Episode28 乙女の心
平林莉子は相変わらず世界中の不幸を探し求めていた。
これまでも何人かの心から不幸を奪ってきたが、もっと大きな不幸が欲しい。
鏡を見る。自分の顔が映る。
その瞬間、彼女は閃いた。
そうだ、顔だ。
女の子にとって、顔は命。
コンプレックスを抱えている人も多いだろう。
これなら、一度に多くの不幸を奪える。
鏡を再び見つめて唱える。
「養子に悩みがあるすべての人の不幸よ、莉子のもとに集まんなさい!」
沢山の不幸が鏡に吸収される。
対象は容姿に悩むすべての人であるから、男も女も関係ない。
容姿に悩むすべての人の不幸が、文字通り莉子の鏡に吸収された。
不幸の残骸が、不幸を奪われた人のそれぞれの心の中に現れる。
南瀬ほのか、田中恵理、一ノ瀬海翔、白石梨乃、望月湊音の5人が異変に気付く。
一斉に別の地点で不幸の残骸が出現したことを直感する。
5人は偶然にもそれぞれ別の心の中に向かった。
容姿に関する不幸の残骸は、想ったよりも巨大だった。
一ノ瀬海翔と白石梨乃は不幸の残骸を次々と倒していく。
その姿はまるで職人の様であった。
田中恵理もそこそこのスピードで不幸の残骸をなぎ倒していく。
望月湊音は苦戦を強いられながらも、どうにか前進していく。
ほのかだけが止まっている。
今回の不幸の残骸は今までとは違い、人のような姿をしている。
彼女がほのかを殴って追い詰める。
腹部に強烈な攻撃を受けたほのかは気を失いかけた。
不幸の残骸がほのかの耳元で囁く。
「幸福の戦士なんて、やめちゃえば? あんたはデューグリュックのメンバーの中で一番弱いし、足手纏いよ。」
望月湊音は5体目の不幸の残骸に追い詰められていた。
目の前の不幸の残骸は人間の男性の姿をしている。
「マジカルソードブレイク!」
必殺技がいとも簡単に跳ね返される。
湊音を壁に蹴りつけて不幸の残骸が叫ぶ。
「障害者のお前なんかが、幸せになれるわけがない。幸福の戦士を気取るなよ。」
ほのかと湊音に不幸の残骸たちがとどめを刺そうとした時、仲間が駆けつけた。
ほのかの元には恵理と梨乃が、湊音の元には海翔が姿を現した。
不幸の残骸は彼らの手によって倒された。
ほのかと湊音は、仲間たちに命を救われたのである。
それを見ていた莉子ははっとした。
素晴らしいことを閃いたのだ。
幸福の戦士たちは、5人集まればかなり強いけれど、1人1人の力は大したことはないのではないかということだ。
それなら、彼らをバラバラにして1人1人倒してしまえば良い。
「今までとは比べ物にならない、大きな悲しみを、奪ってあげるわ。」
莉子は鏡を見て微笑んだ。




