Episode38 優等生の悩み
心地よく眠っているところをミラクに起こされる。
「ん~、もうこんな時間?」
白石梨乃は目を擦りながら頭の上にある目覚まし時計に目をやる。
午前5時00分。
いつもより30分はやい。
「梨乃、不幸の残骸の場所を突き止めたよ。場所はリブトンの近く。」
リブトンとうのは家電製品を扱う会社の名前だ。
急いで着替えを済ませると、梨乃は決意を固めた。
「ミラク、お願い。」
「了解、任せといて。」
そう言った瞬間、ミラクがドラゴンのような生き物の姿に変身する。
景色が薄暗い朝の空の中を飛び立つ。
梨乃はミラクの背中に向かって現場に向かった。
ミラクは時や状況に応じて様々な姿に変身することができる。
梨乃の保護者に化けることもしばしばだ。
しかし、それには猛烈なエネルギーを消費する。
これが、彼がいつも表に出られない原因である。
新たなエネルギーを蓄えるには、大量の睡眠時間が必要なのだ。
リブトンでは既に何人もの人々が幸福を奪われていた。
まるでウィルスのように会社の内外にまとわりつく、不幸の残骸たち。
その中の一体に向かって弓を弾く。
「ミラクルフィーチャーフィニッシュ!」
不幸の残骸は以前と同様に攻撃を気にも留めないようである。
「やはりこれは効かないようね。こうなったら奥の手よ。」
ミラクに力を貰う。
この技もミラクの心のエネルギーを消費するが、致し方ない。
「ミラクルフィーチャーストライク!」
今度放たれた矢は虹色の輝きを放っている。
不幸の残骸の軍団に攻撃は命中した。
爆発音と共に二体が消滅する。
しかし、それでも二体だけである。
「梨乃、1人の力では限界がある。困った時には仲間に頼るのも悪くないよ。」とミラク。
ミラクは知っていた。彼女が日々孤独感に悩まされていることを。
世間からいくら天才とはやし立てられても、梨乃の心の中には空虚な穴がある。
未来の世界の仲間も、両親ももう存在しないのだから...
彼女は少し考えこんでから、呟いた。
「そうね。分かったわ。」
空中から電話を取り出す。
ミラクルフォンと呼ばれる未来のスマートフォンは人の脳内に、直接話しかけることができるのだ。
「みんな、リブトンの近くに昨日の不幸の残骸が現れたわ。手の空いてる人だけで良いから、来てくれるとありがたいんだけど...」
以前の梨乃なら、仲間に頼るなんて真似は、まずしなかった。
とミラクは思う。
過去の世界の住人たちが彼女の心に変化を齎した。
以前よりも性格に角が無くなった。
「やっぱ俺がいないと駄目なのか、梨乃さんは?」
振り向くといつの間にか海翔がそこに立っている。
1人称が変わったのは、心境の変化化、成長の表れか。
いずれにせよ事情を伝える前から彼がここに向かっていたであろうことは間違いない。
「うるさいわね、年上に向かってその口のきき方は何よ。他の3人が来るまで時間稼ぎをするわよ。」
梨乃は弓で、海翔はカマを使って不幸の残骸に攻撃を加えていく。
カマを使う海翔を見るのは初めてのことだ。
まだ、あんな武器を隠し持っていたのか...
少し感心しながら戦闘を続ける。
まず最初に駆け付けたのは、田中恵理。
少し遅れて望月湊音もやってきた。
だが、最後の1人だけがなかなか現れなかった。
「あいつは来ないんじゃねーか」という海翔に対し、「それはないよ。ほのかは絶対来るはず。」
丁度恵理がそう言った時、彼女が走ってくるのが見えた。
みんなのもとに駆け付けると、「ごめん、遅くなっちゃったかな。」と言って頭をかく。
「全員揃ったなら力を合わせて一気に決めようぜ。」と海翔。
「これに力を蓄えるんだ」
そう言って、カマを差し出す。
5人はありったけの力をそれにすべて注いだ。
「みんなの力を1つに。マジカルオールパワー!」
カマが強烈な輝きを放つ。
眩しさで目が眩む。
不幸の残骸が徐々に消えていく。
時間が経つと、最後の一体も無事浄化された。
「みんな、わざわざありがと」と少し照れ臭そうに言う梨乃。
腕時計に目をやり、「あら、もうこんな時間ね」と呟く。
6時10分弱。
もうすぐ朝食の時間だ。
この後は自然解散となった。
1人では成し遂げられないことも、みんなで力を合わせれば意外とあっさりと解決したりする。
家に帰る途中ミラクが言った。
「良い仲間を持ったね、梨乃...」




