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夢物語~sin of happiness  作者: finalphase
第1章 不幸と幸福
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Episode8 幸福の象徴

その日、恵理はほのかの家に遊びに来ていた。




幸い、今日は家に両親がいないため、恵理がほのかの家に遊びに来たことを知られる心配もない。




「お邪魔します。」、そう言って恵理が家に入ってきた瞬間、ほのかの母の峰子は「しっかりししてそうな子ねぇ。」と心の中で思った。




と同時に彼女が何らかの悩みを抱えているだろうということもすぐに理解した。




というのも、彼女の瞳の奥は純粋な輝きを放っていなかったからだ。




目というのは不思議なもので、人間の心の中の素直な気持ちがありのままに瞳に反映されてしまう。




それはともかくも、ほのかを支えてくれる友達がいるという事実は峰子にとっても喜ばしいことであった。




恵理にとってほのかの部屋は輝いているように見受けられた。




女の子らしいレイアウトでぬいぐるみや小道具などで溢れている。




「ほのからしい。」と思うと同時に恵理の心には様々な想いが錯綜した。




恵理の部屋にはこんなに沢山のぬいぐるみや小道具はない。




テストが終わったあとの帰り道、「今回も全然わからなかったな。」と言いながら頭をかくほのかを見て、恵理は「ピュアな子で可愛い」という感情を何故か抱いたことを恵理は鮮明に覚えている。




今目の前で無邪気に恵理と遊んでいるほのかもあの時のほのかそのものだ。




純粋でピュアなものは美しい、そしてまた儚い。




学校の友達や先生のことについて談笑したり、流行りのてテレビゲームをしたりしたあと、2人の遊びは昔ながらのトランプを使ったカードゲームに移行した。




恵理の家にはむろん最新のゲーム機などはないが、古いトランプは辛うじてある。




あのトランプは母が大切にしていたものだ。




あんなことがある前までは...




恵理は少しばかり切なさを感じながらカードゲームを楽しんだ。




昔ながらのシンプルなゲームって、何でこんなに楽しいんだろ。




世代や価値観が違っても、共に同じ時間をできる、そんな気がするんだ。




ババ抜きやジジ抜き、大富豪...




どれも誰もが名前を知っているゲームだけど、これを最初に考えた人って凄い、そう思う。




一通りのゲームをし終え遊び疲れてきた頃、ほのかの頭の中にまたあの声が聞こえた。




「ほのか、デストロイアが現れた。」




ほのかはそのことを恵理に伝えると世界中の人の心の中をイメージした。




しかし、どこにも異変はない。




「異変がある心はないよ。」




セイちゃんはほのかの言葉を聞いて、「ほんとに?」と呟き、暫く考えてから「まさか!」と言った。




「心を持っているのは人間だけじゃないんだ。動物や昆虫、それに植物だってみんな心を持っている。もし人間以外の生き物をデストロイアが狙ったとしたら...」




「そんな。」、ほのかはそう言うと同時に世界中の生き物の心の中を思い浮かべた。




その中に異変のある心が1つあった。




それは白色のとても小さなハート。




ほのかのイメージでは鳥の心の中だ。




2人は顔を見合わせて頷くと、その心にイメージの中で円を描いた。




そして鳥の心の中に入り込む。




既にデストロイアの存在はなく、不幸の残骸だけが中に残っていた。




だが、何か様子がおかしい。




不幸の残骸はほのかたちを見ても襲ったりしようとはしないのだ。




その不幸の残骸は悲しそうな目をしていた。




「これは事情を調べてみる必要がありそうだね。」とセイちゃん。




セイちゃんが眼を瞑って何かを祈ると空中からハート色の虫眼鏡のようなものが姿を現した。




「これは!」、ほのかと恵理の声が揃う。




「これはマジカルレンズだよ。これを使って心の中を覗くとその人の考えていることがわかるんだ。もちろん不幸の残骸が何を願っているかも。不幸の残骸が求めているのは叶わなかった心の幸福だからね。」




ほのかはマジカルレンズを使って恐る恐る不幸の残骸を覗いてみる。




レンズの中にはスズメの巣にいる複数のヒナとそれにエサを与えている親鳥が見えた。




親鳥がエサを一通り与え終わって飛び去ったあと、1羽のヒナが体勢を崩して巣から転落してしまう。




帰って来てから1羽ヒナがいないことに気づいた親鳥は懸命にそれを探すが、結局ヒナが見つかることはなかった。




「そっかぁ。」、ほのかは言った。




「スズメのお母さんが感じているのはヒナがいなくなってしまったことに対する不幸なんだ。だから私たちの目の前にいる不幸の残骸はヒナという幸福の印を求めようとしている。親鳥にとってはヒナが帰ってくることが一番の幸せだからそれ以外の幸せを奪おうとはしないんだね。」




ほのかと恵理は目配せをすると、魔法少女に変身した。




「マジカルトランスフォーマー!」




私たちが、ヒナを見つけて、親鳥のもとに返すんだ。




口には出さずとも、想いは通じてる。




それから1時間ほどして、2人は公園の近くで合流した。




「見つかった?」




「ううん、全然ダメ。」




「早くしないと帰りが遅くなっちゃうよ。」




「まだ探してない場所を探そう。」




「うん!」




2人はその後もヒナを懸命に探した。




だが、なかなか見つけることができない。




「もしかしたらもう、ヒナは何者かに...」




2人がうっすらとそう思い始めたその時、近くの神社の奥からか細い声が聞こえた。




それは鳥のヒナのような鳴き声だった。




「もしかして?」、2人は顔を見合わせると、鳥居をくぐって神社に入った。




「ここって本当は特に用事がないのに入っちゃダメなんだよね。神様、ごめんなさい。」




恵理はそんなセリフを言うほのかを微笑ましく思った。




言葉には出さずとも、恵理も同じ気持ちを共有している。




鳴き声はお賽銭箱の方から聞こえる。




お賽銭箱に近付けば近付くほど声は大きくなっていった。




その下を見ると、1羽のヒナが震えながらうずくまっていた。




「寂しかったね。もう大丈夫だよ。」




ほのかがそう言ってヒナを掬い上げる。




2人は魔法を使って、ヒナを元の場所に返して上げた。




親鳥の目は潤んでいたように見えた。




ほのかが親鳥にマジカルレンズを当てると不幸の残骸は消え去っていた。




ほのかと恵理は大急ぎで家に戻ると元の姿に戻った。




これで一件落着である。




そんな2人の姿を遠くから見ている者がいた。




未来から来た少女、白石梨乃である。




「あの幸福の戦士2人の正体は一体誰なのかしら。」




と心の中で呟く。




未来から来たことは秘密にしなければならないため、迂闊に近付くことはできない。




過去の時間と下手に干渉すれば、取り返しのつかないことになりかねないのだから...

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