1億時間メモリー
人間には生まれつき、面白いものに勘が鋭いである。
僕にとって、最近の面白いことは焼き鳥に異世界のハーブを粉々にして振ることだ。
何?面白くない?それは分かっている。けど、ゲームの世界に吸い込まれたことも確定できていない上に、ドラゴン娘以外のモンスターも確認できていない。あ、鍛冶屋のスキルを手に入れたら、ぜったいに金のバーベキューコンロを作りたい。だが、スキルを学ぶところが、鍛冶屋に訪ねるたびに、不審者と追い出される。
いつか焼き鳥の露店を出そう。スローライフも悪くないかも。
「3次式の展開?」
ドラゴン娘に数学1の問題の解説を強いられた。
「学校通わずに、高卒認定試験に受かりたい」
「そんなことばっかり思ったら、通信制高校でも通え」
「2000億円を日本中の人に山分けさせるぞ」
一人当たり1300円未満、定食屋で2セットくらいか。
彼女のわずかな言葉が僕の弱みを握った。
「はいよー へいらっしゃい! 一名様!」
僕が何かを持って揺らすふりをして、彼女のノートに叩く。
「和の立方、差の立方、立方の和、立方の差…ひとまずこの四つの式を暗記しよう…あ、その前に…自分で導出してみ?」
教本を持ち上げた。
家庭教師で時給2000円としたら、そのメモリーに僕の1億時間が入っている。
教育者への道がすぐになまける心で塞がれた。
「いいね。よくできた」
「ちゃんと見た?」
「例として、ドミノ倒しを想像して、真ん中のドミノ牌を見てみよう。倒されたかどうかはそのドミノ牌自体で決めるのではなく、前のドミノ牌によって倒れさたり倒されなかったりすることがわかるだろう。ちゃんと練習問題を繰り返して解けたら、いい点が取れるのだ」
「本当?なんか嬉しい」
「そうだねー。けど、繰り返しての人生はつまらない。たまにはカル〇スも飲みたいなー」
「ヤ〇ルトがあるのに、ヤ〇ルトを飲めたらいいじゃん。ちょうどここに売り残りが…」
ドラゴン娘が、ボックスに向けて見たら、売り残りのヤ〇ルトが地面にこぼれて、アリがたくさん集まった。
「くそっ、僕の考えていることがよくわかるね。ありありありがとう、まいどあり」
「ヤ〇ルトの黒酢もあるよ」
「勉強ばかりで遊ばないと、モナカはだめな子になる」
「先、英語で私の悪口を言った?」
「英語も学びたいなら、僕の異世界での起業に手伝いな…それに、先のは英語のことわざだ。ラテン語でローマ帝国の皇帝のアウグスティヌスの母、聖モナカの名として使われている」
「へぇー、私の名前は西洋風で全然知らなかったわ」
何とか中卒ドラゴンを誤魔化した。