胃がいたくなる異世界
「目の前に立ったのは、生まれて初めて一緒に一日を過ごした家族以外の男の人だ。今までそんなことをした記憶はない。彼は私にかなり気を配り、まるで数時間のうちに人生での全ての経験を伝えようとしてくれているかのようだった。」
「彼女は多くの人を知っていた。 特に何人かと会話が止まないほどつばのしぶきが乱れ飛んでいて、その間に挟んて二言三言で僕を紹介してくれた。」
コミュ障の日記交換読書会?とか名前を付けずに気軽に彼女と始まった。僕からの提案だった。
僕はこのようなゆったりとした、気ままな日々を楽しんでいる。
「いい声しているじゃないか?オーディオブックを録音して売れるのなら、ヤ〇ルトをポイント消化できるのかも」
「消化するならヤ〇ルト…アナウンサーになる素質はないわ。」
「CMなんか挿入してもお代は出ないけど…何事も最初は難しいよ。マイクのテストとして、ひとまず「フス ロダー」とか言ってみ?」
「フス ロダー」
迫力がない。ドラゴンの姿で叫んだほうが完成度が高くなるかも。
「では、泉野さんの、足でもできる暗算の結果は、どうして、模範答案と乖離しているの?」
まあ、こんなことしたかった理由は、家庭教師としての苦痛さからの息抜きだった。
「おやすみ、僕のかわいい猫ちゃん。」
僕は自分に銃を撃ったふりをして、彼女の疑問を無視した。
負けず嫌い男は中卒ドラゴン娘のボランティア教師になった末路は、喜び勇んで虹を高くジャンプして見上げて雷に打たれてしまうような気分だった。
「そのことより、僕の異世界の事業計画案を見て見よう」
ここにカジノ、そこにショッピングモール…僕の得意満面はすぐに、彼女に容赦なく泡にされる。
「待って、それは新聞に載ったIR特区?なんかじゃないの?」
「あ、間違った。これ、コンビニエンスストアが正しいのだ」
「物流はどうやって解決するの?私はドラゴン・ロジスティクスなんかしないわ」
否決された。
「異世界でネットカフェ」
「ネット回線を引き込める?」
「異世界でモンスター討伐」
「私がエネミーになるから却下」
「異世界でのんびり農業…」
「私の親戚が荒れた畑があるから、家庭菜園をいつでもできるわ。それに、害虫駆除剤を日本から持ち込むことは公害を起こすじゃないかとか…」
「異世界で…」
「言っておくけど、異世界でも、ドラゴンでも、ゲームじゃないわ。」
詰まって言うことがなくなった僕は、再び問題集に目を移した。
「…あ、これ、印刷ミスだね。それは次の問題の模範答案…答えを見たら、解く意味もなくなるから、僕が解説してあげよう…」