Episode11 過去の経験の呪縛
Xの変域が1≦X≦3の時のYの変域は3≦Y≦9...
安坂佳穂はノートに答えを書き終わって髪をかきむしった。
テニス部の練習がない時は、家で勉強に集中するのが日課になっていた。
あの女のことを考えると胸がむかむかするのだ。
「転校してきたばかりなのに生意気に優等生ぶりやがって」と心の中で毒づく。
「あの女」とは、ついこの間佳穂のいるクラス、1年1組に転校してきた白石梨乃のことである。
夏休みの間、勉強も音楽もスポーツも頑張って、あの女より強くなってやる、と心の中で誓う。
この世は弱肉強食、強くなければ生き残れないのだ。
なぜ、佳穂はそこまでして強さに固執するのか。
その理由は彼女のとある過去に起因する。
小学生の頃、無口だった彼女の姿は周りから見ると少し浮いた存在だった。
そんな彼女に、一番大きな女子のグループのリーダーが目を付けた。
「佳穂さんって無口で不気味だよね。」
「友達少なそう。」
最初はそのような悪口を言われる程度だったが、佳穂に対するそのグループの当たりは次第に強くなっていった。
悪口を言うだけから、身体を触られるようになり、最終的にはわざとぶつかられたり、叩かれたりするようになった。
その時に思ったのだ。
この世界では強い者が生き残る。
もっともっと強くなって、クラスの中心まで上り詰めなければ、、と。
彼女のその後と努力は凄まじく、クラスの中の一番大きい女子グループのリーダーにまで上り詰めた。
勉学だけでなく、音楽、体育、家事なども人一倍努力し人並み以上にはできるようになった。
だが、彼女にはまだ1つコンプレックスが残っている。
それは背が低いということだ。
身長130cm前後の彼女は背の順でも前の方であった。
その背の低さが多くのスポーツで災いするということは言うまでもないだろう。
佳穂には努力を積み重ねてクラスの中心まで上り詰めたという意識がはっきりある。
だが、あの女、白石梨乃はそんなことを考えたことはないだろう。
彼女はクラスメートに序列をつけるようなことはしない。
みんな1人の人間として対等な立場だと考えている。
更に身長も平均より高く、容姿も端麗である。
いじめられたり、からかわれたりした経験もないのだろう。
それが佳穂を強烈に苛立たせるのだ。
「対して苦労もしてない癖に... せっかく築き上げたうちの立場はどうなるのよ...」
そう、佳穂は白石梨乃の登場により、クラスの中の自分の立場が損なわれることを恐れているのだ...
その頃、月島伊吹はゲームセンターに遊びに来ていた。
ゲームが一段落した後、伊吹の前を高校生くらいの青年が通り過ぎた。
余り浮かない顔をしているように見えたので、伊吹は彼に目を付けた。
実はこの青年は今年、あと一歩というところで甲子園出場を逃したことをずっと後悔していたのだ。
「俺、いや、私があなたの不幸を減らしてやるよ。」
彼の心の中に入り込み、不幸を奪う。
「またデストロイアの先っぽい人が現れた。」
南瀬ほのかの家の中で、セイちゃんがほのかに告げた。
ほのかは異変がある心を探して、その中に入り込む。
その時にはもう、伊吹の姿はそこになかった。
「マジカルトランスフォーマー!」
ほのかが魔法少女、いや、デューグリュックに変身した。
少し遅れて望月湊音も心の中に入ってきた。
「スタイルチェンジ!」
彼もまたデューグリュックに変身した。
目の前の不幸の残骸はいつものそれよりも固く感じた。
湊音が振りかざした剣が固い身体の表面に跳ね返される。
「マジカルシュート!」
ほのかが放った必殺技も不幸の残骸の固い殻によって弾かれる。
どんな攻撃をしてもはじき返されてしまい、2人は後ずさりした。
その時、田中恵理雅心の中に入ってきた。
「マジカルトランスフォーマー!」、彼女もまたデューグリュックに変身した。
「恵理、遅いよ。」
「ごめんごめん。」
「一気に行くよ。」
「マジカルツインレインボー!」
「マジカルソードブレイク!」
ほのかと恵理の合体技と湊音の必殺技、2つが合わさって強烈な破壊力を生み出す。
ハートの形から出る虹色の光と開店して飛んでいく剣。
不幸の残骸は3人の合体技により、不幸の残骸は光となって消え去った。
3人は顔を見合わせて微笑むと変身を解除する。
仲間は多いほど心強い。




