第一王子
レオンがナースラスへの外交に』回っている間、ラグナス王がルーナの排除に動いた。先日主席魔導士の座を奪われたテンセントに命じて、禁呪を使った罪でルーナを城から追放しようと考えていたのだ。そんな中、予想外にも第一王子のバーンが帰還しており、自らの王太子権限をも脅かすラグナスの思惑を知る。そして偶然にもルーナの拷問現場に遭遇したのだった。
レオンはその頃ナースラスの皇女シーラと歓談していた。
シーラは聖女でありゴールドブロンドの巻き髪に、グリーンの瞳の清楚な印象の女性だ。
「お初にお目にかかります。第一皇女のシーラにございます。」
「第二王子のレオンです。お見知り置きを。」
「殿下は母国では、すでに公務をされておられるのですね。」
「兄が留学から戻られれば私の仕事もおわりです。」
「あら、確かレオン様が王太子ではなかったのですか?」
「名目はそうですが私のような風来坊には玉座は似合いません。兄が戻れば王太子の座は辞退するつもりです。」
ナースラスの王家としてはレオンと是非とも婚約させたいし王太子になってほしいのであった。
ラグシャールの第一王子バーンは気性が荒く掴みどころのない性格であり娘を嫁がせるのは不安なのであった。
しかも本日の晩餐会、舞踏会を出席する事には婚約披露の意味があり、既成事実を確固たるものとする為の重要な行事なのだ。
レオンとしてはルナと一緒に出席して、婚約を回避しようと考えていたのだが、残念ながらルナは連れて来れなかったのである。
そして晩餐会は賑やかに始まった。
「如何ですかな?我が娘は、、、」ナースラスの教皇ロイズは切り出す。
「素敵なお嬢様ですね。」レオンは特に気負いも無く応える。
「もし宜しければ、舞踏会ではシーラをエスコートをしていただきたい。」
「私はシーラ様と婚約する気はありませんので他の方を当たっていただきたい。」今回のレオンの出席は、ラグシャール王が勝手に決めた人事だった。
「それは、困りましたね。その回答は我が国との外交を軽視すると受け取られても仕方ないですな?」教皇はにこやかな表情ではあるが様子がおかしい。
「私はおそらくはラグシャールの王位にはつかないと思いますので、勘違いされないでいただきたい。」レオンは、対面を考え体調不良のため舞踏会には不参加という事になった。
微妙な雰囲気でナースラス訪問を終了したのだった。
ラグシャールには、招かれざる訪問者が訪れていた。バーン第一王子が戻って来ていたのだ。
「なんだ?俺の知らない所で、ナースラスの外交にレオンが行っただと?しかも、レオンが王太子になっているとはどう言うことだ?」バーンの問いにラグナスは慌てていた。
バーンが他国の留学に出ている間に、レオンを王太子として据える事を狙っていたのだ。
ところがバーンには隠して遂行していた計画がバレてしまったのだ。
「親父殿どう言う事か説明していただきましょうか?回答によっては今からこの城を制圧してお見せしますよ。」
バーンは素行こそ悪いが、努力も無しに学問に通じ、剣術は剣帝の称号を受け、魔導師の資格も有する天才なのだ。ひとたび暴れれば誰も止められないのだ。
「抑えよ!この愚か者が!もう数日でレオンも戻る。そこで話をしてやろう。」必死でバーンを押し留めた。
「いいだろう、今回は全てに決着をつけさせていただこう。親父殿には覚悟しておいてもらおう。」
浮かない気分の中バーンは一人城内を歩き回っていた。
地下牢に続く回廊から女性の鳴き声が聴こえる。その先には吊るされている少女をよってたかって殴打する男達が見える。
「お前に首席宮廷魔導師の地位を奪われてからろくな事が無い。このまま嬲り殺してやるから覚悟しろ。」立場を奪われた魔導師テンセントは怒り狂っていた。
「ほほぉ、お前こんな年端もいかない少女に地位を奪われるってどう言う事だ?面白いなぁ。」バーンが割って入ってくる。
「やっ、これはバーン殿下」テンセントの手が止まる。
