メナキアの夜
ルナは、ローゼスの首都メナキアで生活していた。自らの魔力を十二分に使ってローゼスは急発展しているのであった。そんなルーナを訪ねるアンブロシアのマスタークラスの魔導士と聖女。果たしてルーナをアンブロシアに連れ帰る事は出来たのか?
ルーナはローゼスの首都メナキアに再びマナ供給プラントを完成させた。
自ら膨大な魔力を抽出し、信じられないほどの速度で開発を進める一方で、荒れ果てた国土を再生させて世界樹の増植を試みていた。
ルーナ自体の本当の職業は戦聖女である。自然の再構築、国土の浄化に関しては、曲がりなりにも聖女の祝福をその大地にもたらす事ができるのだ。
都市機能として魔導砲・魔導結界機能に関しても強化の上で再開発が順調に進んでいた。
『ルーナ様、お身体の具合は如何でしょうか?』製造No3の人工生命体であるリューネはルーナの治療に訪れていた。
「えぇ、リューネ貴方の処置でかなり楽よ、有り難う。」
『とんでもありません。ルーナさまのお陰で国が豊かになってきている事を実感しています。それに、私自身こんなに贅沢にマナを供給して頂いた事がないので、何でもできそうな気がします。』
「リューネ?私この国を世界一豊かな国にしたいの。」
リューネのAIにはルーナの感情要素・知識・価値観・美的感覚を取り入れ、今までに無かった人により近い感情を持った人工生命体に改良してあるのだ。
現在では、このバージョンのアップデートを全ての機械兵器にも導入して過去に無かった社会が形作られていた。
つぎの問題として、この国が他の国の人間を受け入れるか?検討を重ねていたのだ。
その頃、魔法大国アンブロシアではAI国家ローゼスの変化を重く見ていた。
まさかここまで強力な軍事国家に成長するとは考えていなかったのだ。アンブロシアも同じAIが国家運営の中枢を担っている。
そのAIのコアを担っているのは、ルーナの母であるメルティアの頭脳なのであった。
AIメルティアは確信していた。『ローゼスは膨大なマナを確保した可能性が高い。国自体を賄うだけの魔力源を確保出来る手段は普通は存在しない。そこにルーナは在る。』
メルティアは大魔導師長アルフィンと第二聖女でありルーナの親友であるクロエを使節団として派遣する事に決めた。
「・・・凄いね。あの果てしない荒野だったローゼスが、こんな豊かな自然環境の国になるなんて。」
「恐らく、ルーナ様がいるのは間違い無さそうですね。」
「でも、人は一人もいないんですね。」
「まぁ、機械国家だからね。」
突然目の前に人型人工生命体ストラトスが転移してくる。
『お迎えに上がりました。アンブロシアの使者の方ですね。転移でご案内しますのでそのままで。』
メナキアのメインプラントに転移した。
「機械なのに魔法が使えるのか・・・驚いたな。君は最初から魔法を使えたのかい?」アルフィンが問う。
『いいえ、主人が私のAIを改良して下さいました。』
なんと、最初からメナキアの心臓部と言えるマナ供給プラント内部に案内された。そこには、10体の人型人工生命体が並んでおり、中央にはラプラスがいた。
『ようこそ、ローゼスの城へ。まもなく陛下が降りて参ります。』ラプラスは軽く挨拶をする。
プラントの中央には魔力抽出槽があり中から蒼白く光輝く身体と大きな翼を持った少女が現れる。
「久しぶりだね、アルフィン、クロエ・・・」
暫し二人は驚いて立ち尽くしていた。アルフィンはしばし目を奪われている。
「驚いた・・・覚醒してたのか。」
クロエはにっこりと微笑むと話しかける。「ルーナ様、これでアンブロシアに帰って来れますね。お待ちしておりました。」
ルーナは困った様に微笑むと答える。
「いいえ、私がもうここを離れる事はないわ。」
「なっ何故ですか?これで晴れてルーナ様がアンブロシアの女王となれるのに・・・」
『何を言っている!ルーナ様は私達の真の主人。やっと自由を手に入れたルーナ様を護って行くのは私達の使命です。あなた達の元に帰る事はありません!』
「ありがとうリューネ。でも取り敢えずお下がり。」ルーナはリューネを制止する。
「アンブロシアはどうですか?私が居なくてもちゃんとやれてる筈よ?この国が荒れればいつかは戦争が起こるわ。私がちゃんと管理して行かないといけないの。この子達は優秀・・・アンブロシアと戦争する気も無いけど、もう従う気も無いわ・・・」少し俯いて答えた。
「そっそんな事言わないで下さい!また、一緒に居られると思ったのに・・・」クロエは泣きべそをかいている。
『必死に努力してきたルーナ様を認めてあげなかったのはあなた達でしょう?』リューネが再び割って入る。
アルフィンは人工生命体のAIがほぼ人間の感情に匹敵している事に驚愕が隠せないでいた。
「だから、恥ずかしいからやめて!リューネ。二人とも今日は城に泊まっていって!」ルーナは優しく笑った。
会場は食卓に移動していた。
食事の給仕にはストラトスがついていた。
「二人とも久しぶりね。元気だった?」
「大丈夫、でもやっぱりセイラが塞ぎ込んでるかな。あとはアンゼル(皇帝)様とシェス(シェスター)とベル(シーベル)意外は・・・クロが暗いかも。」アルフィンは正直である。
「ごめんねクロ!でもこれでいいのよ。この子達にも私が必要だしね。」当時と変わらない顔で微笑みかける。
「私もこっちに来たらだめですか?」クロエはルーナとは親友だったのだ。
「ダメだよ、メル(メルティア)が不安定になった時、治せるのはクロだけなんだから。」アルフィンは嗜める。
「そうだよ、クロはもっとアンブロシアで偉くならないとね。」
ルーナは話を変える。「ベル大丈夫だったかな?逃げてくる時異空間に放り込んで逃げたんだけど、ちゃんと戻ってきた?」
「あぁ戻ってきたよ。むしろスッキリした顔してたよ。」
「そっか、それならよかった。仮にもベルは私の許嫁だったからね。」
「私達はこのまま帰るけど、ベルは引き下がらないと思うから気をつけて・・・」アルフィンは真面目な顔で告げた。