真祖の告白
ルーナがヴァルセリアに来てから、真祖の態度に変化が表れている。以前の残忍さが影をひそめ、いっそ魔族とは思えない落ち着きを見せている。ルーナの神聖な血液を摂取したため魂に変化が起きたようだ。そんな中ジルドレイは淡い恋心をルーナに向けるようになっていた。そして、遠回しではあるが魔王ジルドレイがルーナに求愛の言葉を呟くのであった。
翌朝、ルーナはヴァルセリアの軍服を纏って帰還した。
「皆んな、心配かけて御免なさい。」
「姫!大丈夫?」フィンが真っ先にルーナに齧り付く。
「あっあれ?姫・・・かなり雰囲気変わっちゃった・・・」顔を紅潮させて話し続ける。
「前より、幼くなった?可愛くなった感じ?」
ルーナは上唇を持ち上げて目立つほどの八重歯を見せると一言。
「吸血鬼になっちゃった・・・元には戻れないみたい。」可愛らしい上目遣いでフィンをみつめた。
「・・・でも、前より優しそうで可愛いよ。姫が戻って来てくれたからそれでいいよ。」
「ダメなの。ローゼスでの仕事が済んだら、夜にはヴァルセリアに戻る約束なの。」そそくさと魔力抽出槽に入り、ローゼスを賄う魔力の供給を開始した。
ラプラスは魔力抽出のためのコントロールセンターから、驚愕の声を上げる。
「ルーナ様!放出する魔力が多過ぎて制御出来ません。抑えて下さい!」
短時間で供給を終了してしまった。今回のバンパイア化によってさらに魔力容量が増えているようだ。
「何にせよ、ルーナ様が戻られたのならヴァルセリアに返す必要はない。戦争だ!」ベガはやる気満々だ。
「ダメなの。私は真祖の僕になってしまったから、彼の命令に逆らえないの・・・」恥ずかしそうに頬を紅潮させて俯く。
「だから、毎日この国の魔力を賄いに戻っては来るからよろしくね。」情けなさそうにほほ笑む。
魔眼で受けた魅了の後遺症でもあり、なにより僕としてのイニシエーションから逃れる事は出来ないのだ。
唯一、ルーナを解放する方法があるとするならば、それは真祖ジルドレイを倒すしかないのだが、ルーナの力を手にした真祖を倒すのは至難の業であった。
ルーナはやむを得ずヴァルセリアに戻って行った。
ジルドレイはルーナの帰りを待っていた。別に何をするわけでもなく、普通に夕食の席に案内した。
「どうだ?まだ吸血衝動は起こっていないのか?」食事を摂りながら普通の食卓の会話の様に話しかける。
「はい、まだ何も感じません。」
「吸血衝動が起こってきたら、誰の血液を飲みたい?」知識はジルドレイの思念を通してどのような血液のストックがあるかルーナに伝わってくる。
「・・・では、最初は私の母メルティアの血液がほしいです。母をもっと理解したい。母を超えたいです。」
メルティアはルーナ・セイラの母にして、生まれながらに魔道強化を受けて生まれた戦聖女と称される特殊型大魔導士である。天界との前聖戦に終止符を打った立役者である。2柱の大天使との融合を果たし、魔力以外にも神聖力を力の根源とする彼女は、戦闘においては神を凌ぐ力を発揮していたという。
「ふむ、貴女の自由にするといい。好きな血液から膨大な情報を取り入れてもっと強くなれ。」静かにジルドレイは続けると、味方の誰にも見せたことのない笑みをルーナに見せるのだった。
ジルドレイは夕食が終わるとルーナと共に寝室に戻り、ヴァルセリアで最高級のワインを嗜む。
「君は真祖として生まれた私をどう思う?汚らわしいと思うか?恐ろしいと思うか?・・・そして今、吸血鬼をなった自分を忌まわしい者と卑下するか?」
「どうでしょう?でもジルは私の思っていたイメージとは違って優しいので少し混乱しています。」ルーナは少し俯きながら答える。
「貴女の血液を摂取して身体は若返ったが貴女の魂に振れてしまった。貴女のその穢れなき魂が我の残忍なる魂が魔王の本能が中和されてしまったようだ。・・・」
「以前の私なら喜んでいいことなのでしょうね。でも、私も聖女たる立場でありながら魔族の洗礼を受けてしまいました。もう戻れないと認識しています。・・・でも何でしょう、気持ち的には心が自由になった気がしているんです。今までは善良でなければ、正義を貫かなければ、大義を貫かねばって・・・雁字搦め《がんじがらめ》だったんです。だから、いまはとても楽なんですよ。」にっこりとほほ笑む。
「我も無理に破壊や支配を考えるよりも、別の価値があるのではないかと思っているんだ。そして、何よりも本気で貴女に愛されたいと思っている。」
「少し考えさせてください。私にはホントはやらなければならない事があると思っています。それを確かなものにするために、メルティア母様の血液をください。」
新しい、捜索は楽しくもエネルギーいりますよね。頑張ります。これからも閲覧よろしくお願いいたします。