「話し聞かせろよ。」バーンは泣き疲れてグッタリと項垂れるルナを眺める。
「へーよく見ればいい女じゃないか。」
「こっこいつは、レオン殿下が気にいって連れて来た魔法剣士ですが、事もあろうか首席宮廷魔導師の私に恥をかかせやがったんですよ!」
「お前の恥はどうでもいい。一体こいつは何をしたんだ?」
「古代呪術を試行しやがったんですよ。」
「へぇー古代魔法か・・・使える奴が居たのか。しかもレオンのお気に入りかぁ、、、良いモノみつけたな。」ズカズカとルナに近づくとじっと見つめる。
泣き顔、ボロ切れのようになった身体、特に両脚は骨まで見えている。
「・・・可哀想に・・・」
バーンは急に真顔になる。一瞬にしてテンセントの首が飛ぶ。ルナに暴行を加えていた近衛兵も同様に首が飛んでいた。バーンは瞬間湯沸かし器の様に突然にキレる人格である。瞬時に状況を察知していたのだ。
バーンは縄を切ってルナを下ろすと、鎮痛魔法をかける。見た目と異なり、きめ細やかな魔法技術を持っているのだ。
「済まなかったな。これからは俺が護ってやる。」
「あなたは誰ですか?」泣きはらした顔は、威厳ある大きな男性を前におびえてしまっている。
バーンは大事そうにルナをだき抱えると自室に連れて行った。
バーンは部屋に戻ると、ルナの血塗れの身体を裸にする。
「あっ、恥ずかしいです。やっやめて・・・」
必死に身体を縮めて露わになった裸の身体を隠そうとするが、酷い痛みでそれもままならない。バーンは泣きながら嗚咽するルーナに、治癒魔法ををかける。まさかこの大男が治癒魔法を施行できるとは誰も思わない。治癒魔法をかける所を誰もみた事がないのだ。
なんとあれだけの傷が呪いの傷を除いてほぼ完治している。
「・・・ありがとう・・・貴方はだれ?」ルナは弱々しく呟く。
「俺はラグシャールの第一王子のバーンだ。辛かったな。安心しろ、これからは俺が護ってやる。」バーンは改めてルナを見つめて驚く。
ルナの身体には夥しい数の魔封装備がつけられているのだ。
「これはどう言う事だ?こんなに魔封具が付けられたら、魔法が使えないどころか魔力欠乏を起こして動けないだろう。」
今のルナは、眠る間もなく責められ続けて意識が朦朧としていた。
「これをしてないと、私の居場所がバレちゃうから・・・」
「だれから逃げてるんだ?」
「母国・・・アンブロシア」朦朧とした意識の中で、つい本当の事を話してしまう。
「・・・」
とんでもないことを聞いたバーンは言葉が出ない。
アンブロシアと言えば、3大陸にわたり支配国を持つ世界最強の魔法国家である。ましてやこれだけの魔封装備を付けて平気なほどの魔力を持っているという事は王族の可能性が高い。
気を取り直して、自分専用の侍女を呼びルナの世話をするように指示した。
綺麗に着飾ったルナはとても美しく、バーンでさえ見惚れるほどの美しさだ。
今回の拷問で受けたトラウマは深く、人に触れられるのが怖いのだ。その後、バーンはルナの側を離れず誰も寄せ付けない様にしている。
「バーン殿下は見かけによらず優しいですよね。」ルナはふんわりと微笑む。
「俺らは舐められたらおしまいだからね。表面上は硬いだろうな。」
バーンは燃えるような赤い髪に真紅の瞳をした整った容姿で、身体はレオンより一回り大きいが細身でその割に筋肉質なイケメンである。
「この度は、助けて下さり有り難う御座いました。」深々と頭を下げる。
「ルナ嬢の秘密は守るから心配しないでいいよ。ところで君の胸の傷は解呪して治せるのかい?」
「古代呪術なのでそこは古代術式でしか解析できないですから、禁呪だと言われて困ってます。」
「俺が許可するから解析して治してもいいよ。ずっと付いて見てるから安心してやればいいさ。」
「本当に優しいですよね。」まじまじとバーンの顔を見つめる。
そして、レオンが帰って来た。
よ、よろしくお願いします。




