Episode25 未来への風
永遠にあるものなんて、この世にない。
どんなに強いものも、どんなに美しいものもいずれ滅びゆく。
だからこそ美しいし、そして儚い。
北村紬は頭を抱えながら布団の中に蹲る。
近藤夏樹と山内由奈の姿が頭に浮かぶ。
まるでアスファルトの上に落としたスマホが砕けたかのように、人間関係に亀裂が入る。
高校1年生になっても、こんなことって、あるんだ...
私が弱いから? 周りと比べて変わってるから? 言いたいことを言えない性格だから?
様々な疑念が頭の中を過る。
事の始まりは、近藤夏樹の財布の中から1000円とちょっとが消えたこと。
放課後、あの時の教室にいたのは、私と夏樹と由奈の3人。
夏樹と由奈は私に荷物を見張っているように言うと、教室を後にした。
余りにも2人の帰りが遅いものだから、私は様子が気になって、ちょっとだけ、ほんの少しの間だけ、教室を抜け出した。
そしたら、2人は別のクラスで楽しそうに談笑していたんだ...
しまった、そう思った。
あの時、2人の様子なんて、気にしちゃ駄目だったんだ...
言っていたのは、私に対する悪口。
どん臭いよねとか、かわい子ぶってムカつくとか、とても女の子だとは思えないとか...
私は怖くなった。 友達だと思っていた存在の裏の顔を知った。
けど、そこで聞いたことは忘れることにしたんだ。
私は何も聞いてない、何も聞いてない、そう自分に言い聞かせて教室に戻った。
夏樹が財布のお金が盗まれたと言い出したのは次の日のことだった。
その場に居合わせて、1人で荷物を見張っていた私が真っ先に疑われることになったのだ。
夏樹も由奈も、私のことを犯人だと断定してきた...
私は一生懸命、私はお金を盗むなんて真似はしていないと主張したけれど、2人は耳を貸さない。
それどころか、この噂は瞬く間に学年の女の子たちの間に広がっていった。
何人かが私の陰口を言っているのも耳にした。
本当に何もしてないのに、夏樹や由奈ともまた仲良くしたいのに...
目に涙が溜まる。
今日はどうしても学校に行く気分に慣れなくて、具合が悪いと嘘をついて学校を休んだのだ。
手鏡を見つめていた平林莉子は笑みを浮かべた。
「女の子って怖いわよねぇ。莉子にも似たような経験あるもの。人間関係って、時と場合によっては人を不幸のどん底に陥れる。その不幸、莉子が奪ってあげるわ。」
北村紬の心から不幸が奪われた。
数分もすると、幸福の戦士5人が姿を現した。
「まずはお手並み拝見と行こうじゃない」、と莉子。
目の前の不幸の残骸は巨大な芋虫のような見た目と、哀しそうな眼をしていた。
ほのかがマジカルレンズをあてる。
あの日の事件の全容が明らかになる。
近藤夏樹の財布の中のお金は奪われてなどいなかった。
財布の中にはもともと少額な小銭しか入っていなかったのだ。
では、なぜ彼女はお金が盗まれたなどと嘘をついたのか。
そう、それは北村紬をグループから仲間外れにするためだ。
夏樹と由奈は以前から紬のことを快く思っておらず、彼女をグループから除外するチャンスを伺っていたのだ。
起こったような顔をするほのか。
「嫌なもの見ちゃったね」、と恵理。
一ノ瀬海翔と白石梨乃は早くも戦闘態勢に入っていた。
同時に不幸の残骸の方に向かう。
「不幸の残骸を倒すのは、この僕ですよ」
「いや、最初に見つけたのはあたしよ」
2人はお互いの行く手を阻みながら進んでいく。
それを見て呆れる湊音。
「ほのかさんたち、一気に決めちゃってください。」
「オッケー!」
2人が空中でハイタッチをかわす。
「マジカルツインバースト!」
オレンジ色の火花のような光が空中から出現し、不幸の残骸に直撃する。
不幸の残骸は光となって静かに消え去る。
「あ、梨乃さんのせいでほのかたちに先を越されました。」
「あんたがモタモタしてるからでしょうが。」
そう言ってまたもや睨み合う梨乃と海翔。
手鏡を覗き込んでいた莉子は呟いた。
「これが幸福の戦士... これからますます楽しくなりそうね...」
北村紬は次の日から学校に通い始めた。
正直言って、あの2人との関係は元に戻ることはないだろう。
でも、良いんだ。
1日休んだら、何だかとても気持ちが軽くなった。
それに、事件の真相を知っていて、紬のことを心配してくれていた人もいる...
これからまた少しずつ、人間関係の幅を1から広げなおしていけば良いんだ。
焦ることはない、きっと未来は明るい筈だ。




