疑惑
エイルが剣聖試験を受けている頃、ルーナはレオン王子の場内で静養していた。実際には、エイルを魔力強化するために行った魔法の反作用と、呪いのダガーによって受けた傷の痛みに耐える毎日を過ごしていた。とはいえ、レオン王子の手厚い待遇によってしっかりとした西洋はできていた。しかしながら、それを良く思わないのは、国王陛下であった。レオンの周りにまとわりつく邪魔者として排除対象になろうとしていた。
ルナの状態は芳しくない。胸の刺し傷は未だ塞がっておらず、毒の解析も遅々として進んでいなかった。
最近は吐血が続いて夜も寝られない状態が続いていた。
ルナの母国では優れた治癒魔法師や解呪師がおりこの様な問題に出くわす事がなかったが、この国は、魔法先進国ではなかったのである。
ルナが自ら課している魔力抑制を解除して、治癒せしめることはできるのだが、その魔力は膨大であるため、母国の追手に居場所を気付かれてしまう可能性が高いのだ。
「レオン様、ご迷惑おかけして申し訳ありません。」何の気なしに隣で執務をこなすレオンに話しかける。
「うん?気にしないでいいよ。私としては隣に咲いている綺麗な花を見て和んでいるだけだから。」ルナに優しく微笑みかける。
ルナは城に来てからまだ2ヶ月であるが、満足な仕事もせずに寝込んでいる役立たずなのである。
実のところ、現在のラグシャール王ラグナス陛下は、ルナの事をかなり邪魔者として評価しており事あれば追い出すつもりで静観しているのだ。
そんなある日、レオンは、隣国への使者としての仕事が命じられた。その実はナースラス聖神国の皇女との見合いの予定なのである。できればレオンが不在の折にルナを追い出してしまいたいのだ。
「忙しいのに困ったなぁ、ではルナは私の護衛としてついて来て下さい。」
「レオン、今の私では役に立たないわ。」
「そうか、ルナは私の側近なのだからついて来て欲しかったんだが。仕方ないな。」
「では、せめて結界魔法を張っておきますね。」
「アルティメット・シールド」
これで、ほとんどの物理・魔法攻撃は無効化される。加えて結界に攻撃が当たった瞬間ルナにその情報が伝わる様になっているのだ。
「レオンが危なくなったらすぐに側に行くから心配しないで。」
「ふふっ、それは頼もしい限りだ。」
当日、ルナはレオンを遠隔転移でナースラスの城へ転送して送り届けた後、自室に籠り本気で自分の胸の傷を治す為の魔法構成を構築し始める。
あまり大量な魔力を放出すると母国に居場所を知られる可能性があるため、最小限の魔力量で最大の効果を発揮できるように魔力を研ぎ澄まして行く。
暫くすると、ルナの部屋をノックする音が聞こえる。ドアを開けるとそこには、前首席宮廷魔導師のテンセントと近衛兵団が取り囲んでいた。
「ルナ嬢、今何をしておりましたかな?この立体魔法陣は何をする為のモノですかな?」
「あっコレは、自分の傷を・・・つ」
「やぁこれは古代呪術の構成現場とお見受けします。古代呪術と言えば禁呪では無いですか!」
「これは、私の傷を治す為の・・・」
「問答無用です。連れて行きなさい。」自室から連れ出されてしまった。
「陛下、連れて参りました。」
「うむ。ルナ嬢其方は自室で禁呪である古代呪術を施行していたと言うのはまことか?」
「はい、それは事実で御座います。ですがっ」
ラグナスは話を遮る。「理由はどうであれ、禁呪の施行は重罪である。この者を捉えて、本当の目的を吐かせるのだ。」
地下牢へ連れて行かれた。
実際には聴取とは名ばかりで、ほぼ拷問である。
両手を括られ吊るされた状況で棍棒で大腿部を殴打する。
「きゃああっ いやぁ きゃあうぅ」
流石に悲鳴があがる。両足は骨折して内出血でひどい状況になっている。
「早く認めた方がいいぞ。お前はレオン殿下を誑かして、国を乗っ取るつもりだろう?」
「私は・・・レオン・・・殿下に・・連れて来られただけです。古代呪術だって・・・ここで治せないから・・・自分で解呪用の術式を組んでいただけじゃないですかぁ・・・なのにっっ」泣きながら訴える。
魔法を封じる強力な装具は嵌められている。力ずくで解除出来なくもないが考えてしまうのだ。
エイルやレオンの様に優しく受け入れてくれる人達を裏切れないと言う思いがあり甘んじて拷問にも耐えている状況なのである。
「レオンが帰って来るまで我慢できるかな・・・」
よろしくお願いします。




