Episode23 絶望の終焉
午前4時、上条たくとは人生で最後の決断をした。家族への感謝、数少ない友達への感謝...
過度がやたら角ばった文字。たくとはこの字が嫌いだ。
動きが硬い。もう少し柔らかい字を書きたい。
この癖をどうにか直そうと頑張ったこともあったけれど、駄目だった...
人生のすべてを終わらせる覚悟を固める。
30分ほど経った頃、彼はこの世を去った。
そのタイミングを見て目を覚ましたものがった。
平林莉子... 彼女もまたデストロアにそそのかされて幸福を手に入れるための不幸集めをすることを誓った人物。
上条たくとがこの世を去った後、行動を開始して良いとデストロイアから直接言われていたのだ。
全体的に黒が多めのファッションで、髪型はツインテール。
体系は体調が悪いのではないかと思われるほどやせており、手首には無数の傷跡がある。
心を落ち着かせるために自分で自分を傷つける行為。辞めたくても辞められない。
彼女は枕元に置いてあった鏡を手に取ると、鏡を見ながら言った。
「ようやく莉子の出番ね。待ちくたびれちゃった。その悲しみ、莉子が貰ってあげるわ。」
鏡を振りかざすと、鏡を通じて大量の不幸が奪われた。
南瀬ほのか、田中恵理、望月湊音、一ノ瀬海翔、白石梨乃の5人は目が覚めるほどの強烈な不幸のエネルギーを感じた。
今までにないほどの悲しみ、憎しみ、怒り...
正に様々な人間の感情が頂点に達したかのような激しい情動。
また、もう1人、それを感じ取っている者があった。
月島伊吹... 元デストロイアの手先だ。
今までの反省を生かして、何とか自分にできることをしたい。
自身の罪を償う意味も込めて、世界中の不幸をなくしたい。
彼女は手元のアミュレッタスクを見つめた。
これを使えば、また大切な人を失うかもしれない。
デストロイアが以前言っていた副作用がようやくわかった。
これを使う度、大切な人から見放されていく...
この前親友が1人消えた...
というか彼女から差別的な目で見られるようになった。
だけど、やるしかない。
伊吹は覚悟を決めた。
南瀬ほのか、田中恵理、望月湊音、一ノ瀬海翔の4人がたくとの心の中に入って幸福の戦士、デューグリュックに変身した。
中には巨大の雲のような姿をした不幸の残骸...
今までとはパワーが桁違いだ。
それに、大きな蜘蛛の巣をはっている。
「マジカルソードブレイク!」
不幸の残骸に向かって振りかざした湊音の剣が蜘蛛の糸に捉えられる。
巨大な雲の化け物がこちらに向かってくる。
「僕に手出しするとは良い度胸だ。サグレットアタック!」
しかし、海翔の攻撃を喰らっても蜘蛛の巣は少し揺れただけでびくともしない。
「こうなったら」
「マジカルツインバースト!」
ハイッタチしたほのかと恵理の間からオレンジ色の光が放たれる。
「いつの間にそんな力を手に入れたんだ。」、と少し満足げな海翔。
しかし、その攻撃も蜘蛛の巣の糸を一本切ったに留まった。
不幸の残骸が反撃を始める。
不幸の残骸の蜘蛛の糸がほのかと湊音の身体を捉える。
2人を助けようとして飛び出した恵理の身体も同様に巻き取られる。
海翔と不幸の残骸との一騎打ちが始まる。
意図の攻撃の合間を縫いながらバランスを取って戦うが、一瞬の隙をついて不幸の残骸が海翔の身体を捉えた。
不幸の残骸が蜘蛛の糸に捕まっているほのかの方に向かっていく。
「しまった」、白石梨乃は心の中でそう叫ぶと不幸の残骸に向けて弓を放った。
しかし、それも不幸の残骸の頑丈な牙によっていとも簡単に弾かれた。
全速力で空中に飛び出してきた彼女を巨大な糸が襲う。
一度は攻撃をかわしたものの、二度目の攻撃によって梨乃の身体も捉えられた。
「あなたこの前の」と恵理。
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ。」
内心焦りながら梨乃が応える。
不幸の残骸がほのかの方に向かっていく。
それを見た恵理が力を振り絞って、何とかほのかと手を繋ぐ。
だが、それ以上近づくことは出来ない。
不幸の残骸が2人に近づいていく。
逃げようとするが、絡みついている糸はとても頑丈でびくともしない。
不幸の残骸が2人に噛みつく。
2人が悲鳴をあげる。
不幸の残骸は2人から何かを吸い取った。
それが終わる頃には、はじめは抵抗していた2人も全く動かなくなった。
次に、不幸の残骸は望月湊音、白石梨乃、一ノ瀬海翔からも何かを吸い取った。
不幸の残骸が吸い取ったのは、彼らたちの幸福...
心の中の幸福を完全に失った時、人間は生きる気力を失う...
「まさかこんなことになるとは思わなかったけど、これで終わりね。さようなら、幸福の戦士たち...」
平林莉子は鏡の中の様子を見ながら呟いた。




