Episode30 神童の兵器
海翔の前の敵はみるみるうちに無数に増えていく。
「分身か、まるで鏡だぜ」と海翔。
分身した莉子が鏡から紫色の光線を放つ。
その光線が線状になって彼の身体に巻き付く。
「これでおさらばよ。」
莉子がそう言った時、空中から突然釜が出現し、回転しながら海翔の拘束をほどく。
それは操られたように海翔の手元に引き寄せられた。
海翔は神経を集中させて、どれが本当の敵なのか見定める。
頭の中に本物の敵のイメージが浮かび、彼女に向かって、釜を投げつける。
莉子が悲鳴をあげる。
右肩に釜が掠ったのだ。
血が飛び散る。
右肩を押さえながら呻く。
「こんな危険な技を隠し持っていたとは...」
海翔は彼女に反撃の隙を与えない。
「サグレットアタック!」
莉子はもろに攻撃を喰らい、再び悲鳴をあげるとその場に倒れ込んだ。
「このクソカキ... 覚えてろよ。」
そう言うと手鏡と共にどこへともなく消え去った。
莉子の敗北により、彼女の力で操られている不幸の残骸の力も弱まりつつあった。
「あいつ、やるじゃない。」
白石梨乃は目の前から消えていく莉子の分裂を目の前にして呟いた。
他のメンバーたちもそれぞれの必殺技を使い彼女の分身を倒した。
ほのかと湊音は共闘して、恵理と伊吹は1人で...
4人とも身体はボロボロであった。
平林莉子は家に帰ると身体を震わせながら何度も繰り返していた。
「莉子が弱いんじゃないわ。一ノ瀬海翔とかいうあのガキが強すぎるのよ...」
手鏡にデストロイアの姿が映る。
彼女が飛び上がる。
「どうやら幸福の戦士を倒せなかったようだな。」
「こ、これは。デストロイア様、もう一度チャンスをお与えください。」
痛む右肩を押さえながら膝まづく。
「ならもう一度だけチャンスをやろう」
デストロイアは不気味に微笑むと鏡の中から姿を消した。
莉子は口先ではああいったものの、これと言った自信はなかった。
あの神童に勝てる自信がない。
今回の敗北は大きなトラウマになった。
また負けるのが怖い。
失敗するのが怖い。
でも、次に失敗したら幸福になるチャンスは完全に失われてしまう...
死ぬ前にやりたいことはやっておこう、そう感じた。
莉子には特別な思いを馳せている人がいる。
「でも、こんな私があんな恰好良い人と釣り合うんだろうか。それに、こんな私のことを好きになってくれる人なんているんだろうか。」
心の中で不安と葛藤がが渦巻いていた。




