望まない仕事
エイルとルーナは成長してそれぞれの生活をしていた。そんな中、エイルの人気は上がり、ルナの評価は地についていた。それでも普通に過ごす二人には静かな日々が訪れていたのだ。とはいえ周りの冒険者たちはありもしない噂や、妬みを含んだ誹謗中傷をしくる人間も多く、ルナは少しずつ少しずつ肩身の狭い思いを感じ始めていた。そしてエイルはいやいやながら、別のパーティに所属して高位の依頼をこなしに出かける。
ルナとエイルはギルドに戻って来た。
受付には、証拠となる素材の提出を行い、状況を説明した。イレギュラーな高位魔物の出現、イレギュラー素材の提出、召喚の痕跡など報告は多岐に渡った。
素材はかなり金額になり、イレギュラーの出現についても調査が進められる事となった。今回の依頼成功でかなりの評価を上げる事となった。
その後も順調にランクも上げ、わずか2か月で二人のパーティもBランクになっていた。
エイルはルナの指導により、剣士としては剣聖候補に選ばれる程になっていた。魔法も全属性とも中級以上使える様になり、名前も売れてきた。
一方、ルナはあまり表に出ずひっそりとエイルについて行くだけの活動に終始しており、一向に目立たなかった。とは言え、その容姿や女性としての評価は高く評価されていた。
そう、ルナは母国から追われる立場であり目立つ訳にはいかなかったのだ。
「エイル?そろそろ今度の剣聖認定試験うけようね。」
「うん・・・分かってるけど、ルナはなんで剣聖認定試験受けないの?」
「別に称号なんて欲しくないから、受けないよ。代わりにエイルが有名になってくれれば嬉しいかな。」
最初こそルナの評価はよかったが、ルナ自体が目立たない様にしているのもあって、最近は『エイルのお荷物』『見掛け倒し』『ただの雌』など散々な評価だ。
しかも、最近のエイルは、ルナの教育の甲斐もあり、今や若手のホープとして名をはせているエイルは女性から大人気で、ルナからエイルを引き離そうとする女冒険者が後をたたないのだ。
「ねぇエイル君、あの『ただの雌猫』は放っておいて私と組もうよ。」女性冒険者人気No1の聖騎士アンジェが勧誘していた。
ルナはエイルと離れる事も多くなってきた。とはいえ、時々買い物に出て一人で買い物をしてエイルの家に帰り、掃除、洗濯、料理などの家事労働を行いエイルの帰りを待っているのだ。
ある日、ルナは買い物帰りにアンジェに声をかけられた。
「ちょっとルナさん、あなたどうしてエイルを手伝ってあげないの?」
「最近体調も悪いのでついていけないんだ・・・エイルは強いから、今は一人の方が経験値も得られやすいしソロで依頼こなしてもらってるんだ。」
「じゃ私がエイル君と依頼こなしても文句ないよね。」
「えっ、えぇ経験値の高い依頼なら誘ってもいいよ。」
「じゃあ、もうあんたは用無しなんだからどっか行ってもいいんじゃない?」きつい嫌味をぶつけられるが特に言い返すつもりも無いのだ。
ルナはエイルがもう一人でやっていけるのであれば自分の仕事は終わりでいいと思っていたのだ。
そのケジメとして考えているのは、エイルが剣聖になったら出ていくつもりだったのだ。
「ただいま、ルナ!今日は何してたの?」
「買い物して来た。いい材料たくさん買ってきたから美味しいご飯作っておいたよ。」
可愛らしく笑う。実際今の状況になるには僅か三ヶ月しか経過していないのだ。
エイルは最速でCランクに到達しているのだ。現在のルナはかなり危ない依頼の時以外は同行していないでいるのだ。
「エイル君、今日は私の手伝いをしてくれない?Bランクの私と一緒ならBランク以上の依頼でもこなせるわ。」アンジェはエイルをパーティに誘う。
アンジェは燃えるような赤毛に長い睫毛、キレ長の眼に淡い緑色の瞳の美人である。スタイルは引き締まった身体のラインに大きな胸、確かに魅力的な女性であった。
アンジェのパーティは、本人以外にBランクの重戦士、Cランクのクレリックが参加していた。
「いいえ、僕はルナ以外とはパーティを組まないから、他を当たって下さい。」
「おい、いい気になるなよ。アンジェが言わなきゃお前をパーティに誘ってやったりしないんだがな。」重戦士が苦々しく笑う。
「エイルが参加してくれないって言うんなら、あなたの囲っている、あの『お荷物』にお話ししてみようかしら。」
「・・・」エイルは拳を握りしめて俯く。
「わ、わかったよ・・・ルナには絶対に手を出さないでくれ。」
アンジェのパーティに参加する事になった。ギルドの受付では色々な憶測飛び交った。
『あーあ、ついにルナ嬢は捨てられたか』『まぁ冒険者だから可愛いだけじゃねぇ』『一時は第二王子にも目をかけられてたくらいだったのに、今じゃただの女みたいになってるしな』
アンジェのパーティは、Bランクのオークの群れ討伐に出発した。
影から一人の高位テイマーとアサシンが見ていた。
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