ノロ商会殺人事件(事件編)
僕たち一行は、また別の町へやってきた。
A国の王様が刻まれた金貨やら、揃わない銀のかたまりやら、旅するとともに、いろいろな通貨を目に通してきたけど、岩倉具視の肖像画が刻まれた紙の札が商会の換金係に手渡されるとは思わなかった。ここ、ノロ商会をわざっと選んだわけでもなく、単純に地元の人の歩く流れに合わせて、なんとなく換金できるところに着いただけ。
もう一度ドラゴンのお宝の金貨で換金した紙を見た。ローマ字2つとアラビア数字6つ、そして識別コードにローマ字がもう1つで、札の対角線の両端に500という数字が書かれている。どれもこれが日本銀行券の500円札と示している。
「ミスター泉野、500はこの世界の文字じゃないのだろう?」
「こんな薄い紙がお金に使えるのを見たのはめっただもの」
「ミミックのスキルが役に立たないくらい紙がお金で不思議と思われても仕方がないか。ああ、これは確かに僕らの国、日本のお金だ。でも今の日本の500円はコイン1枚になっている」
「500円ってタクシーにも乗れないんだわ」
「でもこれを今の日本に持って帰ってもヤ〇ルトを5本買えるのよ。発行は終わったけど、流通はできるままだ」
「へー、知らなかったわ」
魔女とミミックはともかく、ドラゴンちゃんの反応はあまりにも…まあいいっか。
「下手したら、あの数十年前に現金輸送車を3億円も強盗した犯人はこの異世界に隠しているかもしれないのよ」
人なみの高さのあるでっかい氷のブロックをロープで引っ張って女のエルフが僕と例の3人の間を横切った。
もっとも暑い季節がすぎてどこかの金持ちや貴族に提供するものか。
「ミスター泉野、妙に思わない?」
「なにか?」
「その氷、食られるレベルに思えないほど下が大きい黒ずみが付着しているけど?」
「氷だからとけっじまえば清潔的っじゃない?アナスタシアってさ、スキーで転んだ時に、食られるレベルじゃない雪を食っても大したことと思わないのだろうね」
「クリアファイル?」
もなかちゃんがゆかに落ちた濡れたクリアホルダーを拾い上げた。「練馬信用金庫」と書かれているこのクリアホルダーももちろん、この世界のものではない。
「おい!ここは関係者以外では立ち入り禁止だ!」
「お得意先にこんな態度か?」
僕は500円の札束をカウンター越して怒鳴ってくるおっさんに向いて振った。噓をついた。先は4人分の旅金を大きく上回って換金してしまったから行商人なみの大金を持っている。まあドラゴンの巣ではまだ大金あるから。
「これは失礼した。最近、ドロボウがカウンターを繰り返して荒らしてきたから。けど何もなくしていない」
妙だね。愉快犯か。
「ムグムグ」
「何を食っている?」
「最近は猫背気味だから。ヤ〇ルトのビタミン剤を補充しているわ」
「自爆営業はほどほどにしなさいよ」
「はーい」
舌を出してくちびる周りに残されたビタミン剤の粉を舐めるもなかちゃんもかわいい。
「くそじじめ!使えないお金をくれしやがって」
獣人が飛び込んで喧嘩を売っていた。
「確かめなかったお前が悪かったんだぞ!紙の金はこの町でしか使われないから、城壁を越えて使えないのも当然のこと。それにわしは耳が遠かったから、最初からこのボリュームで替えたい金貨を言うと声を掛けたら、わしもわかるはず」
「この町独有なの集団語はわからねぇってつーのだ!」
「ステパンったら、どうして今日はいらいらしているの?」
女の受付嬢が姿を現した。すると獣人も落ち着いてきた。
「彼らはどんなご関係?」
僕はホールのコーナーに掃除している子にゴシップ話を聞いた。
「ステパンはラリサに好感を持っているんだって。彼は重武器を使う力強い蛮族に見えるけど、意外と猟師とアーチャーだよ」
「へー。ところで、あなたの手の傷跡は?」
「何でもない!」
彼女は俯いて走り去った。左手に締めた糸のような傷跡だ。
振り向いて見たのは、獣人が右手で矢を握って、左手でろうを矢の先端に塗っている。
「ねぇーねぇってば」
ミミックに揺らされた。
「食事は大事だ」
「そうだね、ほらそこの2人、二匹、行こう」
時計を持っていないから。1時間くらいあとか。再びノロ商会を通りかかったら、さっきの不愛想なおっさんの叫び声を聞こえた。
4人揃って中に駆け付けたら、おっさんは首を絞められたまま、カウンター後ろの天井に吊られて、宙に浮いていた。
これは…殺人事件のにおい!




