日々。懐かしくも切ない記憶……


 21XX年……


 天界と地上、神話と文明が交差する世界。

 ここは、地上の神たちが拠り所にする施設「天神てんじんシェアハウス」。



──早朝5時30分ごろ/地上──


 朝食のいい匂いで、アヤカ(=吾屋惶根アヤカシコネ)は目がさめた。


 キッチンでは、同居をしているウカノミ(=食の神・倉稲魂命ウカノミタマ)が、いつもの朝食を作っているようだ。


 その時、「ドカンッ!」と大きな物音が、玄関から響いた。


 アヤカの部屋に、ウカノミの柔らかい声が届いた。


「あれぇ〜?……玄関先に何か落ちてきたみたいですぅ〜」

 彼女は寝起きでまだ頭がぼんやりしている。

「えぇ、また野良神様? 最近はもういないはずだけど……」

 ウカノミが慌てた様子で、彼女を呼んでいた。

「アヤカさ〜ん! アマテルちゃんが……玄関マットの上で倒れてますぅぅ〜!」


 アヤカは聞き間違いだと思いながら、ウカノミの言葉に反応した。


「はぁ? アマテル!?……なにそれ、どういう意味よ!」

 ウカノミは信じられない言葉を叫んでいた。

「ほんとですぅ〜! リアル太陽神が、わたしのカツサンド食べてるんですぅ〜!」

 彼女は寝巻き姿のまま、急いで部屋を飛び出した。玄関先を覗くと、髪を少し乱した一人の女性が、カツサンドを齧っていた。


 アヤカはその姿に、目を疑った。ウカノミの手の中のサンドイッチに齧りついていたのは、他でもない、天照大神・アマテルだった。

「ふふっ……来ちゃった、えへへ」

(あの天下の太陽神が、朝からここに……? しかもベッドごと!?)

 玄関先に転がった巨大なベッドを見て、アヤカの思考は一瞬で凍りついた。


「ちょ、ちょっと待って? アマテル?  朝だよ!?」

 アマテルの能天気さに、アヤカは胸騒ぎを覚えた。


「か……帰れぇ!!」

アヤカの声が玄関に響いた。



──6時ごろ/シェアハウスの居間──


 アマテルがお茶をすすりながら、ふわっと笑う。

「やっぱり、ウカノミのお茶って落ち着く〜。天界の自販機って、不味いのよ〜」


 アヤカは額に手を当て、ため息をついた。

「どうやって地上に降りてきたの? 誰の許可で!?」 

 彼女の声が裏返るのも無理はなかった。相手は、天界の主神・太陽神なのだ。朝がはじまってるのに、勝手に地上降臨なんてありえないのだから。


「仕事ばっかりで、ほんとブラック……もう魂が疲れちゃったのよ〜」


 アヤカは、ますます頭を抱えてしまった。

「でさぁ、昔、アヤカおばさんにいっぱい話を聞いてもらったよね。だから、ここならまた元気になれるかなって思ったんだ♡」


 アヤカは、アマテルの言葉に懐かしい記憶を思い出した。

 泣き虫で、いつも全力で頑張っていたアマテル。仕事の愚痴を何度もこぼしてきた、あの頃のアマテル。幼い神が、やがて一人前の主神になっていく過程を、誰より近くで見守ってきた……そんな記憶。


 ──それに対して、私は何かを成した神じゃない。この世界で初めて容姿鍛錬で生まれただけの存在。「役割」なんて無かった。だからせめて、みんなの話し相手くらいはしようと思った。


 しかし今のアヤカは、非常勤嘱託(しょくたく)で地上暮らし。天界の相談役はとっくに引退している。


 今の私に、何ができるっていうの……


 彼女は思わず両手を広げて、アマテルに詰め寄る。

「勝手に降りて来ても、私に対応できるわけないでしょ!?」


 アマテルのどこか得意げな笑みを見て、アヤカはぞっとした。

「緊急降臨のベッドを開発しちゃって、誰にもバレてないんだ〜☆」

 やっぱり、あのベッド……彼女は嫌な予感が的中したことに戦慄した。


「しかもログも残らないのよ〜、神格が高すぎて♪」


 アヤカは心の中で舌打ちした。やったな、この女神……完全にバックれじゃないの。天界の神たちに相談もせずに、勝手に地上に降臨してきたと言うアマテルに、彼女は膝から崩れ落ちる。


「……でもね、アヤカおばさん。ここだけの話、ほんとに限界だったのよ、わたし」──この感じ、"愚痴モード"の始まりだ。


 アマテルの愚痴は、アヤカにとって何度も聞いたおなじみのものだった。

「まずね、ツッキー。『闇属性の尊さ〜』って言いながら、もう夜とネットの住人よ?」

「最近なんて、『もう僕には現実は重い』って、みたまごと仮想空間に引きこもろうとしてたんだから。夜の神がメタバースに引きこもりとか、もうギャグよ!」

 アヤカは、ツクヨミの顔を思い浮かべていた。(素直だったあの子が……今や完全に"こどおじ"ってわけね)


 怒りがヒートアップして、語気が強まるアマテル。

「あと、あいつよ、スサノオ! 再生数さえ回ればいいと思って(怒)」


 アヤカはふと昔のアマテルの顔を思い出した。(昔からこの子は、私の前では特に感情が激しかったね)


「昨日もまた、海の神族からクレームよ。ほんと、やってられない!」

「何やっても『神バズったからOK、OK!』って!」

 アマテルの語尾に、彼女は内心でツッコんだ。(今のは、絶対にモノマネ)


「クシーちゃんも『もう慰謝料って言葉しか……』ってボロ泣きだったのよ〜」アヤカは、話を聞きながら思わず顔をしかめた。(あのしっかり者のクシナダヒメが、泣いた?……あぁ、今の天界はほんとに地獄なんだ)


 バンッ!──アマテルが湯呑みを机に叩きつけていた。


「それでね、毎日毎日アラートとトラブルばっかりで地獄よ」

「もう、同じことの繰り返し……」

 どこか本気で疲れているアマテルの声だった。


「でも……代わりは、誰もいない。わたしは、太陽神だから……」



 アヤカは、その言葉に胸がざわついた。

 ──アマテルは、産まれたときから"太陽神"としての「役割」を与えられていた。適役と言えばそれまでだけど、一部の人に「役割」が集中してしまう。いまのアヤカは、昔と違い相談役として守ってやれる立場じゃない。けど……このままじゃ、世界にまで影響が及ぶかもしれない。


 ひと息入れてアヤカは、アマテルを見据えた。


「で……あなた、帰るんだよね?」

「え〜♡」


 アマテルは首を傾けて、まるで子どものように笑った。

 その態度に、彼女は理解した──これは確信犯だ。


「だからね、ここでのんびり長期バカンスってことで☆」

「今日からしばらく、ヨロシクね。アヤカおばさ〜ん♡」


 アヤカは声を裏返しながら絶叫した。

「やめてぇ! 本当に仕事放棄なんて……世界が滅ぶってばぁ!!」


 その瞬間、彼女は確信した──これは、太陽神による"勝手に降臨"騒動の始まりだった。




── つづく ──

最後までお読み頂き有難うございました。

ぜひ、続きのエピソード「第2話」をご覧ください。


また、ご覧いただいた方は是非とも評価やブックマークをお願いします。

モチベーションになるので、★5でも★1でもつけていただけると幸いです。

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