桁違いじゃないか
もし人の柔軟性や機敏さの優れたタイプでない人なら、この微妙な雰囲気は多かれ少なかれ自らの気分を害し、不快にさせるだろう。なぜかというと、いま、まさに異世界人と談合しているから。
言葉が通じないが、どうやらキッチンの食材が誰かに盗まれたようだ。村人が互い庇うから僕をとがめたにしか見えない。外に来た怪しい服の着た人間は、身代わりに最適な素材なのだ。
通訳のドラゴン娘がいないのなら、なんとか自力で身を守るに努力しないとなぁ。
それを避けるか、全力疾走を続けるかを考えさせる時間すら少ない。もし失敗したら、尻を打つ刑を受けるのは未だしも、最悪の場合、首刎ねの刑に処されることも考えなければならない。
僕は彼らに断れない条件を出すつもりだ。
スマホの画面を明るくして、ライトも付いて、般若心経の内容を低語して、遠方からの祭司を演じたら?
向こうもビビったようだ。
待って、真犯人がこの場にいるのかも。
部屋の隅っこに、リネン糸がくちびるについているやつがいる。この時代の平民は、リネンをナプキンとして普段から使っていると見えない。
料理人にとって包丁を拭くものでもなさそう。
僕は隅っこに立った男の子を人たちの前に連れ出した。彼の顔を指差して、拍手をした。
男の子は店主の親戚とかかも。しかられただけで、その後は何もなかった。いい夜食もただでおごってもらった。
暇つぶしに、異世界の本を解読しながら、ドラゴン娘を待つ。
日本に戻ったら、街路灯とLEDとネオンの溢れた町に逆に酔いが出た。
僕は手持ちのUSBメモリーをじっと見ている。僕が握っているのは2000億円だぞ。そのパスワードを解けてら、この町から半径100キロの不動産を買えるかな。東京にも買えるかな。泉野の国でも作れるのかな。
妄想に夢中になった僕が、ガラゲーを使っているドラゴン娘に日雇いバイトを勧められた。彼女が勝手に僕のスマホを奪って、電話して、応募までした。
翌日、僕が黒いズボンを穿いで向かった先は、軽作業だった。数時間がグラーグの刑務所で数年間も拘束されたと感じてしまう。そして、手取り額が驚きの5300円だった。
疲れた僕はドラゴン娘からヤ〇ルトを買わせられて、また異世界に送還された。
弱さや無知は生存の妨げにはならない。妨げるのは傲慢だ。
「私、今日、非番だわ。一緒に探索しよう」
数日ぶりにドラゴン娘との異世界での共同行動、待つのをお楽しみと自己催眠しかない。
「あ、それ、食べたい。泉野さんも食べる?」
「自分のお金を使うのに、なぜ僕に聞く?まさか僕を主人と認めてくれているのか」
「そっか、泉野さんって、ドラゴンの爪楊枝になりたいの?」
メンヘラ女と異世界で大金持ち生活を送る。そう考えたら悪くないかも。