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配信やってみる《なんかメンバーが増えた》

 ダンジョン内でピンチに陥った場合、救助要請を出すことができる。救助要請を出した場合、外部の救助隊や、同じダンジョン内にいるハンターに要請がかかるようになっている。


《救助要請?》

《場所はどこだろ、近いといいけど》

《まさか凸しに来たライバーがヤバくなって救助要請したとかじゃないよな?》

《今渋谷ダンジョン封鎖されてるみたいだからそれはない》

《なんで封鎖されてるの?》

《理由なんて一つしかないだろ》


「……あ、下層か」


 スマホに来た通知から、下層からの救助要請だと知った輝夜はそう呟く。


《下層の救助要請?》

《ガチのやつだ》

《下層行くの?》


 下層からの救助要請だと知って、輝夜は少し考える。救助要請の出ている場所は、ここから一つ下の階層である。一つ下と言っても、モンスターは中層と比べて格段に強くなる。


「サッと行ってパッと助ければいいか」


 魔力に余裕を持ったまま帰りたい輝夜だったが、こればかりは仕方がないと割りきり、鞄を担いでボス部屋の奥へ向かう。


〈何? どうなってるんだ? 帰るんじゃないのか?〉

《〈下層から救助要請が来たから助けに行くみたい〉》

〈マジか、救助要請とはいえ下層は流石に危険だぞ〉


 心配するコメント欄をよそに、ボス部屋を抜けて下層に降りる。

 ブーストで身体能力を上げて、一気に駆け抜ける。

 そして、救助要請のあったポイントまで来た輝夜は、その光景を見て唖然とする。


 周囲には無数に広がるモンスターの残骸。目算で二十体は軽く越えるほどの量がある。

 そして、その中央で今にも倒れそうな足取りでふらふらと歩く男が一人。


「大丈夫?」


 輝夜が男の肩を抱くようにして支えると、男は今にも消え入りそうな声で呟いた。


「た、頼む……水……」


◇◆◇◆


「いやぁー助かったでホンマ」


 輝夜の渡した水を飲み干し、おにぎりを二つほど平らげた男は、一息つくために煙草を咥えて火をつける。

 ハンター業のみで生計を立てる人間の事をプロハンターと呼び、彼、氷室透はプロの中でも一、二を争う実力者として知られていた。


「水と食糧欲しさに救助要請出す人、初めて見たよ」


 そんな氷室に対して、輝夜はその場にしゃがみながら呆れた様子でそう呟く。


《これ、トッププロの魔葬屋だよな》

《魔葬屋が救助要請出すのか……》

〈彼、こっちでも有名だよ。ラストサムライだろ〉

《ただ水欲しさに救助要請……?トッププロが……?》

《もうわけわかんねぇ》


「いやぁ、食糧と水を落としてしもてなぁ、昨日から飲まず食わずやってん」

「そんな状態でこれ全部やったの?」


 輝夜は辺り一面に転がるモンスターの残骸に目を向けながらそう尋ねる。


「ちょっと(トラップ)踏んでもうてな。流石に死ぬか思たわ」


 二人が他愛ない会話をしていると、モンスターの残骸の中から、まだ息のあったモンスターが起き上がる。

 豚の頭を持ち、身の丈が二メートルを越える人型のモンスター、オークは丸太のような腕を振り上げて二人に襲いかかる。

 氷室がそれに気付いて動くよりも先に、輝夜が拳銃を抜いてモンスターの額と胸を撃ち抜く。


『あんた、それ高いやつじゃないの?』

「あっ」


 銀の弾丸をカートリッジに入れたままにしていた事を思いだして固まる。

 一発二万円の弾を不用意に使ってしまったことを後悔して頭を抱える輝夜。


《ドジっ娘属性もあったのか》

《ポンコツかわいい》


「大した腕やな」


 刀に伸ばした手を下ろし、氷室はそう言う。


「まだこの先も潜るんか? もしそうなら一緒にどうや?」


 氷室は煙草の火を岩肌に押し付けて消し、吸殻を携帯灰皿に捨てる。


「……いや、魔力があまり残ってないから」


 輝夜は銀の弾丸を無駄にしたことを引きずり、テンション低めにそう答える。


「なら、これやるわ」


 氷室は懐から青色の液体の入った小瓶を三つ取り出して輝夜に渡す。コルクでしっかりと栓をされ、アンティークにも見えるそれを受け取った輝夜は、それを見て驚いた表情で口を開く。


「これ、マナポーションじゃん。貰えないよ高いのに」

「助けて貰った礼や」

「いや、礼にしたって貰いすぎだよ」


 一本十万のマナポーションが三つ。合計三十万円である。礼にしても輝夜がやったのは水と食糧を分けただけ。銀の弾丸を換算したとしてもマナポーション一つ分にも満たない。


「ええから、貰ってくれ」

 

 小瓶を返そうとする輝夜の手を押し返し、半ば強引に受け取らせる男。

 

「わかったよ」


 輝夜はその頑な様子を見て、諦めてその小瓶を受け取る。


「よし、ほなこれで魔力の心配はなくなったんやし……行くやろ?」


 ニヤリと笑みを浮かべる氷室。

 それを見た輝夜は、初めから下層へ連れていく事が目的でマナポーションを渡したんだろうと思いながらも、わかったと答える。


《マジか! こんなノリでチーム組むのか》

《突然のコラボ!? けど、配信してること許可取らなくて良いのかな?》

《多分、配信してること自体を忘れてると思う……》

《ワンチャン魔葬屋の事務所からアーカイブ消されるかもだから、今しか見れないかも》

《今のうちにSNSで拡散しとこうぜ》

〈日本語は少ししかわからないんだが、もしかして魔葬屋と銀の弾丸のチームアップか?〉

《銀の弾丸って?》

《海外ではそう言う二つ名がついたらしい》

《確かに銀髪だしぴったりなネーミング》

《〈どうやらそうみたい〉》

〈魔葬屋と銀の弾丸なんて、夢のようなコラボじゃないか! 皆に教えないと!〉


 トッププロとして名高い氷室と、注目を集めている輝夜との突然のチームアップに、コメント欄は一気に加速し、その話題性からSNSでは一気に拡散され、輝夜の配信の同接は六十万人を突破しつつあった。


「ワイは氷室透」

「朱月輝夜、こっちはナディ」


《名乗った!?》

《皆、あかつきかぐやで調べろ!》

《とりあえず、プロのハンター一覧見てみる》

〈どうしたんだ? 誰か状況を教えてくれないか?〉

《〈銀髪のハンターが名乗ったんだ。あかつきかぐやって名前〉》

〈なるほど、ありがとう。僕も調べてみるよ〉


 輝夜が名乗ったことでコメント欄はさらに加速する。

 これまで一切謎であった素性だったが、本人があっさりと名乗ったことで、かつてない程の盛り上がりを見せる。あかつきかぐやというワードはSNSのトレンドに乗り、その日最も検索されたワードとなる。


 そんなことになっているなどとは知るよしもなく、輝夜は呑気に氷室に話しかける。


「ここの下層って、地図はどれくらいまで出来てるの?」

「まだまだ入口周辺だけやな。何分通路が多い上に迷路みたいに入り組んどるからな。大分難航しとるみたいや」


 氷室はそう言って懐からこのダンジョンの地図を取り出して広げる。図面はほんの一部までしか描かれておらず、ほとんどが余白である。付け加えて、描かれている通路は非常に複雑であり、一目見ただけではダンジョンの内部がどうなっているのか見当もつかない。


「確かに複雑だけど、ここをこう行けばいいよ」

「お、未踏破エリアまで最短で行けるな」


 地図に記された道を指でなぞる輝夜を見て、氷室は感心する。

 輝夜の示した道順を二人が並んで歩き、その後ろを、ピッタリとくっつくようにナディが付いて飛ぶ。

 下層ともなるとモンスターの数も中層のそれと比べると非常に多い。

 ほんの少し進んだだけで、輝夜と氷室の二人は肌に突き刺さるような鋭い殺気に足を止める。

 輝夜はほんの少しだけ腰を落とし、トリガーに指を当てて周囲を警戒する。

 周囲に何も見えないが、殺気は変わらず輝夜達に向けられているが、姿を現す様子はなく辺りが沈黙に包まれる。


「――来るで」


 鋭い刃が空気を裂いた音で、沈黙が破られた。

 巨大な斧を持った三メートルを越える巨体をもつ牛頭人身が突如として壁を破壊して現れ、輝夜に襲い掛かった。

 氷室の注意もあり、輝夜は難なくその攻撃を避ける。


「「ミノタウロス!」」


 輝夜と氷室は目を輝かせてそう言う。

 ミノタウロス。恵まれた巨体と鎧のように全身を覆う筋肉から繰り出される一撃は、岩すらも容易く砕くほどの威力を有しており、ダンジョンの番人とも呼ばれている。

 その反面、ミノタウロスの肉は非常に美味である。

 下層にしか現れず足も早いため、流通量が非常に少ないことからグラム単価で五万は下らない。


 ミノタウロスを見るや否や、氷室は刀を抜いて満面の笑みを浮かべてミノタウロスに向かって駆け出す。振り下ろされた斧を回避すると、その斧を踏み台にして正確に心臓を一突きする。

 それと同時に輝夜の放った二発の弾丸がミノタウロスの頭部を正確に撃ち抜く。


「肉に傷ついてへんやろな」

「当たり前じゃん」


 氷室が床に着地するのと同時に、ミノタウロスの巨体が地面に倒れ込み、重々しい地響きを発生させる。

 

《ふぁっ!?》

《瞬殺www》

《ミノタウロスってこんなに弱かったっけ?》

《間違っても挑むなよ。普通は死ぬぞ》

〈うちのパーティー、回復魔法かけ続けながら十人で囲ってようやく倒したのに……〉

〈ちょっと凄すぎて引いてる……〉


「この先、ちょっと歩いたら安全地帯があったはずや」


 氷室は横たわるミノタウロスの死体を軽々しく持ち上げて通路の奥を顎で差す。

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